第7話 エマの手紙

怖がりで寂しがり屋のイアンへ

この手紙を読んでる頃、私はきっとあなたより先に旅立っているんでしょう。


「…そうだね、うん。置いていかれちゃったよ」


あなたの事だから、私がいなくなったら身だしなみを綺麗にしたり、お庭の花壇だって世話をサボって雑草でいっぱいにしている事でしょう。


「あ、はは。バレバレだったか」


日々を無気力に過ごしている事でしょう。


「うん…うん…」


だから私はこう言うわ。

今のあなたは、すごくカッコ悪い!


「………」


おじいちゃんを根負けさせたあなたは?

ご両親に歯向かってまで私と結婚したあなたは?

私が好きになったイアンは、とってもカッコいい人なのよ。


「……エマ」


そんなイアンに私から最後のプレゼントがあります。

手紙と同封しているメモリーカードがあるでしょ?

それを配達人さんに渡して、こう言うの…





しばらくして、イアン様から呼ばれた私は彼の家へと戻りました。


「ありがとう。大切な手紙を届けてくれて…」

「いいえ、これはマスターから与えられた大事な課題ですから」


何かを言い淀むイアン様の様子を見て、私はマスターから言うように言われた言葉をさらに紡ぎました。



「同封のメモリーカードを使用なさる場合は、一時的なマスター登録をお願い致します。そして、メモリーカードは一度使うと二度と使用できませんので、考えてお使いください」


何かを決意したような顔で、イアン様はこちらを見た。



「…お願いします。1週間だけでもいい。夢を見せてください」


震える手で差し出された赤いメモリーカード。


「仮マスター登録をお願いします。宛名はイアン。差出人はエマ。パスワードは…ローガン…師匠」


パスワードを呟いた時、イアン様が嗚咽を漏らした。


「…登録いたしました。これよりあなたをマスターと呼ばせていただきます。では、メモリーカードを使用する前に、この家の掃除とあなた様の身の回りのケアを行いたいと思います。ご許可を」


「えっ?は、はい」


戸惑いながらも、マスターは是と答えてくださいました。


大切なひとときの為です。

マスターが満足していただける事、それが私の喜びとなるのですから。

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