第10話 美咲の想い

 美咲は台所で夕飯の用意をしていた。

 入学式は機械的でつまらなかった。

 でもはじめてのホームルームの後の、中野司とのやり取りはおもしろかった。心がドキドキした。司のあの涼しい目元、そして東京弁。なんだかドラマに出ている俳優みたい。

 美咲はそのことを思い出して、ひとりでときめいていた。

 

 美咲は夕飯の焼きそばを作り終えると、それを二つの皿に移し、テーブルに運んだ。

 山本家の食事は美咲が担当している。お母さんは鬱病で三年前から寝てばかり。お父さんは四年前に急に家を出ていった。理由はよくわからない。美咲には兄弟がいない。だから美咲の家での話し相手は鬱病のお母さんだけ。美咲はお母さん代わりに、料理も洗濯も掃除もなんだってする。弱いお母さんを支えるのが美咲の役目だ。だからお母さんを支えるためにも、美咲は自分に強くならなあかんと日々言い聞かせていた。

 焼きそばをテーブルに運び終えると、美咲はベッドの上にいるお母さんを、呼びに行った。

 「おかあさん!ご飯できたで!」

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