ゴドーじゃないので来るはずだ

川谷パルテノン

デュエル開始

砂上さじょうくんの1ターン目*


 胡桃野くるみやさんとの初デート。緊張しすぎた俺は昨晩三秒しか寝れなかった。目がバキバキである。しかしながら全く眠気が来ない。三秒寝たことに悔いがある。待ち合わせ場所の駅前には二時間前入り。くっそ冷てえ雪がしんしんと降っていた。コンビニでホットコーヒーを四回頼み、二回しょんべんした。


*胡桃野さんの1ターン目*


 爆睡した。遅刻確定。体がうごかない。石のようだ。なんか約束あったっけ。一回そう思うことにした。砂上と散歩だ。散歩て何。どうしてこうなった。砂上とわたしは昨日初めて話したんだぞ。砂上て誰。ミユキが「砂上くんが話あるって」と言ってきた。砂上て誰やねんて。行ったら開口一番「ぼぼぼくとデデデ、デー、散歩してくれませんか!?」と。散歩て何やねんて。まあでもおもしろそうだからからかってやるかって。ミユキにもしもの時の監視役を頼んだ。しかし体はまだ動かない。日曜日って最高。


*砂上くんの2ターン目*


 さみい。まだかな胡桃野さん。約束の時間、一時間二二分オーバーしてます。まあそういうこともあるかな。雪だもんな。雪。はあ寒。もっかいコーヒー行くか。胃、荒れてんだけど。荒ぶる胃。はあ寒。


*胡桃野さんの2ターン目*


 zzZ


*砂上くんの3ターン目*

 

 全然来ないな。たしかに突然だったよ。それまで話したこともない。たしかに。でもオッケーもらえて俺一回空飛んだんだ。鳥ってこんな気分なんだって。それから約束の日まで綿密な計画を立てた。ついでに名古屋城のプラモも建てた。しかしその計画は二時間半押してる。今のうちに立て直すか。ところで二時間半前からずっと物陰で暗視ゴーグルみたいなのを装着してこっち向いてるアレは誰。ミユキちゃんぽいアレは……


*胡桃野さんの3ターン目*


やばいやばいやばいヤバい。人としてヤバい。はじめからすっぽかすつもりだったらそれは意思に基づく行為だからいい。でもこれは怠慢だ。怠惰だ。七つの大罪だぞ。わたし七つの大罪人なの。たしかに暴食も。色欲? ダメダメダメーッ。て何考えてんだちがうちがうちがう。化粧、着替え、や、まず風呂入ろう。風呂で考えるべ。ってあーー今日雪かー。


*砂上くんの4ターン目*


「遅いねミヤコ」

「それはそうだけど、なんでミユキちゃんいるの? なんで暗視ゴーグル?」

「あ、コレ? ホームセンターで買ったんだ。七万円。でも昼間だとまっちろけでなんも見えやしねえ。不良品だよ」

「暗視ゴーグルってそういうのだから。家から着けてきたの?」

「いや家から着けてたらここまで歩いて来れねえから。砂上くん見つけてから装着しました」

「意味ある? でなんでここに居るの?」

「遅いねー」

「うん」


*胡桃野さんの4ターン目*


 準備はチリバツ。さあいざ行かん駅前。ドア開けた瞬間寒すぎワロタ。鼻水カチンコチンで氷柱なったわ。ダウンジャケット可愛くないのしかないしなあ。派遣バイトでもらったクマの着ぐるみ着てくかあ? いやないない。だいたい着てすぐはあったかくないしちょっとクサい。うん。ないない。ないよ。絶対ない。うん。


*砂上くんの5ターン目*


 ミユキちゃんのコーヒーまで奢らされてる。予算的にも計画は破綻気味だ。どうして待ってんだろ俺。甘かったよな。なんの関わりもない男がいきなり声かけて。でもさなんも関わりないってちょっと語弊があるんだなコレが。六歳のとき、胡桃野さんはもう覚えてないかもしんないけど、三日だけ同じクラスだったんだよ。俺、その後いったん親父の仕事でペンシルヴァニアについてったから三日だけ。ただその三日の中で胡桃野さんが俺の擦りむいた膝に絆創膏貼ってくれたあの日からあなたは俺の初恋の人なんだ。


*胡桃野さんの5ターン目*


「熊が出たぞー!!」

 え? どこどこ? ってワシかーい! 小学生猟師どもがめちゃくちゃ雪玉ぶつけてくる。助けて。なんで着てきちゃったんだろ。わたしってほんとバカ。ウケ狙いがやめらんない。


*砂上くんの6ターン目*


「熊を追えー!!」

 熊? 子供たちの声の先で熊の着ぐるみが走っていた。

「砂上くんあれ!」

「え? 熊?」

「ちがう! あれミヤコだよ!」

「は?」

「この町にプライベートでクマの着ぐるみなんて着て外歩いてるバカはミヤコしかいないよ!」

 暗視ゴーグルが何言ってんだ。でも、アレがほんとに胡桃野さんなら助けなきゃ!


*胡桃野さんの6ターン目*


 アーーーッ! 盛大に転ぶ。十マスさがる。


*ふたりのラストターン*


 クマの頭が転がっている。胴体のほうから胡桃野さんの顔が生えていた。俺はガキどもを押し退けて胡桃野さんのクマの体を抱き上げた。

「大丈夫! しっかりして」


 砂上の声がした。なんか言ってる。わたしはもうダメだ。寝坊した。ごめんな。でもなんだろ。この光景。憶えがある。立場は逆だった気がするけど。


 雪が降り注ぐ。俺は胡桃野さんの額に絆創膏を貼った。

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ゴドーじゃないので来るはずだ 川谷パルテノン @pefnk

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