転生しても、女に振り回されそうになった俺は、暴君になる事にした。
前森コウセイ
第一部 暴君立志編
王太子、婚約破棄されて暴君を志す
第1話 1
――ああ、またなのか。
私はなぜかそう思った。
「――オレア王子! セリスとは別れてもらいたい!」
「ごめんなさい。殿下。殿下とは結婚できません。
――わたし、真実の愛を見つけたのです……」
肩を寄せ合って告げる二人に、私は諦めとともにため息を吐き。
「――わかっ……」
了承の言葉を口にしようとした所で――
俺はとことん、女運のない男だった。
男子校だった為に学生時代の恋愛経験はゼロのまま、大学時代に初めてできた彼女と付き合い、結婚まで考えはじめた頃、彼女は俺のクレジットカードを勝手に使い、五十万もの借金を負わせて行方をくらませた。
爪に火を灯すような暮らしで借金を返し終え、次に好きになったのは職場の先輩。
「――ごめんなさい。弟にしか見えない」
そう言って俺をフッた彼女は、俺の後輩――しかも、仕事をサボってばかりいるようなふざけた奴――と付き合い始めた。
ショックでその職場を辞め、街角でばったりと彼女と出会った時、
「あんた、真面目すぎるから、付き合っても面白みなさそうだったから……」
大きくなったお腹をさすりながら、彼女はそう言った。
まるで逃げ出すように街を離れ、別の街で就職した俺は、後輩の女子に好意を持たれた。
けれど、恋愛に疲れていた俺は乗り気になれず、あくまで友達として接していたつもりだった。
だが、その後輩女子に好意を寄せていた男が、俺に嫉妬し、職場内であることないこと吹聴しはじめたらしい。
俺はそれに気づけていなかった。
当然のように、後輩女子の耳にも入り、気づいた頃には、俺はすっかりストーカー扱いだ。
誤解を解きたくて、話し合いの食事の席を同僚に設けてもらって出向いたその場に、彼女に好意を寄せていた男が、護衛と称して現れて、勝ち誇った笑みを浮かべた時になってようやく、俺はハメられた事に気づいた。
「――連絡先を消して、これに署名してください」
スマホの連絡先を目の前で消させられ、『今後、いっさい話しかけない』といった内容の書面にサインを強要された時、俺はもう誤解を解ける状態ではないのだと悟った。
彼女の中では完全に、俺はストーカーで確定していたのだ。
失意の中で出された食事は喉を通らず、金だけ払って店を出た。
酒は一杯しか呑んでないのに、目の前がぐにゃぐにゃと揺れて、足元が定まらない。
少し先を行く、後輩女子とあの男が腕を組んで横断歩道を渡るのが見えた。
最後に、ストーカーという部分だけは否定したくて、俺は駆け出し――横手から突っ込んできたパトカーにはねられた。
今日は春待ちの夜会だった。
パーティホールに集った貴族達の間を、補佐のソフィアをともなって抜けて、段上に設けられた席に向かう。
――オレア・カイ・ホルテッサ。
それがこのホルテッサ王国の王太子たる私の名。
幼い頃から王位を継ぐ為、厳しくしつけられ、鍛えられた私に、出席している貴族達は忠誠を示す臣下の礼を取り、令嬢達は頬を染めながらカーテシー。
私は席の前でホールを振り返り、開催の挨拶をそつなく述べて、席に腰を降ろした。
続々と挨拶にやってくる貴族達。
会場には楽団の緩やかな音楽が響き渡り、挨拶を終えた者達がダンスホールで踊り始める。
挨拶しに来る者も途切れ途切れとなった頃になって、ようやく彼女はやってきた。
――セリス・コンノート侯爵令嬢。
私の婚約者だ。
その立場から、本来ならばもっと先の方で挨拶に来るべきなのだが、彼女は表情を強張らせて、今になってやってきた。
ふわふわとしたプラチナブロンドに大きな瞳の色は碧。
淡い青のドレスは、先日、強請られて贈ったものだ。
「ああ、セリス。今日は欠席かと思った。体調でも悪いのか?」
それで挨拶に来るのが遅れたのかもしれない。
そう思い、私は彼女を気遣って微笑みながら尋ねた。
彼女はお腹の前で手を組み合わせ、首を横に振る。
「――そういえば、コンノート候は先に挨拶に来ていたな。今日はノリスが君のパートナーなのか?」
ノリスは彼女の兄だ。
彼女は王城主催のパーティの時は、私がパートナーを務められない為、父親か兄にパートナーを頼んでいた。
「……あ、兄は……今日は来ていません」
「それでは、君は今日は誰と一緒に?」
私は首を傾げて、セリスに尋ねた。
「――俺ですよ」
そう言って進み出てきたのは、私の黒髪と違って、シャンデリアを照り返してキラキラとした金髪を輝かせた美男子。
冒険者ギルド支給の白い礼服を来た彼は、セリスの隣に立つと、その手をそっと取った。
まるでそれに勇気づけられたかのように、セリスは顔を上げると、私を見上げる。
「で、殿下! 今日は殿下にお願いがあって参りました」
――ああ、またなのか。
私はなぜかそう思った。
「――オレア王子! セリスとは別れてもらいたい!」
「ごめんなさい。殿下。殿下とは結婚できません。
――わたし、真実の愛を見つけたのです……」
肩を寄せ合って告げる二人に、私は諦めとともにため息を吐き出した。
まるで空気を読んだように、楽団は演奏を止めている。
貴族達が固唾を呑んで注目しているのがわかった。
「――わかっ……」
了承の言葉を口にしようとした所で――
知らない記憶が頭に流れ込んでくる。
それは、ただ真面目に誠実に生きようとしただけの、そして女に振り回され続けた男の一生の記憶。
それがサティリア教の伝える前世というものだと、なぜか自然と理解できて。
私は――俺は思わず、腹の底から笑いだしていた。
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