第3話 山本美咲

 今日は入学式だ。ピカピカのセーラー服に身をつつんだ山本美咲は昂る気持ちを抑え校門を通り抜けた。校門周辺には新入生たちが溢れかえっていた。みんなピカピカの制服だ。門出を祝うように満開の桜が新入生である美咲たちを歓迎してくれた。

 群衆の中から美咲は幼馴染みである田中勇気の姿を発見した。

 「勇気、おはよ」美咲は無愛想に言った。美咲は勇気には愛想よくあいさつしない。なんだか照れくさいからだ。

 「よう、おはよう」勇気はヘラヘラ笑っていた。「俺スマホ買ってもらってんけどさ、ライン交換せえへん?」

 ぎくっ。美咲はスマートフォンをまだ買ってもらってなかった。うぅ、恥ずかしい。スマートフォンすらまだ持ってないなんて。美咲の家は貧乏だったので、家族でスマートフォンを持っているのは父親だけだ。美咲は拳を握りしめて言った。

 「あたし、まだ持ってないし。でもスマホなんかいらんもん。そんなん持ってたらスマホに気ぃとられて勉強できひんやん」美咲は早口でまくし立てた。

 「あっそうか」勇気はそう言うと、昇降口の方へスタスタと歩きはじめた。

 あっそうか、だけかよ。美咲はイライラした。それにしても、勇気ですらスマートフォンを持っているのに、美咲は持っていない。

その事実が美咲を惨めにしていた。

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