第274話
入学そして就職から約三ヶ月。学園での活動は概ね順調に進んでいると思う。
入学前からすでに魔法を使えていた生徒たちは、俺が教えた理論に基づいて、魔法の効率的運用と魔力量の増加に取り組んでいる。すでに体感できるレベルで魔法の威力や使用回数が伸びているから、もうそろそろ実践的な運用を教え始めてもいいかもしれない。
魔法を使えなかった生徒も二割は魔力操作ができるようになり、残りの生徒たちも体内の魔力を感知出来る程度にはなっている。ただし、授業をボイコットしているジャンポール君を除く。
サラちゃんとその一派だけど、意外にも授業には真面目に出席している。成果も出ている。俺への恨みと勉強は別と割り切っているらしい。俺が思っていたより大人だったみたいだ。ジャンポール君はまだまだ子供ってことだな。
サラちゃんやジャンポール君みたいな問題児はいるけど、大荒れしていないなら許容範囲内だろう。学級崩壊してないなら問題ない。
問題があるとしたら、武術の講義かな。
魔力を操作出来る生徒とそうじゃない生徒の間に格差が出始めてきた。
「くっ、貴族の人たち、速すぎないか?」
「しかも余裕があるようにも見えるな。これが血筋ってやつなのか?」
いつもの持久走で、商家出身の生徒たちがぼやいている。
ごめん、それ血筋のせいじゃないんだ。魔法の副次効果の身体強化なんだ。
今のところ、貴族以外に魔法を教えるのは王様に禁止されている。なので、魔法の授業を受けている生徒たちと受けていない生徒たちの間に、身体能力の差が出始めているのだ。
「お先にー」
「くっ、くそっ!」
バイデン君とヒエロ君がジャンポール君を追い抜いていく。もう何回目かの周回遅れだ。入学直後は重りを背負っててもジャンポール君のほうが速かったのに、今やその差は圧倒的だ。悔しいだろうなぁ。
ちなみに、もう誰も重りは背負っていない。純粋な身体能力のみの差が出ているだけだ。
「ジャンポール君、がんばって」
「いけるいける! まだ走れるよ!」
「ちっ!」
女子にすら追い抜かれていくジャンポール君。応援が辛いね。彼女たちは分かってやってるんだろうか? だとしたら怖いな。
そして更に、
「すいません、追い抜かせてもらいますね」
「ごめんなさい、隣通ります」
「〜〜っ!」
ジェイコブ君に手を引かれたコリン君がジャンポール君を追い抜いていく。入学当初は歩くことすら難しかった盲目のコリン君にだ。もうジャンポール君のプライドはズタズタだな。
コリン君は、まだ魔法の発現こそしてないけど、魔力操作に関してはもう実戦レベルにある。目が見えない分、他の感覚的な部分が発達しているのかもしれない。
俺が教えた通り、毎晩寝る前に魔力を放出しているそうで、魔力量も順調に増えている。あとは魔法の発現だけだ。
コリン君の魔法適性は固有魔法だ。なので、実のところ、どうすれば発現させられるかが分からない。
俺もクリステラもデイジーも、自然に発現したからノウハウがないんだよな。コリン君も自然に発現してくれないかな?
ちなみに、コリン君の従者であるジェイコブ君は従士で平民なんだけど、特例で魔法の授業にも参加している。盲目のコリン君のそばから離れるわけにはいかないから、本当に特例だ。貴族に仕える従士なので『准貴族』ってことになっている。
そのおかげで、ジェイコブ君も魔力操作までは会得できている。適性は化学反応魔法の火魔法なんだけど、まだ発現はしていない。
『主家のコリン様より早く魔法が使えるようになっては義理を欠く』ということで、適性を教えようとしたけど拒否されてしまった。ジェイコブ君は堅物だった。
「はい、そこまで! 走るのをやめて集まってください!」
声をかけて、いつもより早く持久走を終わらせる。
ここでも魔法の授業を受けている生徒とそうじゃない生徒の差が出ているな。
授業を受けている生徒たちは涼しい顔でキビキビと集まってくるのに対し、授業を受けていない生徒たちは重い身体を引きずるように集まってくる。体力に差がある証拠だ。
「今日から武術の授業は、前半を持久走、後半で武術を教えていきます。しばらくは基本である体術、その後は各自の得意な武器による戦闘術を鍛えていきます」
「「「……やったーっ!」」」
生徒たちから歓声が上がる。だよね、三ヶ月も走りっぱなしだったらね。もう走るのは飽きたよね。
「あら、でもどうしましょう? 走るのをやめたらまたお腹が……」
「そ、そうですわね! どうしましょう、また昔のドレスを着なければいけなくなってしまいますわ!」
「あら、個人で走るのはよろしいのではなくって? 足りない分は朝晩に走れば良いのですわ」
「「それよっ!」」
ご令嬢たちはジョギングを始めるらしい。うん、健康的でいいんじゃないかな。痩せるために運動するのは良いことだ。まぁ、武術の授業だけでも十分カロリーは消費できると思うけどね。
「バイデン、ようやく武術らしい授業になるな」
「ああヒエロ。しかも、あの『フェイス流格闘術』を教えてもらえるらしいぞ! やる気があふれるな!」
いや、その『フェイス流格闘術』って何!? 初耳なんですけど!
多分、俺が武術大会で使ってた技術を指してるんだろうけど、あれって前世で知ったいろんな格闘技の寄せ集めだよ? 理論や技術に裏付けはあるけど、体系立った流派にはなってないよ?
なんか、期待が大きすぎて萎縮しちゃいそうだ。けど、やるしかない。
「えー、ではまず、基礎にして奥義とも言われる歩法から……」
もう空に重い灰色の雲はない。春らしい青空に白い綿雲が浮かんでいる。できれば、この青空が長く続いて欲しいなぁ。
◇
「フェイス……教官、その、オレ、私に……魔法を教えていただけないでしょうか?」
その日の放課後、ジャンポール君が教員控室に居た俺のところへ来て、そう言いながら頭を下げた。ものすごく不本意そうな顔で。
ふむ。まずは一歩前進、かな?
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