第19話 育ち盛り
「僕は別に、毎日シュガーの作ってくれる蝙蝠ハンバーグで満足だけど」
今まさに、彼女がこしらえた蝙蝠肉のハンバーグをもぐもぐしながら、クリスタは言った。なんか、野菜を手に入れに洞窟の外に行きたいと言われたのでそう答えたのである。
蝙蝠を食べると言われて、最初はクリスタも身構えていた。だって蝙蝠だ。そんなの、食べようと思った事すらない。どんなゲテモノが出て来るのかと怯えていたら、出てきたのは普通のハンバーグだ。田舎村で育ったクリスタの感覚では、結構なご馳走である。
でも蝙蝠なんだよなぁ……と、恐る恐る食べてみたら、普通に美味しい。いや、普通以上に美味しい。正直、めっちゃうまい!
柔らかく、臭みはなく、全く筋がない不思議なお肉だ。なのですぐに慣れて大好物になってしまった。シュガーが言うには、蝙蝠肉から万能肉を合成して作っているので、厳密には蝙蝠肉のハンバーグではないらしいが、いつも通りよくわからないし、美味しいのならなんだっていい。
「ぁん♪ マスターってば、嬉しい事言ってくれるじゃないですかぁ~♪」
テーブルの向こうに座ったシュガーがくねくねと照れた。料理は終わっているのに、まだエプロンを着ている。というか、エプロンしか着ていない。中は裸で、クリスタ的にはそういうのは良くないと思うのでやめて欲しいのだが、裸エプロンは奴隷がキッチンに立つ時の標準的な装いだと固く躾けられているとか言って聞いてくれないのだ。
絶対嘘だと思うのだが、シュガーはやめてくれないし、本音を言えばクリスタだって嫌ではないので、じゃあ、まぁ……と、目を瞑っている。瞑っているというのは比喩で、結構チラ見しているクリスタである。
「でも、ダメです! マスターは育ちざかりなんですから! こんな味気ない合成肉ばっかり食べてたらいけないです! 野菜も食べなきゃ大きくなれませんよ? 科学的根拠はデータにありませんが、私のお母さんセンサーがそう言ってるんです! あと、お肉ばっかり食べてるとニキビが出ますよ! 体臭が臭くなって、ウンコも――」
「わかった! わかったよ! 野菜を探しに洞窟の外に行けばいいんでしょ!? 言う通りにするから、そういう事言わないでよ!」
真っ赤になってクリスタは遮った。こんなに可愛いシュガーの口から、ウンコなんて言葉聞きたくなかった。あと、クリスタは年頃の男の子だし、シュガーの事が大好きで、彼女はいつも毛穴が見えるくらい近くにいるのである。
ニキビが増えるとか、体臭が臭くなるとか、ウンコがどうとか言われたら、結構気になってしまうのである。だから、後でシュガーの目を盗んでこっそり自分の臭いを嗅いでみるのだが。
「大丈夫ですよ? マスターは赤ちゃんみたいなミルクの香りです。それに、もしくさいくさいになっても、性癖パラメーターを弄って対応するので問題なしです! 仮に重度のワキガでもばっちり愛してみせますとも!」
そんな時に限って、シュガーは何処からともなく現れて、力強く拳を掲げて熱弁するのであった。
†
「マスターも随分強くなりましたね」
身体を光らせながら、隣を歩くシュガーが言った。
「あれからそんなに経ってないよ」
同じく身体を光らせて、クリスタも答えた。
大蝙蝠の群れと戦った日から、十日くらいだろうか。
クリスタは、あれから毎日洞窟の中を探検している。シュガーが言うには、大蝙蝠は食べられる部分が少ないので、美味しい万能肉を作るには数がいるらしい。心も元気になったので、リハビリと訓練を兼ねて、狩りはクリスタの仕事になっていた。と言っても、シュガーはいつも同行して、後ろで見守りつつ凄いヤバいかっこいい! と褒めちぎって励ましてくれるのだが。
恥ずかしいが、明りがあってもクリスタ的には一人で洞窟を歩き回るのは心細くて怖いので、まぁ、シュガーがそういうなら仕方ないかな、みたいな顔でついてきて貰っている。クリスタもシュガーが大好きになっていたので、一緒にいられるのならその方がいいのだった。
そんなこんなで、洞窟に住んでいる大蝙蝠や大ゴキブリや大ネズミなんかを倒しながら、シュガーの案内に従って出口を目指している。
「そうですけど、毎日狩りをしてるおかげで、マスターはぐんぐん成長してますよ。強度の上がった身体の使い方にも慣れてきましたし、スキルだって使えるようになってきたじゃないですか」
「少しだけだけどね」
そっぽを向いてクリスタは言った。
シュガーの言う通り、クリスタは以前とは比べ物にならないくらい強くなっており、少しずつだが、シュガーの使えるスキルも使えるようになっていた。
光るスキルとか、どこでも倉庫とか。よくわからないが、収納! と念じると、触れた物が身体の中に吸い込まれるようにして消えるのである。で、収納した物をイメージして出て来い! と念じると出てくるのである。シュガーのスキルだからなのか、二人の倉庫は繋がっているらしい。
他のスキルはまだ保留である。あまり急いであれもこれも使えるようになろうとすると、身体に負担がかかって良くない事になると言われていた。シュガーの言う事なので、クリスタは素直に従っている。
なんにせよ、スキルの解放に失敗した無能の成り損ないとしては、物凄く嬉しい事なので、そんな風に言われると、つい顔がニヤけてしまう。それが恥ずかしくて顔を背けたのだが。
「はぁ~ん♪ 照れるマスター、カワユスなぁ~」
例によってそんな時のシュガーの行動は素早く、あっと言う間に回り込んで恥ずかしい顔をウットリと覗いてくるのだった。
「もう、恥ずかしいから見ないでよ!?」
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