不信感

翌日の朝はなかなか起きられなかった。

昨日見たクリフトの母親の姿が目に焼き付いてしまった。

家族を二人も失った…かもしれないのだ。


そしてこのことをバーネットに報告する事になる。

どうしたものか…本当のことを話してもいいものか?

そもそも、彼女のことを信じてもいいのだろうか?


頭の中かがモヤモヤしているのが自分でもわかる。


今日は授業も少ないので、クラブに寄ることにした。


体調を崩して以来なので、久しぶりである。


クラブは図書室の奥にある、空き部屋が使われていた。

エアノアは探偵倶楽部に在籍してはいるが、いわゆる幽霊部員のような存在だった。気が向いたときに顔を出すような感じであった。そもそも入部した時も、図書館で魔術に関する調べ物をしていたときに活動していた探偵倶楽部に居合わせてことから入ることになったのだ。


探偵倶楽部は二十名ほどいるが、その半数ほどはエアノアと同じように気ままに参加する。ある意味不真面目な部員であったが、それでも参加したときには気前よく迎えてくれる雰囲気がありやめめるものはほとんどいない。


「エアノア久しぶり!随分顔見せなかったな。」と男子学生が声をかけた。

「ちょっと色々あったのよ」いつも通りの顔ぶれ、雰囲気に少し安心した。


探偵倶楽部とは言うものの、学園内だけで毎日探偵活動があるわけではない。熱心な学生は年に数回行われる討論会に参加することを目標に参加している。


今年はかなりいいところまで進んでおり、初めて地方大会に選ばれていたのであった。

最近はその準備に余念がないと言った感じであった。


しばらくして、部長が入室してきた。

褪せた金髪に整った顔立ちだが、異様に大きいメガネをしているせいで台無しにしている感じだ。

この探偵倶楽部の「探偵」部分も担っていると、クラブ生が認めていた。


もちろん、エアノアも彼には一目置いていた。


「さて、今日も討論会のテーマについて検討しようか」と抑揚の少ない声で部長が進行する。


討論会のテーマは大戦の教訓であった。

クラブでも探偵というスタンスで大戦の最大の謎である。戦争終結の謎である。終戦のきっかけと賢者エアの功績について推論しながら進めていこうとなっていた。


大戦は各国が独自の理由で戦っていたが、終戦はなぜが前後2週間ほどで収まった。

戦争目的が達成された国はなく、勝者の無い大戦とも言われていた。


「このように、賢者エアは功労者第一位として各国に名前を挙げられています。恐らく戦果ではなく和平交渉での功であると考えらえます。」


エアノアは二百年前と昨日の出来事を行きつ戻りつしながら聞いていた。


「ご苦労様、だいぶ進んできたな。やはりエアが終戦のキーマンであることは間違いないようだ。この国以外にもエアのことがどう伝わっているのかもう少し調べて、真実のエアの姿固めていこう。」


そのとき、部長の目とエアノアの目があった。


エアノアは部長に相談することを思い立った。


バーネットには悪いような気がするけど、人が一人失踪しているのである。秘密とか言ってはいられない。


部長はクラブが終わっても一人で残っていることが多い。


しばらく、部長の様子を見ながら図書室で本を探している。


「しばらくこないと思ったら随分熱心だな。」と部長が声をかけてきた。手には鍵を持っている。どうやら図書室を閉めて帰る様子だ。


「いえ、そういう訳ではないんですが」


「何か悩みか?それも珍しいな」不思議そうにこちらを見てくる。


「もう!なんですか?私だって悩みぐらいありますよ!!」


「悪かった。案外元気そうでよかったよ。」


部長と二人きりで会話することはあまりなかったが、大体いつもみんなでしているような会話が始まった。


「そのことで、少し相談があって…」


「俺にか?そういうのは女子同士の方が良いのじゃないか?」

「だから、そういう悩みではないのですよ。なんですか部長まで」体調を崩した時のみんなの反応が思い出された。エアノアはふくれっ面だが全く怒っているようには見えない。


「悪い悪い。つい揶揄いたくなってしまって、なんだ相談って」


「その個人的に探偵というか人探しの依頼を受けていまして…」


「そういう相談はルールを守ってくれよ。依頼者の情報は漏らさない」


エアノアはゆっくりと頷いた。

探偵をやる上で絶対的なルール依頼者の情報は漏らさない。これはこの学園のクラブでも同じであった。最も落とし物を探すなどは探偵倶楽部として依頼にくることがほとんどでクラブ内でも情報が共有されているが、中には個人的な接点をと通して依頼されることもある。そう言った場合はクラブ内でも情報は制限される。


あくまで、生業ではないので、脇の緩い学生から情報が漏れないようとの自衛手段のようなものであった。


「依頼者に手紙が届いて、その差出人を追っていたら行方がわからないということか、そしてその家の関係者から依頼者についての悪い話を聞いた。というところかな」部長は彼女の説明から要点を抜き出して言った。


エアノアは随分と簡単になってしまった。自分の悩みを聞いた。


「で、これからどうしようと言う相談だな」


挙句に悩みの内容まで言われてしまった。


「そうなんです。どうすればいいのかわならくて」


「まず、その差出人は男か?」


「えっ、男ですけど…」


「男か…」少し部長の目がキツく感じられた。男かどうかがそんなに重要なことなのか疑問に感じた。


二人の間に沈黙が流れる。


「あの…」エアノアは急に重苦しくなった雰囲気に少しばかり戸惑いを感じた。


「ああ、まだまだ聞きたい事はあるが君としてはどうしたいんだ。」


「どうって?」


「端的に言えば、関わりたいか、関わりたくないか、の2択になる。」


エアノアはこのまま、離れる事はどうしてもできそうになかった。

おとぎ話のような首飾りの伝説が自分の手で明らかになるような気がする。でもただ単に離れてはいけないような気もする。


「そうですね。今更離れたくはないです。」


「だろうな、探偵ってのはそう言うものだ。なら、答えは一つ依頼人を信用する事はやめて少し距離をとって関わればいい。」


「距離を置くですか。」


「う〜んちょっと語弊があるか。例えばこれについて調べてくれと言われたら額面通り調べるのではなくて、なんでこれを調べて欲しいのか?まで調べる」


「ああなるほど、そうすれば嘘をついていているかわかるんですね。」


「いや、大抵の場合は依頼者にも嘘はある。ただ、その種類によって自分への害意が明らかになる。」


「探偵に依頼する場合、やり方がわからない、人手がない、自分との関係を出したくない。が大方の理由だが、自分の手を汚さずに目的を達成したいみたいなことが隠れていたりする。そうした場合、手を汚さなくてならないのはこっち側になる。そんなことに巻き込まれる前に向こうの真意を把握しておく必要はある。」


向こうの真意、確かにバーネットはクリフトへの調査を礼儀上の都合とだけ言っていた。だが実際にはそれ以上の都合が隠されていそうだった。その背景を探る必要か…

そんなことできるだろうか?


「そんな探偵小説みたいなこと私にできそうにもありません…」エアノアはハードボイルド小説を思い出した。依頼者からも距離をとり真実を明らかにしようと自身への危険もかえりみない。


「だから、距離をおく、距離を置けば焦りが生まれる。必ず誰かがボロを出す。探偵は基本的には静かなもので、調査されていても気づかれない。何も収穫がないなと焦るのは誰か?」


「依頼者でしょうか」

「そう、その時がチャンスだ、向こうが何を思っていたのかただ単に有能な探偵が欲しいなら何もアクションはないだろうが、それ以外にも目的があれば当然何か仕掛けてくる。」


「それって結局のところ危険ってっことですのよね。」



「そうかもな。」そういながら部長の顔に笑みが漏れている。彼もなんとなく熱くなっていた自覚に気づいたのだろう。


「もう、割と真剣に悩んでいるんですけど!」エアノアはそんな彼の様子を見て安心した。


「悪い悪い、真剣な顔を見ているとついな。しばらくは何もしない方がいいよ。悩むのもやめてさあ帰ろう。戸締りを確認するから先に行ってくれ。」


半ば終われるようにエアノアは帰路に着いた。

部長は部室の戸締りを確認するとのことでそこで別れた。


確かに部長の言っていた通りかもしてないと思う。

バーネットに何か裏があり、私に魔法以上の期待する部分があるのだろうか?

あれば、これから何か起きる。


そして、その答えはすぐにやってきた。

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魔術学園と守護者 @kuwagatasann

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