第8話 勇気と聖奈

 田中勇気は夕飯を食べた後、二階にある子供部屋で、二段ベッドの下のベッドに横になってくつろいでいた。

 上のベッドには聖奈も横になっていた。聖奈はスマホでもイジっているのだろう、そう勇気は思った。

 「中学校生活、楽しくなりそうや」勇気は聖奈に言った。

 「ふーん、そうなんや。それは良かったな」聖奈の口調はこれっぽちも勇気の学校生活に興味がなさそうだった。

 「修二にラインしたか」勇気は先程、聖奈に修二のラインのIDが書かれたメモを渡していた。

 「まだしてない…」聖奈の言葉には、すこし恥ずかしさが含まれていたような気がした。

 二人の間に妙な沈黙が訪れた。勇気は二回空咳をした。

 勇気は目を閉じた。聖奈は今、何を思っているのだろうか。聖奈と修二は結ばれるのだろうか。もともとその二人は幼なじみみたいなものだ。二人は世間一般の幼なじみのように昔は仲が良かったが、小学校高学年ぐらいから、急に話さなくなったみたいな感じなだけだ。勇気と美咲もそのようなものだ。

 勇気の頭の中は、修二、美咲、聖奈の姿、そしてあのクラスの隣の席の転校生、中野有沙の天使のような笑顔が、浮かんだり消えたりしていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る