17. 五度目の夢
☆ ☆ ☆
「あら、レイナードおにいさま、今日はどうされたんですかぁ?」
フォルティス家に着き、馬車から降りるとミレイアが駆け寄ってきた。
「今日は結婚式の打ち合わせで寄ったんだ。そうだこれ、屋敷の庭園に咲いた薔薇が美しかったから持ってきたよ、どうぞお嬢様」
「まあ嬉しい! ありがとうございます」
ミレイアが薔薇を受け取ろうとこちらに手を伸ばす。
その時、手首がキラリと光った。
見覚えのあるブレスレット、あれは少し前にリリアナに贈ったスズランのものじゃないか?
俺がブレスレットを見ていることに気づいたミレイアは、慌てて手を引いた。
行き場がなくなった薔薇の花束が地面に落ちる。
「ごめんなさい」
花束を拾おうとするミレイアの腕をつかんだ。
「あ……」
細くて白い腕に、華奢なブレスレットが揺れている。
やっぱりそうだ、これは俺がリリアナのために送ったものだ。
「このブレスレットはどうしたんだい?」
ミレイアは何も言わず、黙ったまま手を引こうとする。
「いいんだ、教えてくれ」
そう言って腕から手を離すと、ミレイアはうつむいたままで話し始めた。
「お姉さまは、どんな贈り物も開封もせず捨ててしまうのです。それがたとえ婚約者であるレイナードおにいさまからの品物であっても……」
ふたりの間に落ちた薔薇の花束を拾い、ミレイアはゆっくりと立ち上がる。
「おにいさまが送ってくださったのに、それを見もしないで捨てるなんて、わたし許せなくって……おにいさまの気持ちもこのブレスレットも可哀相です」
まさかそんなこととは、全く知らなかった。
何も言えないまま呆然としていると、突然ミレイアが俺の胸にもたれ掛かってきた。
長い睫毛に柔らかな髪、可憐な香りと薔薇の芳香で胸がいっぱいになる。
「レイナードおにいさま、大丈夫です。おにいさまからの贈り物、ミレイアが大切にしています、ミレイアにくれたものじゃなくても……」
俺の胸の中でミレイアはゆっくりと顔を上げ、吸い込まれそうなほど美しい青い瞳を向けた。
半開きの口元がなまめかしい。
駄目だ、リリアナの妹に何を考えてるんだ俺は。
「ミレイア……」
* * *
「くっそ……」
夢を見た。
現実ではない、夢だとすぐにわかる、だって自分にムカつくから。
しかしこの気持ち、なんて苦しいんだ。
馬鹿レイナード、明らかにミレイアに好意を持ち始めていた、なんだよチョロすぎるだろ。
なぜ片方の話だけを信じるんだ、ほんっと馬鹿だな俺、はぁ。
引き出しから手帳を取り出し、夢の内容を書き留める。
しかし、なぜミレイアがあのブレスレットをしていたのか?
確かあれは、婚約が決まった後にリリアナに送ったものだ。
そういえば、何かあれば必ず連絡をくれるリリアナが、あのブレスレットに関しては何も言わなかったな。
リリアナがミレイアに渡すとは考えづらい、もし渡したとしても、必ずこちらに一言あるはずだ。
ふと、ステラからの手紙を思い出す……。
あ!
荷物は届かないのではなく、届いてはいるが、リリアナの手元に渡っていないということではないのか。
先日送ったペーパーナイフ、今日フォルティス家に届く予定だが大丈夫だろうか。
先にステラに手紙を送ってあるから、きっと荷物を受け取ってくれるだろう、あれだけ気にしていたしな。
うーん、気になって仕方ない。
今日の予定は、領地の市場調査が14時からか……。
ベッドから起き上がり、扉を開けて廊下から呼びかけた。
「クロード! 今日出かけるぞ」
「え? はい、ただいま参ります!」
驚いたような声が、侍従室から聞こえた。
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