33クロードの帰宅
■ ローデリック家
朝は薄曇りだったが穏やかで暖かい日差しが出てきた。
気づけば外ばかり見てしまう。
仕事をしていても、道を通る馬車が気になって仕方がない。
もうすぐ昼になる。クロードは大丈夫だろうか。
首が曲がりそうになるくらい窓から外を見下ろしていると、門の前を一台の馬車が通りすぎるのが見えた。
あの黒い車体、帰ってきた!
つい部屋から飛び出しそうになるが、今やっている書類を終わらせないとクロードに怒られる。
戻ったらすぐに報告に来るだろう、それまでにこれを少しでも片付けるか……。
ーー20分後
「遅い!」
クロードは何をやってるんだ。
門から屋敷までそんなに時間がかかるものでもないし、何か用事でもしているのか。
あいつの性格ならすぐにでも部屋に来てくれるはずなのに。
もう待ちきれない、執務室に行こう!
机の上の書類を片付け、ペンの先を拭いて箱に収める。
鏡の前で襟を直したその時、部屋をノックする音が聞こえた。
思わず扉に駆け寄る。
「レイナード様失礼いたします、ただい……」
「クロード!!」
待ちきれずに扉を開け放つと、クロードが運んできたワゴンにぶつかった。
「ああ、すまん」
「大丈夫ですかレイナード様、えーっと中に入りたいのですが」
慌てすぎて、クロードをワゴンごと押し出す形になってしまった。
「あ、すまん」
「謝りすぎだよ」
クロードは笑いながら、ワゴンを部屋に運び込む。
その後ろをついていくように、ソファに腰かけた。
「窓から見てたの見えたぞ」
クロードはそう言いながら、テーブルに焼き立てのパンとお茶、スープとフルーツを並べた。
どれもよい香りだ、急に腹がぎゅうっと押される感じがした。
そういえば朝から何も食べていなかった、しかも驚くほど腹が減っている。
「どうせ俺が出て行ってから何も食べてないと思ってさ、まあ食べながら報告を聞いてくれよ」
我が家の優秀な執事、眼鏡の男前は何でもお見通しだ。
何だか照れ臭くなって下を向いた瞬間、フッと花の香りが鼻を掠めた。
「ミレイアに会ったのか?」
恐る恐る問いかけると、クロードはこちらの目を見つめてゆっくりと頷いた。
「まあ、その話も今からするよ。そうそうこのパンは、ステラが教えてくれた店のものでリリアナ嬢のお気に入りだそうだ、帰りに寄って購入してきたよ、さあ早く食べろ」
パリッとした艶のあるパンの表面から、小麦とバターの香りが漂っている。
言われるがまま手に取りパンをほおばると、さっくりとした歯ごたえと香ばしい匂いが胸に広がった。
これをリリアナも食べてるのかーと美味しさを噛みしめていると、クロードが話し始めた。
まずフォルティス家に着いたとき、ステラが事前に噂してくれていたおかげで、ほどんどの侍女達が集まっていたとのこと。
もちろん、あの侍女頭のハンナもしっかりと見に来ていたそうだ、よし成功だ。
今回の作戦は、侍女たちに見せることではなく、ハンナに見せることが目的であった。
クロードと一緒に選んだあの胸飾りも好評だったらしい。
へえ、あれが良かったのか……。
宝飾店に一人で行こうとしたらクロードに止められて、結局付いてきてくれたんだった、選んだのもクロードだ。
……とはいえ、俺一人でもあれを選んだけどな、うん、まあいい、よかった。
しっかりハンナにも印象付けたと思っていたところに、突然ミレイアが現れた。
あれには驚いたよ、とクロードは続ける。
「まあ、あれは駄目だな、お前が騙されるのも仕方ないよ」
体に触れられこそしなかったが、異常に距離が近く、意図的とは言えないが露出が高い胸元をこちらに見せつける感じがしたそうだ。
あげく、自分が王太子妃候補であるのを否定し、王太子の容姿を貶していたと。
ミレイアは、あの年齢の女の子と思えないほど常に着飾っている。
貴族のパーティに出席するときも、いつも最新のドレスを着ているようだ。
宝飾品も必ずつけているし、香水や化粧はもちろんだ。
そんな華やかな生活を好む彼女のことだから、王太子妃候補に乗り気だと思っていたのに……。
頭を抱える俺の目の前に、クロードが果物を差し出してきた。
「レイ、口が止まってるぞ聞きながら食べろよ、俺も食べるからな」
そう言って目の前に座り、パンを一つ口に入れた。
「うん、これはうまい! まあ心配することはないよ、予想以上にうまくいったと思う、あの二人には間違いなく特別な胸飾りだと印象付けられたはずだ」
満足そうに頷きながらスープに口をつけ、ナプキンで口をぬぐった。
そしてポケットから一通の封書を取り出す。
「これは、ステラからここ最近の報告だ、読もうか?」
「ああ頼む」
クロードはお茶を一口飲み、手紙を開封した。
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