第6話 お届けに参りました

「…地図によると、どうやらこの家のようですね」


かつて庭であっただろう場所は草が生え放題。

廃墟と言われてもおかしくない程に廃れた家ですが…。


ドアにかろうじてついているはずれ掛けのノッカーを使うと、音を立ててはずれてしまい、私はしばし呆然としてしまいました。


この場合、どうすれば正解なのでしょうか…

残念ながら、工具を持っていないのでどうしようも…あ、そうです。それなら、家主様に事情を話して工具をお借り出来ないか聞いてみましょう。


ノッカーを手に持ち、片手でドアをノックします。


少し待っても何も音がして来ないので、再度ノックします。


…反応がありません。


仕方がないので、私は同じ動作を繰り返すことにしました。



そして1000回を超えた頃でしょうか…ようやく扉が開かれたのです。



「……なにか?」


そこから現れたのは、やつれた顔に伸ばし放題の髭、憔悴していると言う言葉が当てはまるような男性でした。


宛先の家に着いて、誰かが対応してくださった時、マスターにこう言いなさいと言われた言葉があります。



「初めまして。私はメモリアルカンパニーの自動人形(オートマタ)メモリアルと申します。お手紙を届けに参りました」



手紙、と言う言葉に顔を顰められましたが、気にする事なく続けます。



「イアン・セイゼル様でしょうか?エマ様より、お手紙と1週間の想い出の時間をお預かりしております」


続いた言葉に、イアン様は大きく瞳を見開かれ、小刻みに震えていらっしゃいました。


「…エマ……エマって言ったのか…エマ…あ…あぁ…っ」


覆いきれない手の隙間から、大粒の涙が溢れていきます。

エマという人物は彼にとって、とても大切な方だったのでしょう。

学習を終え、“彼女”の想いに触れた私には少しだけわかるような気がします。



「それと…先程こちらの家のノッカーを使用しようとした所、壊してしまい…申し訳ありませんが工具をお貸しいただければ、と」


「あぁ、あれは元々壊れていたんだ。大丈夫、僕が後で直しておくよ。それより!エマからの手紙をくれないか!?」


私が申し出ればイアン様は鼻を啜りながらも答え、待ちきれないといった様子でこちらを見てきます。


「こちらになります」


私は鞄から1通の手紙を取り出し、イアン様に渡しました。

差し出されたそれを震える手で受け取り、恐る恐る開いた彼は再度涙を流しました。



「…この筆跡、丸みを帯びた文字…彼女だ。彼女のものに違いない…」


静かに手紙を読み始めた彼を気遣い、私は一旦ドアの外へ向かいました。

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