第8話 1週間
(イアン視点)
「ありがとうメモリアル…見違えたよ。まるで、エマがまだ元気だった頃のようだ」
庭の花壇は枯れた花を除き綺麗な花に植え替えられ、家の中のゴミはまとめて燃やせるものは燃やし、それ以外は袋にまとめて業者を呼び、床や壁は磨かれ綺麗になり、ここに引っ越してきた時の事を思い出させるようだった。
「満足していただけたなら光栄です。マスター」
表情を変えないままのメモリアルに笑顔で答える。
「僕もしっかり磨かれて…ありがとう。これで彼女に会っても怒られずにすむよ」
彼女の手紙に同封されていた、赤い色のメモリーカード。
手紙によると、それを配達人に使ってもらう事で奇跡のようなことが起こるらしい。
ただし、それは1週間だけ。
彼女は僕が今どんな状態か、わかっていたんだろう。
配達人であるメモリアルに特記事項として伝えてあったそうだ。
“家とイアンを綺麗にしてあげてください”
こんなお願いまで聞いてくれるなんて、凄いサービスだと思う。
メモリアルカンパニーという名前は初めて聞いた。
エマがいつ依頼をしていたのかもわからない。
…けど、いいんだ。
エマの手紙は本物だった。
だから僕も信じようと思った。
手紙の内容も、メモリアルも。
「では、心の準備はよろしいですか?」
僕は静かに頷いた。
メモリアルは後ろを向き、自身の首の後ろ辺りを押した。
ジーッと何かが動く音がして、皮膚が裏返る。
「ここに同封されているメモリーカードを入れてください」
よく見ると、そこにはメモリーカードを入れる窪みがあるようだ。
言われたとおりに入れると、ジーッと音が鳴ってもう一度皮膚が反転した。
「…読み込みました。では、マスター、開始の言葉を言ってください」
それは手紙の最後にあった言葉。
「…おやすみ。また1週間後に起こすからね」
「はい、マスター。どうぞ、楽しい1週間を」
メモリアルの瞳が閉じられた。
断続的な機械音が繰り返される。
どのくらい時間が経っただろう。
10分か20分か、もしくは1分くらいだったかもしれない。
その瞳がゆっくり開く。
何も言葉を発さない彼女に…僕はたまらず声をかけた。
「…エマ。…エマ?聞こえるかい?僕がわかる…?」
あり得るはずが無いと思いながら…でも、もしかしたら、なんて期待を抱きながら。
「…ふふっ、当たり前でしょ。私の愛しいあなた…おはよう、イアン。あらあら、どうしたの?そんなに泣いて…」
涙を止めることなんて出来なかった。
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