第12話 勇気と修二と美咲

 土曜日の入学式から2日たち、月曜日となった。今日から授業が始まる。

 4月のまだ肌寒い朝。勇気と修二はダラダラと学校までの通学路を歩いていた。ピカピカの制服を着たふたりは、誰がどう見ても新入生と思うだろう。

 勇気は「なあ、修二。クラスに東京から来た女の子おるの知ってる?」と恥ずかしそうに言った。

 修二は「えっ、そんなんおったっけ?」と言った。

 「僕の隣の席におるねんて。しかもめっちゃかわいいねん。芸能人みたいやねんて」勇気は恥ずかしさを振り払い、その転校生を褒め称えた。

 「じゃあお前アタックせえや。お前、男の中の男やねんから」修二は勇気をからかうようにゲラゲラ笑いながら言った。

 「僕そんなんできひんて。交際を申し込むなんて、そんなんまだ早い。まだ13歳やん」勇気は妙に現実的なことを言った。

 「人形みたいな子でさ、ほんまあんなん隣に座ってたら授業集中できひんって」勇気はさらに修二に訴えかけた。

 話しながら登校していると、ふたりは、いつの間にか学校に到着していた。

 昇降口へ入ると、そこには長い黒髪の美咲と彼女と仲の良い友達がいた。美咲は大きな目を細め、その友達と会話していた。なんだか美咲は楽しそうに見えた。恋でもしているのだろうか。

 「よう、美咲!」勇気は美咲に笑いかけた。

 「なんや、あんたらか」美咲はこちらを振り向き、笑うのをやめ、無愛想に勇気と修二を見た。まるでお城のベランダから庶民を見下しながら眺める姫のようだった。勇気と修二と美咲は幼なじみなのに、まったく、ひどい扱いだ。

 「あたしとあんたら、違うクラスになったな」美咲はふと言った。

 「せやな。俺ら一緒のクラスになったら距離近過ぎてケンカになるからちょうどいいかもな」と修二がへらりと言った。

 「まあそうやな。そのほうがええな」美咲は妙に納得して言った。

 「別にケンカはせえへんやろ。美咲は僕と修二に関心がなさそうだし。僕と修二はケンカせえへんと思うし」勇気は朴訥と言った。

 修二と美咲は、修二の冗談を真に受けた勇気を見て、顔を合わせて笑いあった。勇気はそのふたりを見て、ポカンとした表情をした。

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