第291話
ここまでの得点は、三年一組が三十五点でトップ、次点は三年二組で二十八点。両チームとも、得点の殆どを個人戦で稼いでいる。
しかし、この二チームは護衛騎士で一回戦敗退しているので、これ以上の加点はない。
そして、優勝もない。護衛騎士での優勝チームがそのまま総合優勝となる。
なんだか、バラエティ系クイズ番組の『最後の問題は得点が百億万点入ります』的な展開っぽいけど、ちゃんと公平なルールの上でこんな展開になったんだから仕方がない。
俺は何も操作していない。
既に、護衛騎士の三位は二年一組と二組で決まっている。三位決定戦は行わないので、両チームとも三位だ。合計得点は、それぞれ二十二点と二十一点。
二年二組はこの時点で最下位が決定してしまっている。チーム全体にしょんぼりした雰囲気が……ないな。皆スッキリした顔で最終種目の決勝を応援している。
初めての体育祭を全力で楽しんでいるみたいだ。良きかな良きかな。
そして一年一組は、ここまで二十三点を獲得している。個人戦ではあまり得点できなかったけど、団体模擬戦で二位、
これは団体競技に貴族を集中させた結果だ。身体強化でのゴリ押しとも言う。
継走にはバイデン君とヒエロ君の解説コンビが出場していた。あのふたり、地味にスペックが高いんだよな。
対する一年二組は、ここまでわずか二点しか獲得できていない。女子長距離で二位になった子がいただけだ。
しかし、団体競技は参加人数分の順位点が加算される。
仮に二組がトップを取れたら、一気に一位の三点が十五人分、四十五点を獲得できる。トータル四十七点で堂々の優勝だ。
一年一組は、二位だとトータル三十五点で総合同率二位にしかならない。
もし二組が二位なら、トータル三十二点で総合三位だ。
この最終種目の決勝で総合優勝が決まる。まさに決勝戦だ。
「くくくっ、
「贔屓をした覚えはありませんが、同級生としては誇らしく思います」
同級生って言っても、同じ授業を受けた回数は数えるほどしかないんだけどな。
教師と生徒、領主の一人三役は忙しすぎて、一番優先度の低い生徒役がかなり疎かになってしまっている。名ばかりの幽霊生徒だ。
俺の学生生活、こんな感じで三年が過ぎていくんだろうか? せっかく学園へ通うことになったんだし、少しは学生らしいことしたいなぁ。
それはそれとして、もうすぐ護衛騎士の決勝戦が始まる。
一年一組のメンバーは、貴族のダイエット令嬢三人組とジャンポール君、そしてコリン君とジェイコブ君だ。
盲目のコリン君だけど、気配察知を覚えてからは常人以上に周囲がよく見えている。一回戦、二回戦でも、周囲がよく見えていた。決勝進出の原動力と言っても過言ではない。教えた甲斐があったというものだ。
ダイエット令嬢三人組も、かなり良い動きをしていた。走り込みは一年生で一番熱心だったからな。基礎がしっかり作られていたってことだ。
そこまでして痩せないといけないような体型じゃないと思うんだけど、男性には理解できない理由が女性にはあるらしい。下手に口を出すと噛みつかれるから、追及しないのが正解だ。前世で学んだ。
まぁ、そのおかげで決勝まで進めたんだから、結果オーライかな。
対する一年二組は、貴族男子が六名、平民男子が三名、貴族令嬢が五名、平民女子が一名の、計十五人だ。
二組は、突出した才能を持ってる子はいないけど、学業も武術も平均的に優秀なクラスだ。天才はいないけど秀才が多いって感じかな?
下級貴族の子や中堅商家の子を集めたのが各学年の二組なんだけど、将来的にはこのクラスから優秀な官僚や大商家の代表が出てくるかもしれない。そう思わせるくらいには期待値の高い子が揃っている。
一組はコリン君だけが貴族役のハチマキを頭に巻いている。他の五人が騎士役という、かなり守備的な配役だ。
一方の二組は、平民の四人全員が貴族役で、残り十一人が騎士役だ。こっちは守備的というより堅実的な配役だな。身体能力に劣る平民を身体強化の使える貴族が守り、確実にゴールまで届けようという作戦だろう。人数差を活かした作戦だな。
「始め!」
アームストロング教官の合図で、ついに試合が開始された。
開始と同時にコリン君とジェイコブ君がダッシュで敵陣に突っ込んでいく。ややジェイコブ君が先行している。
残りの四人は、障害物の柱の前で待機している。あそこで二組の攻撃を凌ごうということだろう。障害物の柱を防御に使おうという作戦だな。
それは二組も同じ考えのようで、騎士役三人を柱の前に残し、残りの全員で敵陣地へ駆けていく。
ここで、身体強化の有無の差がでた。
一組は攻め込んだふたりともが身体強化を使えるのに対し、二組には身体強化を使えない平民が四人いる。中央のガゼボへの到着は、圧倒的に一組のふたりが早かった。
そのままガゼボの右側を走り抜けたふたりは、中央を走ってくる二組の集団を迂回するように競技場の端を駆けていく。
すれ違うときに二組の数人が少し足を止めかけた。妨害するか悩んだんだろう。しかし逡巡している間に、ふたりは集団とすれ違って走り去る。もう追いかけても追いつけない。
諦めた二組の数名は、再び前へと走り出す。防御は残った三人に任せることにしたようだ。
先に得点圏、障害物の柱の前にたどり着いたのは、当然コリン君たちだ。
柱の前には三人の騎士役が集まり、防御を固めている。二対三、数的有利は二組だ。
もう数メートルで双方の先頭が接触するというところで、不意に先行するジェイコブ君が後ろを向いて止まった。そのまま両手を組み、腰を落とす。
「ジェイ、四番!」
「はい!」
コリン君が、組まれたジェイコブ君の手に右足を乗せる。そしてジェイコブ君は膝の力も使って勢いよくその手を振り上げる。
「なっ!?」
自身の脚力も加わって、コリンくんは空高く舞い上がり、向かって右側の柱へと高く飛んでいく。
防御の生徒も口を開けて見上げることしかできない。
そのまま柱の天辺を蹴って更に跳躍し、長い滑空の後に着地、一回前転して衝撃を殺すと、その勢いのままゴールの壁にタッチした。
「一組、得点!」
アームストロング教官が得点の宣誓をする。先取点はまさかの一組だ。
試合開始からここまで、わずか十数秒。十分しかない試合時間を考えると、このペースは驚異的だ。
しかも、一組の
「ジェイ、頼んだ!」
「承知しました!」
貴族役のコリン君は、一度フィールド外に出て自陣へと駆け戻る。そして、騎士役のジェイコブ君はそのままフィールド上を駆け戻る。
駆け戻った先にいるのは、ようやく柱の前に到達した二組の面々。
「しまった! 追え、あいつを行かせるな!」
気付いた防御役の生徒が叫ぶ。しかし、既に時遅し。
駆け戻ったジェイコブ君は、目の前の妨害を突破する事に集中している二組の騎士役の隙きを突き、貴族役の四人へと低い姿勢で駆け寄る。
「危ない、後ろ!」
「えっ?」
「あっ!?」
追いかけてきた防御役の生徒が叫ぶけど、その時には駆け抜けたジェイコブ君が四人の背中にタッチしている。密集していたから一網打尽だ。
「二組貴族役、四名排除! 自陣に戻りなさい!」
「くっ、やられた!」
タッチされた貴族役の四人がフィールド外に出て駆け戻る。想定外の攻撃に、騎士役の生徒たちは顔に悔しげな表情を浮かべている。
これが護衛騎士というゲームだ。得点したからといって、サッカーのように仕切り直しにはならない。騎士たちはフィールドに残ったままで試合は継続される。フィールド上はリアルな戦場なのだ。
しかし、試合はまだ始まったばかり。
ここから二組がどう挽回するのか、それとも押し切られるのか。
楽しくなってきた。
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