20. フォルティス家訪問


「侍女に送り忘れた荷物を届けにまいりましたーローデリック公爵の業務の途中に立ち寄っておりますのでーお気遣いなくーっと」

「クロード、もっと感情込めて言ってくれよ」

「はいはい」


夢のことが気になりすぎて急遽フォルティス家に向かっているが、突然の訪問を不自然に思われないように、クロードに同行してもらった。


外の景色を眺めていたクロードが、胸ポケットから手袋を出してつけている。

フォルティス家が見えてきた。


「えーっと、今日到着の荷物に入れ忘れた物があると言えばいいんだな」

「そうだ、なるべくブラッツか他の使用人がいる場所で言ってほしい」

「うん、わかってる」

「今日到着の荷物を強調してだな」

「うんうん」

「ステラに荷物が届いてる事がわかればいいから」

「うん」

「あ、この入れ忘れた物の中はお菓子だから、人がいる場所では開けさせないように」

「わかってるよ、じゃあ行ってくる」


馬車がフォルティス家の門に入る。

クロードは眼鏡をかけなおし、小さな箱を持って馬車を降りた。

こちらへ一礼をして、使用人口のほうへと歩いていく。

ふぅ、緊張するな、無事に荷物を受け取っているといいのだが。



■ ■ ■



「これは、ローデリック公爵家のクロード様、どうかなさいましたか?」


ブラッツ氏が驚いている。

そりゃお仕えするお屋敷に、突然令嬢の婚約者の遣いが来たら驚くよな、しかも午前中だ。

何かあったと思うのは当然だ。


「突然の訪問失礼いたします。先日、こちらにお世話になっておりますステラに荷を送ったのですが、入れ忘れたものがあるので届けに参りました」

「あ、ああステラに、そうですか」

ブラッツ氏はほっとした顔でお腹をさすり、ちらりと外に停めてある馬車を見た。


「ローデリック公爵が乗っておられますが、業務に向かう途中ですので、このまま気にしないようにとのことです。私もこれを渡したらすぐにお暇しますのでお気遣いなく」

ブラッツ氏はわかりましたと言いながら、馬車に向かって深々と頭を下げ、そのまま屋敷内に案内してくれた。


「すぐにステラを呼んでまいります」

そう言って、近くにいた侍女に別館に行くよう申し付けていた。

早足で侍女が奥の通路に消えてゆき、少しの時間の後、ステラと一緒に戻ってきた。


「クロード様!」

ステラが笑顔で駆け寄ってきて、小さくお辞儀をした。


「やあステラ、元気にやっているかい」

「もちろんです、大変皆様によくしていただいてます」

横で一緒に待っていたブラッツ氏が、うんうんと頷く。


「さて、今日荷物が届いたと思うんだが……」

「あ……えっ……はい、届きました! お嬢様はまだお戻りにならないので、お渡しするのは夕刻以降になりますが」

ん? 少し変な間があったな、でも荷物は無事受け取っているようだ。

ブラッツ氏は横でニコニコとしている。


「うむ、レイナード様から急ぎの荷物を預かってきた、君のものだよ」

「まあ、ありがとうございます」

「じゃあ、それだけなんだ、仕事中悪かったね」


ステラにそう言った後、ブラッツ氏に向き直り

「この度は突然の訪問で、お手数をおかけして申し訳ございませんでした。では、これにて失礼いたします」と、頭を下げた。


「いえいえ、ローデリック公爵閣下によろしくお伝えくださいませ」

ブラッツ氏が笑顔で会釈をするその後ろで、ステラが何か言いたげな目をしながらこちらを見ていた。


二人に見送られながら、屋敷の使用人口を出る。

あのステラの表情、多分何かあったな、すぐに手紙が届きそうだ。

ブラッツ氏がいたのは良かったが、もう少し話ができたら……ん?


ステラの事を考えながら馬車に向かって歩いていると、真っ白なドレスを着た金色の髪の女が屋敷へ走っていくのが見えた。


こっちはレイナードに何かあったか……。


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