最後の夏休み
また灼ける様な夏がやって来た。
どこに居ようが汗がジトッと滲みだす。
そんな嫌になる季節でも亜香里は涼しい顔してダンスや歌のレッスンにでかけていく。
勉強だってクラスで上位らしい。
「俺と亜香里って全然釣り合って無いよな。」
最近、亜香里の顔を見る度にそんな事を思ってしまう。
俺の方は成績の方も相変わらずぱっとしないし・・・
さいたま高専は前期、後期制で夏休み前に中間テストがある。
初めての中間テストは散々な結果だった。
やっぱり入る高校間違えたか?
毎日苦しい思いをしながらも・・・
なんとかやっと夏休みを迎える事が出来た。
俺は暑さに弱く、涼しい場所をさがして避難する生活を続けた。
課題も気分でダラダラとこなしていく。
・・・亜香里は毎日忙しなく出掛けて行く。
暑かろうが、夏休みだろうが亜香里には関係なかった。
こんなダラダラした生活をしていたら・・・
気がついたらお盆も過ぎて夏休みも残りわずかに成っていた。
今日も亜香里は灼ける様な日射しの中、出掛けて行く。
ふっと目があって話しかけられた。
「暑いね岳、夏休み最後の日休みなんだ。お願い、私を海に連れて行って!私、夏休みの思い出が何も無いなんて悲しい!」
亜香里からのお願いなんて久しぶりだ。
嬉しかったが
アイドルと海でデートなんて亜香里は大丈夫なのか?
まぁでも、正式にデビューしている訳じゃないし・・・
断るのも亜香里が可哀想だからOKしといた。
亜香里がアイドルに成ろうが、女神様に成ろうが亜香里は亜香里だから・・・
俺は亜香里のそばにずっと居たいんだ。
夏休み最終日、始発の電車で俺達は海に向かった。
電車の中で亜香里は芸能活動の事をいろいろ話してくれた。
俺とは住む世界が違う様な気がして・・・
ただ頷く事しか出来なかった。
朝早くから行動したからか、話し疲れた亜香里は俺の方に寄り掛かって来た。
顔を覗き込むと寝てる?
・・・今まで一人で頑張って来たんだきっと疲れてるよな・・・
チョット油断してアヒル口になってきたアイドルがカワイイ。
亜香里の頭が俺の肩の上に載って来た。
亜香里の唇が直ぐそこに有るのが気になって仕方ない。
流石にそれはマズイよな。
亜香里を起さない様に、身体を動かさない事に集中する。
そして俺は海までの少しの時間を亜香里の寝顔を見ながら過ごした。
亜香里の髪からいいにおいがした。
ずっと俺はその香りに包まれていたかったが幸せな時ほどあっという間に過ぎていく。
もう、キラキラ輝く海がすぐ側に見えてきた。
亜香里を出来るだけ優しく起こすとビーチに向かう。
ビーチは夏休み最終日だから混み合ってる程では無かった。
俺達は着替えてパラソルを借りて・・・
海での定番の・・・
波に向って走って行ったら、おもいっきりコケた。
「ふふふ 岳はいつまでも子供だね。」
「いや、これは亜香里の笑顔が見たくてわざとだから・・・」
暫く波際で亜香里とはしゃいでいたが・・・
亜香里は日焼けも気になったのでパラソルの下で横になる。
俺も並んで横になった。
亜香里の目が海の波の様にキラキラしてる。
「もう、夏も終わっちゃうね。 あ〜 岳ともっと遊びたかった!」
そんな亜香里を横にして俺は頷く事しか出来なかった。
俺は眩しい陽射しを避けて暫く目をつぶっていたら・・・
亜香里は俺が寝てしまったと思った様だ。
「岳、私との約束を守ってくれてありがとう。」
優しく亜香里の唇が俺の唇と重なった。
その唇は夏の陽射しより熱く感じる。
目を開けたかったが開けられない。
ただ波の音だけが響いていた。
亜香里とのキスは海の味がした。
このキスの味は俺の記憶に一生残って消えないだろう。
ふっと繋いでいた手が離れる。
そして亜香里の手が俺の右肩に触れる。
「ん?岳、肩にナイロン糸付いてるよ!」
亜香里はパッと俺の右肩の宝毛を抜いた。
「痛い!」
「えッ? ゴメン、コレ肩から生えていたの?」
俺はなんだか寒気がして来た。
まさかコレで亜香里が・・・
亜香里には正直に"死神の翼"の事を話した方がいいのだろうか?
でも話したところで亜香里を怖がらせるだけで出来る事なんて何も無いのでは?
そんな事より亜香里が俺から離れてしまうのではないだろうか?
"死神の翼"の事を話す勇気が俺には無かった。
「あぁ大丈夫。取ってくれてありがとう。」
俺は何事も無かったかの様に振舞った。
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