第251話
これは、駄目だ。
組むにしても、まずは土下座ブラザーズの力量を知らなければということで、俺たちは冒険者ギルドの訓練場にやってきている。
そこで筋力やらスタミナやら、剣技その他の技量を計らせてもらっているんだけど……いくら冒険者成りたてにしても、これは無くない?
まず、
一周二百メートルくらいの訓練場外周を限界まで走らせてみたんだけど、三人とも十周しないうちに潰れてしまった。二キロ走れてない計算だ。
一緒に走らせていたバジルたちは、薄っすら汗を掻いてはいても、息も乱れていない。一番体力のないリリーですら涼しい顔だ。
「ぜぇ、ぜぇ、ぼっ、僕たちは、ぜぇ、身体を鍛える訓練をっ、ぜぇ、ぜぇ、してこなかったので、ぜぇ、ぜぇ」
とか言ってたけど、それにしても体力無さすぎだろう。辺境じゃ十歳児でもこの三倍は走れるぞ? 俺なら一日中でも走っていられる。身体強化無しで。
長く走れること、つまり高いスタミナは冒険者にとって最重要の資質だ。
凶暴な魔物が
だから、冒険者学校でも
そして筋力と戦闘技能。これもひどい。
今はマシューとバジル、サラサとオルフェン、キララとガインがそれぞれ模擬戦の最中だ。リリーはピーちゃんと遊んでいる。
土下座ブラザーズは三人とも剣を使っている。マシューが両手持ちの長剣、オルフェンとガインは片手剣で丸盾持ち。
一方のうちの子たちはというと、バジルが片手剣とバックラー、サラサは両手に短剣、キララは片手棍だ。
使っている武器は冒険者ギルドの備品で、全て刃引きされている。絶対に安全とは言えないけど、自前の防具も着けているから、運が悪すぎなければ致命傷にはならないだろう。
で、その内容なんだけど、まずマシュー。
剣の重さに振り回されている。なので振り終わった後が隙だらけで、攻撃していいものかどうか、バジルが困惑している。
しかも振りが遅い。バジルは余裕で躱している。まだ一合も剣を合わせられていない。
「アニキ、速すぎですよーっ!」
いや、キミが遅すぎるだけだ。筋力無さすぎ。
そしてオルフェン。
こちらはマシューより幾分マシ? サラサと剣を合わせられている。
けど、これはサラサのおかげだな。スピードを生かした急所狙いのヒットアンドアウェイが戦闘スタイルのサラサが、完全に足を止めて打ち合っている。しかも、自分からは一切攻撃していない。受けるだけだ。完全に指導モードだな。
「稚拙」
「そんなこと言っても、サラサのアネゴ堅いっス!」
「非力」
「くっ、指摘が端的過ぎて辛いっス!」
オルフェン、サラサがまだ片手の短剣しか使ってないのに気付いているか? 手加減されまくってるぞ?
筋力もマシューと大差ないっぽい。片手剣だから振り回せてるだけだ。
そして、それは弟のガインも同じらしい。
「うーん、剣筋がブレてるですね。刃物はちゃんと刃を立てないとダメですよ!」
「こうっスか!?」
「そうそう。剣で受けるときも刃を立てて受けるですよ! じゃないと折れたり曲がったりして危険に直結ですよ! ほらほら!」
「ちょっ、キララのアネゴ、待って、待って欲しいっス! 速すぎるっス!」
「魔物は待ってくれないですよ? それそれ!」
こっちは完全に鬼教官モードだな。キララがガインをいじめている。いや、可愛がっている?
三人の中では、ガインの筋が一番いいかもしれない。
けど、身体が出来てないからか、一撃が弱い。弱すぎる。身体強化も使っていない後衛職のキララに力負けするのはどうかと思うよ?
模擬戦を終えたころには、三人とも訓練場の土の上に大の字になってしまった。土下座ブラザーズ改め五体投地ブラザーズだ。
これじゃ、騎士団の入団試験に落ちるはずだよ。身体能力も技術も、基礎ができて無さすぎる。
いや、昔の第三騎士団なら、これでも入団はできたんだろう。貴族枠があったらしいからな。国を守る騎士団がこんなのばかりだったなんて、ぞっとしない話だ。
◇
「ど、どうですか、俺たちの力量は?」
「うん、全然だめ」
「「「そ、そんなぁ!?」」」
場所を冒険者ギルド内の打ち合わせスペース……酒場の片隅に移動して、先ほどの力量チェックの感想を伝えると、三人とも揃って情けない顔になった。分かりやすい。
「バジルたちはこう見えて、中級冒険者の上位に匹敵する実力があると思うんだよね。足りないのは経験だけ。それに比べて、君たちは間違いなく見習い相当、もしくはそれ以下だよ。一緒に組ませるには差があり過ぎる」
「ぐぅ……」
「強い人に寄生して星を上げても、実力が伴わなきゃすぐに死んじゃうからね。最低限の力が無いと組む意味がない。君たちのためにならない」
ちょっとキツイ言い方になってしまうけど、端的に現実を突きつける。
いくら俺が上級冒険者だとはいえ、こんな子供に駄目出しされるのは気分が良くないだろう。けど、この三人は厳しい現実を受け入れられる素直さを持っている。これは望んでも得られない素晴らしい資質だ。
「そ、そんな! なんとかなりませんか、ビートの超アニキ!?」
マシューの顔が必死だ。気持ちは分かるけど、超アニキはやめろ。
うーん、まぁ、なんとかできなくはない。土下座ブラザーズに向かって、指を三本立てた右手を突き出す。
「三か月」
「え?」
「三か月、僕の指導に耐えられるなら、普通の中級冒険者以上、とは言い切れないけど、今よりは遥かに強くしてあげられる、かも?」
「ほ、本当ですか!?」
「うん。その代わり、厳しい鍛錬になるから冒険者としての活動は一時休止してもらうけどね。まぁ、鍛えた後で再開すれば、すぐにふたつ星くらいには成れるよ」
「っ!」
「そうは言っても、君たちも生きて行かなきゃならないでしょ。その間の生活については僕が責任もって面倒を見るよ。どう?」
土下座ブラザーズがお互いの顔を見て、無言のアイコンタクトを取る。そして頷く。
「「「よろしくお願いします、超アニキ!」」」
三人が一斉に頭を下げる。うむ、素直だなぁ。でも超アニキはやめろ。
◇
三か月。それは、肉体改造に必要な期間だ。
鍛えて壊れた筋肉が強靭に生まれ変わり、また壊れて更に強く生まれ変わる。
そうして強化された肉体を実感できるようになるまでの期間が約三か月。と、前世のスポーツ界では言われていた。
そう、俺は土下座ブラザーズの肉体改造をしようというのだ。
あの貧弱さではこれから先、厳しい冒険者人生を生き抜くのは不可能だ。魔境に入ったら秒で死んでしまうだろう。
まだ出会ってほんの数時間とはいえ、知り合いが命を落とすのは遺憾だ。何か手助けができるならしてあげたい。
とはいえ、ずっと面倒を見ることもできない。俺も何かと忙しいからな。俺に出来るのは、鍛えてあげることくらいだ。生きる
即効性があるのは身体強化を習得させる事だけど、残念ながらそれはできない。
身体強化は魔力の運用手法のひとつだから、魔法使いを育てることに直結する。身体強化を覚えると、何かの切っ掛けひとつで魔法を使えるようになってしまう可能性がある。
というわけで、これ以上魔法使いを増やさないようにという王命を受けている俺は教えられない。
なので純粋にフィジカル面、つまり肉体を強化しようというわけだ。
肉体改造には食事を含めた生活全般の管理が必要だ。
なので、土下座ブラザーズには旧領主館に泊まり込んでもらうことにした。もちろん食事も提供する。今までは街の外でのテント生活だったそうで、感謝しきりだった。
とはいえ、たった三か月の鍛錬では、せいぜいガリガリ君が細マッチョになる程度だろう。人間の身体って、すぐに大きくはならないからな。
けど、やる意味はある。少しでも筋力とスタミナが付けば、魔境で生き残れる可能性は格段に上がるはずだ。頑張って強くなってくれ。
そして三か月後、俺はこの選択を後悔することになる。
◇
「超アニキ、おかげさまでこんなに立派な肉体を手に入れることができましたっ!」
ムキッとマシューがダブルバイセップス。
「これならこれから冒険者としてやっていけそうっス!」
ゴリッとオルフェンがサイドチェスト。
「自分に自信が付きました! 感謝しかないっス!」
ムギュッっとガインがアブドミナルアンドサイ。
三人とも見事なゴリマッチョだ。
カット(筋肉のメリハリ)も見事で、そのままミスターオリンピアに出られそうなくらいに仕上がってる。
腹筋板チョコバレンタインってコレのことか。こんなチョコは要らない。
いやいや、なんでたった三か月でこうなる!? 普通に筋トレとタンパク質中心の食事くらいしかさせてないぞ!?
才能か? 筋肉の才能なのか? お前ら本当に人間か?
っていうか、なんでそんなに日焼けしてる? そのビキニパンツはどこから手に入れた?
「「「ありがとうございました、超アニキ!!」」」
ミチッと三人揃ってモストマスキュラー。
なんてことだ、マジで超兄〇になってしまった。
なんでこうなった? 異世界って怖ぇ。
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