第13話 絶望には惜しみない愛と笑いが必要だと判断しました

「本当は十年分くらいあったみたいなんですけど、私の待機モードを維持する為にダンジョン全体が省エネモードに切り替わってたみたいで、ほとんど腐っちゃってたんですよね。あはははは」

「あははははって、笑い事じゃないよ!? どうしてもっと早く教えてくれなかったの!?」

「ごめんなさい。マスターに余計な心配をかけたくなくて……」


 クリスタが叫ぶと、シュガーはしゅんとして涙を拭った。

 ハッとして、クリスタは自分が恥ずかしくなった。なにもかもをシュガーに任せてぐうたらしていただけのくせに、彼女に怒るなんてどうかしている。


「ううん、僕の方こそごめん。シュガーのせいじゃないのに、責めるような事言っちゃって……」

「平気ですよ? 今のはウソ泣きなので」

「返して! 僕の謝罪を返してよ!?」


 がくがくと、シュガーの肩を揺する。


「マスターが悪いんです。からかった時の反応が可愛すぎて、人格プログラムに悪い癖がついてしまいました」


 ぷっくりと頬を膨らませ、意味不明な事を言ってくる。


「それって僕のせいなの!?」

「二百パーセントマスターのせいですね。ちなみに、可愛いものに攻撃的な衝動を覚える現象はキュートアグレッションというそうです。テストに出ないので憶えなくていいですよ?」

「なんの話!?」

「マスターをからかって遊ぶのは、万能奴隷に与えられた正当な権利という話かと」

「そんな権利聞いた事ないよ!?」

「まぁ、今考えたので」

「ツッコミが追いつかないよ!?」


 ゼ―ハーと息を荒げるクリスタを見て、シュガーは幸せそうにウットリした。


「だってー、この一ヵ月マスターってば薬漬けでぼんやりしてるか寝てるかだったので。こうやってちゃんとお話し出来て、私も楽しいんですも~ん」


 そんな事を言われたら、クリスタも何も言えない。

 恥ずかしさで真っ赤になって、うぅぅ……と呻るだけである。


「ちなみに、食料問題については心配ありません。なくなったら調達するだけなので」

「調達するって、なにか当てがあるの?」

「ないですけど、外に出ればなにかしらあるんじゃないですか? 最悪、土さえあれば最低限の栄養素は合成出来ますし」

「……それって、土料理って事?」

「そんな感じですね」

「……美味しいの?」

「食べた事ないのでわかりませんけど、データによれば土みたいな味だそうです」


 そりゃそうだろうとクリスタは思った。だって土だもん。


「そういうわけなので、適当に外を歩いて晩御飯になりそうな物を探してきます。マスターは良い子にしてお留守番していてくださいね。寂しくても泣いちゃだめですよ?」

「泣かないよ!? っていうか、食料を探しに行くなら僕が行くよ!」

「危ないのでそれはだめです。私が一人で行くか、マスターと二人で行く以外の選択肢は認められません」


 両手で大きなバッテンを作ってシュガーは言った。

 クリスタも、見栄を張って僕が行くとか言ったが、暗い洞窟を一人で歩くのは怖いし、なんのスキルも持っていないので、正直シュガーに一緒に来て欲しいなとは思っていた。


「じゃあ、二人で行こう」

「そうしましょう! 仲良く手なんか繋いじゃって♪」


 そう言って、シュガーがクリスタの手を握った。


「は、恥ずかしいよ」

「一緒にお風呂に入って寝る時も一緒なのに、今更なに言ってるんですか」


 からかうようにシュガーは言った。


 彼女の言う通り、あれからずっと、クリスタはシュガーと一緒にお風呂に入って、一部を除いて彼女に身体を洗って貰っている。寝る時も、同じベッドだ。なんか、気付いたらそういう事になっていて、先ほどまで、疑問にすら思わなかった。きっと全部、あの辛い事を忘れられる薬のせいに違いない。クリスタはごく普通の健全な男の子だから、嫌なわけでは全然なかったが。それはそれとして、男の子としての見栄があるのである。


「そ、そうだけど……」


 結局クリスタはシュガーに従う事にした。見栄はあるが、シュガーと手を繋いで歩きたくないわけではない。というか、繋いで歩けるなら、そっちの方が良いに決まっている。あと、洞窟は真っ暗なので、手を繋いでいないと、はぐれてしまうかもしれない。そうなったら大変だ。


「それじゃあ、しゅっぱ~つ!」


 元気よくシュガーが告げると、入ってきた時と同じように、入口の大きな歯車が回転して、道を空けた。

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