大学時代

大学に入学して、20歳になったとき。

あの長野の小学校のクラスの同窓会をやるという話が先生から来ました。

(先生とは年賀状のやりとりは続いていたのです)


仲の良かった2~3人と裕子さんのことしか覚えていなかった僕は、同窓会に行くかどうか悩みました。

でも裕子さんに会えるまたと無いチャンス、これを逃すわけにはいかない。

僕は出席することにし、長野へ向かいました。

(大学も実家から通っていた僕にとって、これが初めての一人旅でした)


同窓会は夜に開催されるので、昼に長野に着いた僕は、懐かしい場所を見て回りました。

僕が住んでいた家は、10年も経っているのに、まだそこにそのまま残っていました。

裕子さんの家も記憶通りの場所にありました。

よく遊んだ公園にも行ってみました。

小学校へ通った道も歩きました。(通学路の一部をさっぱり覚えておらず、どこから道が続いていたか疑問だったのですが、実際に歩いてみて、「ああ、そういえばこんな道があった!」と思い出しました)


夜になって、同窓会の会場へ行きました。

僕のことを覚えていてくれた人は結構いたのですが、僕は相手のことを覚えておらず・思い出せず、申し訳なくて、案の定、居心地の悪い思いをしました。

でも、仲の良かった友達との再会は嬉しく、楽しかったです。


そして。

裕子さんも来ていました。

友達と談笑する裕子さんはとても綺麗で、僕は裕子さんに話しかけられないまま、ちらちらと目で追っていました。

みんなが記念撮影を始めたとき、僕は思い切って、裕子さんと2人で写真を撮ってもらうようお願いしました。

裕子さんは快く承諾してくれました。


同窓会が終わり、二次会へ行く人と帰る人に分かれました。

裕子さんは帰るとのことだったので、僕は送っていく係として立候補しました。

同じ方向に一緒に帰る人もいたのですが、彼女達は気を利かせてくれたのか、途中で僕と裕子さんを2人きりにしてくれました。


僕は裕子さんに、長野から引っ越したときに書いてくれた手紙のことを覚えているか、聞いてみました。

裕子さんは、覚えていませんでした。

「それは残念」

僕は笑いました。


裕子さんを家まで送って

「おやすみなさい」

と笑顔で別れた後、僕は電柱に拳を一発叩きつけました。


・・・


それから何日か過ぎて、同窓会で撮ってもらった写真が送られてきました。

写真に写っている裕子さんはちょっと変な顔をしていて(一緒に写っている僕自身も他人のことは言えない顔でしたが)、実物の方がずっと綺麗だった、と思いました。ちょっと悪いかな?


そして、写真と一緒に、みんなの現住所が同封されていました。

裕子さんは大学に通うために親元を離れていると聞いていましたが、寮の住所が記載されていました。


今度こそ、僕は裕子さんに手紙を出しました。

「ずっと好きでした」

「同窓会で会って、本当に好きになりました」


手紙をポストに投函すると、「好き」と書いた恥ずかしさと返事の待ち遠しさが相まって嬉しくなり、顔が自然とニコニコ笑顔になって止められませんでした。体がむずむずし、帰り道はつい走ってしまいました。

道行く人は、そんな僕を見て、さぞ奇異に思ったことでしょう。

なにせ家に帰ったら、高校生の弟から「なにニヤニヤしてるんだ、気持ち悪い」と言われてしまいましたから。


・・・


数週間後、裕子さんから返事が届きました。

「私には片想いの人がいます。その人のことを考えると苦しいくらいです」

「だから他の人のことは考えられません」

「こういう事があるから、同窓会には行きたくありませんでした。二度と同窓会には行きません」


僕は固まりました。

僕は愚かにも、自分が振られる可能性を全く考えていなかったのです。

本当に大馬鹿者です。


僕は

「すみませんでした」

「皆のことを覚えていない自分が同窓会に行くより、裕子さんが行く方がいい。僕はもう同窓会に行かないから、裕子さんは行ってください」

と返すのが精一杯でした。

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