第314話

 けど、なんでそんなに大量の魔石が必要に?

 ……魔導具……あっ、銃か!


 ジャーキンは銃の魔導具の量産を進めていた。けど、実はあの銃自体は魔導具じゃない。魔導具なのは弾のほうだ。

 機構的には、薬莢の内部に魔石と欠損のある魔法陣があって、その魔法陣の欠損を埋めるように撃鉄が接触すると魔法陣が暴発・・して小爆発を起こし、その勢いで弾頭の鉛玉を飛ばすというものだった。薬莢と撃鉄が魔導具ってことだな。

 なんで暴発させるのかは知らない。多分、爆発の魔法陣を作れなかったんだろう。それで、代替手段として暴発させることにしたんじゃないかと思う。


 弾は銃以上に大量に必要となる。つまり、火薬代わりの魔石もまた大量に必要になるということだ。

 だからゴブリンか。ゴブリンは繁殖力が高いから、魔石を取るなら効率がいいもんな。

 魔石を取ることが主目的で、妄薬はおまけか。だから採石場、なるほどね。


 あっ、あのオーガ! そうか、魔石を取るために、あのオーガにゴブリンを殺させていたんだな? だからアイツ、変に実践経験が無い感じだったのか。弱いゴブリンばっかり殺してたなら、実践経験を積めるわけがないもんな。腑に落ちた。


「集めた魔石はどうしたの? もう皇太子は処罰されたよね?」

「ノランに送ってるッス。あっちで今、閣下が国盗りに動いてるッスから」

「閣下って?」

「えっと、元左大臣閣下ッス。名前は知らないッス」


 っ! 元左大臣って、あの逃げた真っ黒オーラのやつか! 暗部上がりって噂の腹黒そうなやつ!

 アイツ、ノランに逃げてたのか。道理で捕まらないわけだよ。

 考えてみれば、暗部上がりなら逃走に使えるルートをいくつも持ってるのは当然だもんな。そのルートを使って、世情が混乱しているノランに逃げ込んだわけか。顔の知られていない外国へ高飛びしていたわけだ。世情不安な国なら、怪しい男のひとりやふたり潜り込んだところでどうにでもなるだろうしな。なるほど、暗部らしい。

 それはそれとして。


「お前、元左大臣と親しいの? なんで協力してるの?」


 実はこいつも暗部だったとか? いやいや、こんなバカが務まるほど、ジャーキンの暗部は微温くないだろう。


「えっと、うちの親が親しかったんッス。その縁でオレはここの子爵に婿入りさせてもらって、採石場の件を任されたッス。採石場が上手くいったら、いずれ大臣にしてもらう約束だったッス。今はノランにいるから、魔石を送ってくれたらこっちで大臣にしてやるって手紙がきたッス」


 ……あー、そういうことね。こいつも利用されてた口か。

 多分、あの元左大臣は、こいつから送られてきた魔石を使って銃と弾を量産して、ノランを掌握するつもりなんだろう。

 掌握したあとはこいつを呼んで、今度はノランに作った牧場の運営をさせる。適当な地位と贅沢な暮らしをさせておけば、何も考えずに働きそうだもんな、こいつ。

 で、牧場運営のノウハウが溜まったら、こいつはお払い箱。闇に葬れば後腐れなしと。

 概ねそういう筋書きだったんじゃないかな。


 その場合、放棄されたワッキー地方がどうなるかは考えたくないな。

 大量のゴブリンやホブゴブリン、オーガなんかが解き放たれて……ああ、それも元左大臣の計画なのかも。

 荒れたワッキー地方とその周辺地域に、銃を持ったノラン軍が雪崩込んでくるわけだ。

 制圧した地域の住民はゴブリン牧場に送られて、魔石の素にされるんだろう。以下繰り返し。

 かくして、大陸はノランとゴブリンが支配するディストピアになりました、めでたしめでたし。

 おおよその筋書きはそんな感じかな。


 ふざけんな!

 させるかよ、そんなこと!


 まだ初期であろう、今の段階で計画を中断させられたのは幸いだったかもしれない。手遅れになっていたら目もあてられなかった。

 この情報もしっかり暗部の人に伝えておかないとな。俺の手柄にするには大きすぎる。


「領主も協力者だよね? 彼女は最初から元左大臣の仲間だったの?」

「いや、オレが引き込んだッス。あの女、初夜でイカせまくったらオレにべた惚れになったッス! 今じゃオレの言いなりッス!」


 なんだよ、そのドヤ顔。気持ち悪いよ。汚物芸人のくせに。

 まぁ、利用してるつもりが利用されてたってこともある。こいつの言い分は話半分に聞いておこう。

 少なくとも、あの女領主も納得してのゴブリン牧場だったのは間違いないってことだ。

 男で道を踏み外す女っていうのは、どこの世界でもいるものなんだな。


「魔法でどうにかしたわけじゃないんだ?」

「……オレの魔法は魔物にしか効かないッス。魔物専用の奴隷化魔法ッス」


 やっぱりそうか。けど、全部信じるのは危ないから、やっぱり話半分だな。人にも効くかもしれないって思っておこう。近づくのは危険。


「それじゃ最後の質問だよ。元左大臣はノランのどこにいるの?」

「……わかんねぇッス。魔石はカガーンの漁業組合に送ってるッスけど、居場所は教えてもらえなかったッス」

「ふーん、あっそ」


 隠れ蓑は漁業組合ね。密輸ならやっぱ船ってことなんだろうなぁ。世界は違っても悪人が考えることは同じだな。

 けど、具体的な元左大臣の居場所は分からずか。カガーンにいる可能性が高いってくらい?

 まぁ、期待はしてなかった。こいつ口軽いし、核心に迫る重要な情報は教えられてないだろうって思ってたから。


 こいつから聞き出せる情報はこのくらいかな? 得た情報は別室でクリステラが纏めてくれているはず。王国暗部の人たちは喜んでくれるかな?


「じゃ、もう用はないかな。寝てていいよ、おやすみ」

「えっ? 何をぉ〜……」


 魔力フラッシュバン改で失神させて尋問終了だ。

 あとはこいつの処分だけど、きっと彼女たち・・・・が良いようにしてくれるだろう。


 ◇


 普通に放置しただけでは、ソバ男の魔法で彼女たちが操られてしまうかもしれない。

 まぁ、そうなったところで、セイレーン程度が何羽集まっても脅威にはなりえない。返り討ちにして終わりだ。

 けど、それではソバ男たちの被害に遭った人たちが浮かばれない。生き残った被害者たちの溜飲が、少しでも下がる終わり方じゃないと。きっちり落とし前をつけなきゃな。


「くそっ、なんで魔法が使えねぇんだよ!? ヤバい、ヤバいヤバいヤバい! 放せ、放せよこのバケモノどもが!」


 ソバ男がセイレーンたちに足首を掴まれて、山にある巣へと運ばれていく。

 二羽がそれぞれ片足ずつ持っているから、ソバ男は逆さ吊りの大股開き状態だ。セイレーンたちの手間を省いてあげようってことでソバ男の下半身をむき出しにしたから、見苦しいものが丸出しで本当に見苦しい。

 魔封じの首輪はちゃんと効果を発揮してくれているみたいだな。手は後ろで縛ったままだから、外すことはできまい。


 この後の展開は、想像の範囲を逸脱することはないだろう。巣穴で呪歌を聞かされて、意識のないまま子種を搾り取られて、最後はセイレーンの栄養になっておしまい。

 魔物と領民を食い物にしてきた奴が、自分が他者にしてきたのと同じ仕打ちを受けて死ぬ。それでこそつり合いが取れるってものだ。


 もしかしたら、物凄く運が良かったら、セイレーンをテイムして生き延びられるかもしれない。

 もっとも、この不思議な島は絶海の孤島だから、セイレーンをテイムしても抜け出すことはできない。この島で生きていくしかない。

 足掻いて足掻いて、それでも救われないとわかったときに漏らす絶望の叫びが、犠牲になった人たちへの鎮魂歌となるだろう。そのときは精々いい声でいてくれ。


「いででっ、引っ張るなよ! 俺の脚はそんなに開かねぇんだよ! 裂ける裂ける!」


 小さく遠ざかっていくソバ男を皆で見送る。汚い悲鳴も遠く小さくなっていく。何が疑問なのか、首をかしげているピーちゃんがかわいい。

 ……こっちはこれで終わりかな。


「さてと。最後まで見届けたい気持ちは無くはないけど、もうすぐ学園が始まっちゃうんだよね。名残惜しいけど、あとはセイレーンたちに任せよう。僕たちの仕事はここまで! それじゃ帰ろうか!」

「「「はい!」」」


 まだ未解決な部分は残ってるけど、俺たちはもう十分に働いた。あとは王様や暗部の人たちの仕事だ。

 早く帰って女領主を押し付けよう。

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