第4話 君がいればそれで

「…家督を捨てて5年は経つのに…今更戻る気も、和解する気もないよ」


ひっそりエマと交流をはじめ、彼女の祖父を師匠と仰ぎ、鍛治の世界に魅入られていったイアンは幾度となく両親と話し合いを重ね、夢を語り…当然のように鍛治師を目指す道は許されなかった。


師匠にも言われた事がある。


所作や立ち振る舞いから滲み出る高貴さは拭えなかった。ゆえに、貴族の坊ちゃんには無理だ。

許されるはずがないと…


それでもイアンは諦めず通い続け、エマとも交流を深めていき…最終的には孫娘の説得も手伝って、イアンの弟子入りを許可したのである。


そうしてイアンの歳が16を過ぎた頃、彼に縁談が持ち上がり、エマが身を引こうとした為、子爵家と縁を切り市井で鍛治師となり、エマと共に生きていこうと決めたのである。



「何度でも言うけど、私は読んだ方がいいと思うわ。もし私がいなくなった…っ」

「ダメ。それだけは言わないで、お願い…エマ」


口を手で塞がれたエマは優しく笑う。


「…笑わないでよ。本当に怖いんだ…君も、いなくなったら…」


エマの祖父は昨年の冬、弟子であるイアンが免許皆伝を受けた後、気が抜けたように床に臥し、そのまま帰らぬ人となった。


「ふふ、相変わらずあなたは怖がりね」


エマの両親はエマが5歳の頃に、馬車の事故に巻き込まれて亡くなったらしい。

それからずっと唯一の縁戚である祖父と2人で暮らしてきたそうだ。


「…ごめんなさい。せめて私達に子供がいれば…」


結婚してすぐ病を発症した彼女は、子供を作るわけにはいかなかった。

この病は、子に悪影響をもたらす可能性がある。

生まれてきた子が同じ病になる可能性だってあるのだ。


「いいんだ。君がいるから僕は大丈夫」


だから、と続く言葉をイアンは飲み込んだ。

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