第322話
彼らの言い分はこういうことらしい。
「まず、生徒教師を問わず、学園に関係する商会の一覧を学園長よりいただきました。それによると、現在学園と関係のある最も大きな商会は、先生が社長を務めるドルトン商会株式会社でした。その事業領域も飲食や宿泊、人材派遣など、卒業パーティーの実施を依頼するにふさわしい内容でした。更に先生は実行委員会の委員であり、また侯爵に次ぐ爵位である辺境伯位をお持ちで、これに異を唱えられる貴族やその子女は存在しないという結論に至りました」
いやぁ、実に論理的で現実的な理由だ。即座に反論できる隙がない。
ドルトン商会株式会社は俺が代表取締役社長兼会長で、最高経営責任者はトネリコさん、顧問兼監査役が
事業領域は、フランクリン君が言ったものに加えて、建設と建築、日用品の製造販売なんかもやっている。
かなり手広くやっているけど、全て街道開発に関連した事業だ。なので、ボーダーセッツで展開している宿屋とレストラン、牧場の事業は俺の個人持ちの別会社だったりする。取引はあるけどね。
街道整備は国家事業だから、多額の国費が投入されている。その殆どがドルトン商会株式会社に流れているわけだから、当然、動かすお金もかなりの額になっている。現状では多分、国内で十指に入る事業規模なんじゃなかろうか? 商業ギルドの理事レベル?
街道整備事業は前倒しで進行していて、おそらく今年の末には工事が完了するだろう。
そうなったら国費からの支援は無くなるわけだけど、まだドルトン近郊の開発や、街道の宿場町の整備も残っている。
これは領主の仕事だから国費からの援助は出ないけど、街道整備で稼いだ利益で賄える計算だ。
街道と宿場町が整備されれば、物流が活性化して税収も上がる。一時的に手持ち資金が減っても、将来的には増収になるはずだ。
これは中長期計画だから、余程のアクシデントが起きない限り、まだしばらくバブルは終わらない。バブルが終わるまでに次の事業を開発できれば、この好循環はまだまだ続くだろう。そして、まだ商売のネタは残っている。
この好調を維持できれば、十年後には国内屈指の企業になっている……といいなぁ。
そして、俺の辺境伯という爵位だ。
位階の高さで言うと侯爵の下、伯爵の上ということになっているけど、実際には侯爵以上の権限を持った、同盟国の国主と言っても過言ではない爵位だ。
冒険者ギルドという監視の首輪は付いているけど、朝貢の必要はないし、自前の軍隊や法律を作ることだってできる。
王国への義務は戦争時に参戦することぐらいだけど、近隣の脅威となる国家は軒並み国力を落としているから、俺が出なきゃならないような戦争はしばらく無いはず。
その参戦時でも、意見や命令できるのは国王だけで、侯爵や将軍、司令官ですら命令する権利はない。お願いするだけだ。
こんな爵位を作って大丈夫かなと思うけど、俺は王家から姫を娶る予定だから、親族なら大丈夫って判断なんだろう。
まぁ、裏切るときは親族だろうが侯爵だろうが裏切るんだけどさ。
ということで、フランクリン君の主張はこれ以上無いくらいの正論だ。現状では最良と言ってもいい。防波堤になると自分で言った手前、却下することもできない。
「……承知しました。学園長に許可をいただき次第、直ぐに手配をしましょう」
「よろしくお願いします!」
フランクリン君他、委員の皆が一斉に頭を下げる。
しょうがない、可愛い教え子のために一肌脱ぎますか。
◇
学園長の許可はあっさり降りた。
どうやら、リストを渡したときからこうなることを見越していたらしい。
狸め。
◇
「卒業パーティー……うっ、頭がっ!」
今回の件では、クリステラは役に立たなさそうだ。頭がと言いつつ、胸を押さえて蹲ってしまった。クリステラ的には、そこに頭があるらしい。乳頭のことか?
まぁ、奴隷落ちさせられたキッカケが卒業パーティーだったらしいからな。トラウマになっていてもおかしくはない。
過去の運営の様子なんかを聞きたかったんだけどな。仕方がないか。
となると、他の卒業パーティー経験者は……。
「アタシは覚えてないわ! 料理は美味しかったわね! 何食べたかは覚えてないけど!」
「だろうねー」
分かってた。
身内で数少ない学園出身者が役に立たない。過去の卒業パーティーがどんな様子だったか知りたかったんだけどな。
まぁ、過去の経理や式次第は残ってるから、それを見て推測すればいいか。
「にしても、ケチっとんなぁ。こんなん、楽団と料理人雇ったら終わりやん。給仕も雇えんし、食材も買えんで?」
学園から提示された予算を見てキッカが渋い顔をしている。
確かに、その額は低い。とても運営を回せる額じゃない。
多分、昔からこの予算で回してきていたんだろう。時代が進んで物価や人件費が上がっても。
ある時点で予算をオーバーするようになったんだけど、それを当時の担当商会が補填してしまったのだと思われる。次回の担当商会も、その次の商会も。
それが慣例化して、今に引き継がれているんだと思う。悪い文化だな。
「だから大商会なんだろうね。不足分を補填しても痛くないくらいの」
「なんや、生徒頼みかいな! かぁーっ、これで王立とか、信じられへんわ!」
「んー、でもまぁ、商会にしてみたら、ある種の投資とも言えるんだよね。将来貴族家や商会を継ぐ人たちに覚えてもらうための」
要するに広告費あるいは交際費ということだ。一時的に持ち出しになったとしても、将来回収できるなら無駄ではない。俺も経理上は交際費で計上するつもりだし。
「ああ、そういうことかいな。まぁ、それやったらええか」
キッカが渋々ながら納得する。なにわの
「だったらよ、ある程度は商会側で好きにできるってことじゃね?」
「というと?」
「予算をオーバーした分は商会の善意なんだろ? 善意にケチを付けられる謂れはねぇんだからさ、ちょっとくらいならこっちのやりたいことを盛り込んでもいいんじゃねぇの?」
ふむ。サマンサは良いことを言う。確かに、経営者なら投資による利益の最大化を図るべきだ。単なる寄付では利益を見込めない。それはステークホルダーに対する背任だ。
とはいえ、あまり派手にやりすぎると王様に睨まれるし、次回以降の担当になった商会が苦労するかもしれない。まぁ、多分来年も俺がやることになるんだろうけど。
「だから、あくまでひっそりと、それでいて投資効果の最大化を狙っていこう。それじゃ早速作戦会議だ!」
「「「はい!」」」
もちろん、最優先は卒業生たちを楽しませることだ。何と言っても、俺の最初の教え子たちだからな。
楽しんでくれるといいんだけど。
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