第28話・大規模討伐2

 夜行性ではないが夜目も効く為に、オオワシは月明り程度の光があれば夜でも活動するという。ただ、昼間よりは低いところを飛ぶようになるらしく、弓で射れる確率は上がる。勿論、2メートルもある巨体には一本二本を射ったくらいでは致命傷にもならないが。


 石壁の門のすぐ手前の広場で、ジークはギルドが用意した幌馬車の荷台に他の冒険者達と一緒に乗り込むと、ローブの中に抱えたティグに声を掛ける。


「おとなしくしてて」


 ギルドで依頼の受諾手続きを終えた後、宿屋に猫を迎えに戻り、その足で集合場所に指定された広場へとやってきた。あの大剣使いの言った通り、古参の冒険者が大半で、ジークの顔を見てガッツポーズする者も何人かいた。


 弓使いと魔法使いばかりかと思っていたが、剣士や槍使いの姿もあった。落下してきた物を仕留める役割なのだろう。


 幌馬車の縁に凭れていると、馬の揺れとお腹に抱きかかえている猫の体温がジークを眠りの世界へと誘っていく。眼を閉じると周りの冒険者達が思い思いに会話している声が耳に届いていたが、それもいつの間にか聞こえなくなっていた。


 頭をもたげて動かなくなったジークの顔をティグは不思議そうに覗き込み、その揺れる前髪を前脚でちょいと触れてみる。いつもなら注意されてしまうところだが、ジークは熟睡している。ローブの中からジークの髪にちょっかいを出している縞模様の小さな足は、荷台で雑談していた他の冒険者達からの注目を浴び始めていた。


「ジーク、よっぽど疲れてんだな。全然、起きねぇ」

「無敵の魔導師も、虎にはやられっぱなしじゃねーか」


 眠るジークを気遣ってか、それとも小さな獣を驚かさないようにか、冒険者達はヒソヒソと声を落として話している。

 車輪が小石に乗り上げてガタンと大きく跳ねた時には、ジークが起きてしまわないかと皆でハラハラと見守り、寝続ける青年に胸を撫でおろしていた。


 農村の広場的な開けた場所に着くと、ジーク達は馬車から降り立った。それなりに長い道中だったはずが、その馬車の面子では移動疲れを感じている者は誰も居なかった。ぐっすり眠ったことですっきりした面持ちのジークを筆頭に、ずっと飽きずにティグに注目して楽しんでいた面々。

 先に着いていた別の馬車に乗っていた者達は馬酔いでぐったりしていたり、狭い荷台で軽い小競り合いが起きて険悪な雰囲気になっていたりと、移動だけですっかり疲れ切っている様子だった為、指揮を執るギルド職員は不思議そうに首を傾げていた。


「オオワシ討伐へ、ご協力をありがとうございます。あと1台が到着次第、指定した6か所の拠点へと移動していただきます」


 地図を広げ、農村を囲むように印を付けられた拠点を示しながら、職員が大まかな指示を出していく。彼の説明によれば、オオワシの巣がすでに確認されているのは3つ。残りは魔鳥の目撃情報から巣がある可能性があると予測される場所だった。

 4人一組で、それぞれの拠点にてオオワシを待ち伏せし、討伐する算段だ。まだ巣の正確な位置が把握できていない拠点は、まず巣の確認から始めなくてはならない。


「巣の位置が把握できていない拠点は、どの方向から現れるか予測できないので、細心の注意を払って向かうように」


 元冒険者だという体躯の良い職員は、ざわつく冒険者達を制しながら順に組み合わせを発表していった。ギルドで古参の者ばかりを誘っていた理由は、属性や実力を均等に分ける為のようだった。


 3台目の馬車の到着を待って、各々が指示された拠点へ向けて出発する。後続の馬車の面子も例に漏れず、ぐったりと疲れ切った顔をして降りて来ていたが、容赦なく各自の配置先へと歩かされていた。


 ジーク達が任されたのは、農村地帯の東に位置する林の中にある拠点5だ。魔鳥が頻繁に出入りしているのは目撃されているが、詳しい巣の位置までは分からない場所。

 一緒に配属されたのは、弓使いのマリュー、剣士のシンバ、魔法使いのエルだった。エル以外は顔は知っているけれどという程度の認識だったが、向こうはジークのことはよく知っている風で、同じグループに栗色の髪の青年の名があったのを拳を上げて喜んでいた。


「巣って、どうやって探すんだ?」

「オオワシが戻って来るのを待ち伏せして見つけろって言ってたけど、いつ戻ってくるんだ?」


 ギルド員は簡単に言ってのけていたが、親鳥を見つけないことには張り込み先すら確保できそうもない。しかも、この林はなかなかな規模だ。まともにやっていてもラチがあかない。


「魔鳥の気配とか、そういうの分かる魔法ってないのかよ?」

「そんな都合のいい魔法なんてねえよ……多分」


 多分、と言いながらエルが伺うようにジークの方を見た。もしかして魔導師なら何か使えそうなのを知っているかもと若干の期待を込めるが、容赦なく首を横に振られる。


「あ、でも、ティグなら分かるかも」

「あー、その手があったな」


 魔の森で行方不明になっていた魔法使いのマックスを探し出したティグだ、森よりも狭い範囲での捜索は訳ないだろう。ローブの中から顔だけ出していた猫を、そっと地面へ下ろすと、縞模様のトラ猫は身体をフルフルと震わせながら伸ばした。


「ティグ、オオワシの巣を探してるんだけど、どこにあるか分かるかな?」

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