第14話 万能工作機能
分かっていたが、洞窟は真っ暗だった。ダンジョンから漏れ出た明かりは暗闇に吸い込まれて、遠くまでは届かない。その先に踏み出すのは、自殺行為にしか思えなかった。
怖気づいて、クリスタはやっぱり止めようと言おうと思った。
直後に、眩い光が闇を払った。
隣では、シュガーの身体が白く発光していた。
「……それ、どうなってるの?」
「スキルです♪」
唖然とするクリスタに、シュガーは一言そう答えた。
そっか、スキルか。そう言われたら、納得するしかない。
「色んなスキルを持ってるんだね」
「私はマスターの頼れる便利な万能奴隷ですから♪」
誇らしそうに、シュガーはえへんと胸を張った。勢いで、大きな胸がぽよんと揺れる。
「ねぇ、シュガー。一応聞くんだけど、外に出る為の道とか知ってる?」
期待して、クリスタは聞いた。彼女が奴隷商人に連れて来られたのなら、道を覚えているかもしれない。
「知りませんね。私、ダンジョンから出るの初めてなので」
「え、どういう事?」
驚いて、クリスタは尋ねた。
「えーとですね~」
くりんと斜め上に視線を向けて、シュガーが考え込む。
「憶えてないんですけど、気付いたらあそこに居て、マスターが来るまでずっと寝てたような感じです」
「そうなんだ……」
クリスタはショックを受けた。多分、奴隷商人はクリスタが与えられた辛い事を忘れさせる薬をシュガーにも与えていて、長い事ぼんやりさせられていたのだろう。出会った時に様子が変だったのも、そのせいかもしれない。記憶がないのは……きっと、クリスタよりも酷い目にあって、心が壊れてしまったのだ。それで、嫌な事を全部忘れてしまったに違いない。そう思うと、クリスタは改めてシュガーが哀れになり、涙が出てきた。
「どうしたんですか、マスター」
「ぐすん……ぅぅん、なんでもない」
可哀想なシュガー。僕が守ってあげなきゃ。そんな力はないのだけど、気持ちだけはそのつもりだった。
そんなクリスタを、シュガーはからかうようなニヤニヤ顔で眺めている。
「さてはマスター、怖いんでしょう~。大丈夫ですよ。なにがあっても、マスターの安全は私が守りますから」
そう言って、シュガーはうりうりとクリスタの鼻をつまんだ。
その手を払いのけて、クリスタは言った。
「やめてよ! スキルはないけど、僕だって一応戦士の家系に生まれたんだ! 男の子だし、もし魔物が出てきても、その時は僕がシュガーを守るよ!」
「はぁん♪ 勇ましいマスター、好きぃ……」
うっとりと、シュガーが胸を押さえた。
クリスタは不安だった。自分で言うまで気づかなかったが、洞窟には魔物がいるかもしれない。元々大して強くないクリスタである。スキルもないし、武器だって持っていない。素手では、雑魚と言われている魔物にだって殺されてしまうかもしれない。
「……ねぇシュガー、流石に素手じゃ不安だし、なにか武器になるような物を探しに戻らない?」
「私は素手でも平気ですよ?」
「そんなわけないでしょ! それに、シュガーが良くても僕は良くないよ!」
確かに、シュガーは女の子にしては物凄く力がある。多分、なにか戦士系のスキルを持っているのだろう。加えて、ダンジョンの外に出た事がないと言っていた。世間知らずで、魔物の恐ろしさを知らないのかもしれない。そう考えれば、無鉄砲に洞窟探索を言い出したのも頷けた。
「そうですか? じゃあ、マスターは、どんな武器がいいですか?」
武器になりそうな物に心当たりがあるのだろう。シュガーは言った。
「一通り訓練はしたけど、一番慣れてるのは剣かな」
「長さとか大きさとか形とか、なにか希望はありますか?」
そんなに色々な剣があるのだろうか。まぁ、奴隷商人のアジトになっていたのであれば、おかしくないのかもしれない。
「普通のでいいよ。これくらいの長さの、両刃の剣。あんまり重いのは振り回されちゃうから嫌だけど」
身振りを使って、クリスタは訓練で使っている木剣を示した。
「こんな感じですか?」
シュガーの掌から、にょきっと生えるように長剣が伸びだした。
「うわぁ!?」
びっくりして、クリスタが大きな声をあげる。
「どうなってるの? それも、前に見せてくれた変身スキルなの?」
こんな事が出来るのだからそうなのだろうが、それにしたって驚いた。
「ちょっと違いますね。えーと、工作機能だから……生産スキル的な?」
ぶつぶつと呟くと、シュガーは言った。
「……シュガーって、本当に凄いんだね」
彼女の生み出した長剣を受け取りながら、クリスタは言った。
戦士の家系の人間が戦闘系のスキルに目覚めるように、職人の家系は生産スキルに目覚める。クリスタの知っている限りでは、職業に応じた技能スキルとちょっとした能力スキルを持っているくらいが普通である。だが、噂によれば、生産スキルにもバトルマスターのような上位スキルがあって、そういったスキルを持つ職人は、普通の職人には真似できないような凄い仕事が出来ると言われている。
だとしても、無から剣を作り出したのには驚きだったが、実際にやってのけたのだから納得する他ない。あまりに凄すぎて、クリスタは自分が無価値な鼻くそのように思えてきた。
「そのままだと危ないので、ベルトと鞘も用意しますね」
気軽に言うと、シュガーは両手からにょきっと言葉通りの品物を生み出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。