第249話
開拓完了!
どうよ、この見渡す限りの更地。まるで北海道の牧場のようじゃないか。でっかいどーって叫びたくなるな。行った事無いけど。
スキー場には行ったことがあるけど、あそこは山で、こんな平地じゃなかったからなぁ。
遠くに小さくドルトンの外壁が見える。新規開拓した土地だけで軽くドルトン十個分以上あるからな。そりゃ小さくも見えようってもんだ。
でも、まだこれで終わりじゃない。外壁を作って区画割りして道を作って……ゲーム制作で言うところの、レベルデザインとかフィールドデザインという仕事が残っている。
ゲーム制作ではツールを使って自動生成ができたけど、現実ではそうもいかない。一から十まで全て手作業だ。コピペもリセットも出来ない。
最初にしっかりと設計しておかないと、後々重大な問題が発生することだってある。とんでもなく重要な仕事だ。
というわけで、ここから先はお役所(冒険者ギルド)に丸投げ。素人の俺が手を出すべきじゃない。
まぁ、俺には拠点の村という実績があるけど、あれはほとんどジョンのおかげだ。俺は大雑把に指示しただけ。上水道や下水道というインフラもジョンが調整して配置してくれたもので、俺にあんな高度な設計をする技能は無い。
それに、全部俺がやってしまうと、それを専門にしている人の仕事が無くなってしまう。
口は出しても手は出さない。それが正しい領主の在り方だと思う。多分。
俺に投げられた冒険者ギルドもどこかの業者に丸投げするかもしれないけど、それはそれで構わない。市場に仕事が回れば経済が回り、それが巡り巡って領主の俺の懐に戻って来る。お友達を連れて。『経済の巻き込まれ転生』ってところか。
まぁ、色々と理由を付けても、面倒そうだからっていうのが一番の理由なのは間違いない。面倒なことは責任ある大人にやってもらおう。ぼく、こどもだからわかんない。
けど、冒険者の皆さんが森へ行くのは大変かもしれないから、東門から暗闇の森までの直通の道だけは簡易に整備しておこう。あぜ道だけど勘弁してね。
というわけで、子供な俺は遊ぶぞ!
いつも全力で遊び、食べて寝る。それが子供の特権で義務だ。
更に付け加えるなら、このだだっ広い空き地で遊べるのは今だけだ。開発が始まるまでの期間限定。遊べるうちに遊んでおかないと。
「♪チャラララ~ン! フライングディスクー!」
背中のリュックを降ろし、中から大小三枚のフライングディスクを取り出して掲げる。
ウーちゃんとタロジロが『フライングディスク』の声を聞きつけて俺の元へ駆け戻ってくる。尻尾が竜巻を起こしそうなくらい振られてる。もう穴掘りはいいのか? そうか、穴掘りよりフライングディスクの方がいいか。よしよし。
このフライングディスク。俺のお手製なんだけど、実は作るのに結構手間がかかっている。
最初は適当な木材を削って作ったんだけど、厚みがあり過ぎてあまり飛ばせなかった。悪く言えば円盤投げの円盤、良く言っても厚手のお盆みたいだったからな。
なので薄くしたものを作って、それは綺麗に飛んだんだけど、ウーちゃんに『取って来い』させたら一回で噛み割られてしまった。薄くした分、脆くなってしまったわけだ。
薄くて軽くて割れにくい。そんな素材が必要だった。前世で売られていたディスクドッグ用ディスクはほとんどがポリエチレン製だったけど、今にして思えば、あれは最適な素材だったんだな。
この世界にはプラスチックなんて無いから、それに代わる素材を探さなければならなかった。
俺の平面魔法で作れば簡単なんだけど、それだと俺が操作出来てしまうから面白くない。遊びは操作できないから面白いのだ。
頭の中に延々と『プ〇ジェクトX』のテーマが流れるくらい、素材を探して探して探し回って、漸く見つけた素材が
多くの魔物が日々討伐されている辺境のドルトンだから、素材は大量にあった。というか、俺たちが毎朝の散歩で狩る獲物だけで、十分な素材を集めることが出来た。普通は散歩で狩りはしないだろうけど、うちは食べ盛りが多いから必要なのだ。
これを板状に整形し、乾燥させた後に蒸して柔らかくし、木型に挟んで整形し、再度乾燥させて仕上げの調整をしたものがこのフライングディスクだ。
この三枚を作るのにひと月近くかかってしまった。そして現在、予備の三枚を制作中だったりする。三匹のためのガム骨も作成中だ。
『従魔と遊ぶためだけにこないなもん作るやなんて、酔狂が過ぎるんとちゃう?』
とキッカに突っ込まれたけど、犬好きとはそういうものなのだから仕方がない。犬の為なら家や車を買い替えるのも厭わない、それが犬好き。
ある種の呪いと言ってもいいくらいだけど、この呪いを解こうとする犬好きはほとんどいない。危険な呪いだ。俺も解く気はない。
この三枚には、それぞれに『W』『T』『J』の刻印が彫られている。各々専用のディスクというわけだ。
専用というのはいい響きだよな。性能が三倍に上がってそう。
使った膠の原料が違うから、色も若干異なっている。ウーちゃんのがブラウンに近いオレンジ、タロのが黄色っぽいクリーム色で、ジロのは白っぽいクリーム色。俺には分からないけど、匂いも若干違うかもしれない。
三匹とも自分のディスクを把握してるから、取り合いにはならない。早く投げてと急かしてくるだけだ。
今も三匹が、俺の周りを今か今かと跳ね回っている。可愛い。
「分かった分かった、すぐ投げるからね。いくよー……それ、それ、それっ!」
無駄に高くなった今生の身体能力でディスクを投げる。
三連続だけど、どれも乱れることなく真っ直ぐに飛んで行く。若干、ウーちゃんのディスクだけスピードが速い。やっぱ大きいからかな?
俺が投げると同時に三匹も駆け出す。俺と同じく三匹とも身体能力が高いから、全力で走ってはいない。少し余裕がある。
それでもディスクを追いかけるのは楽しいらしく、時々左右にステップを踏みながら走っていく。可愛い。
高度を落とし始めたディスクを、ジロが飛びついて咥える。上手い上手い。そして一目散に俺のところへ駆け戻ってくる。早く次を投げて欲しいんだろう。なんとも犬らしい。そして可愛い。
続いて、ウーちゃんが自分の頭の高さにまで落ちてきたディスクを極自然に咥え、滑らかに方向転換して俺の方へ駆けてくる。上手いなぁ。動きに無駄が無い。美しい、そして可愛い。
タロは空中のディスクを咥えることが出来ず、地面に落としてしまった。転がるディスクを追いかけて円運動をしている。ちょっぴり不器用さんだな。それもまた可愛い。
ディスクドッグの大会だと、今のキャッチで高得点なのは距離が一番長かったウーちゃん、次いでジロかな。落としてしまったタロは、残念ながら記録なしだ。
高さを競う競技もあったはずだから、それだとジロが一番だな。
けど、これは遊びだ。好きなように飛ばし、走り、キャッチすればいい。そもそも大会なんて無いし。
ワンコを飼う文化が根付けばいずれ開催されるんだろうけど、現状じゃ難しいだろう。テイマーを増やさないとな。いや、ブリーダーか。
まずはうちがお手本になって、ウーちゃんの赤ちゃんをとり上げないと。モフモフの子犬……うむ、楽しみだ!
開拓地がこれだけ広かったら、領主館の別館も作れるかな? ディスクドッグができるくらいの庭があると楽しいかも。専用のドッグランだな。一般に開放してもいい。うん、領主権限で押し込もう。為政者特権だ。夢が膨らむな。
よし、それじゃ次行くよー、それっ!
◇
『ちょっと遊び足りないかな?』ってくらいでやめるのが、上手な飼い主としての対応だ。主導権が飼い主にあることを理解させないと、舐めて言う事を聞かなくなってしまうからな。
『俺が疲れたから』じゃないよ? うちの子は、ちゃんと『おしまい』を理解できる賢い子たちです。
というわけで、三匹がそこそこ満足したところで切り上げて、ドルトンに戻ってきた。顔パスで東門をくぐったら、街の中央の冒険者ギルドまでトコトコ歩く。
「ま、魔物!?」
ウーちゃんとタロジロを見て身構えてる人は、最近この街に来た人だろう。昔から住んでいる人たちなら『首狩りネズミと仲間たち』には慣れてるはずだからな。
やっぱり住民が増えてるんだなぁ。身構えているのは冒険者風の人が多いけど、一般市民っぽい人もそこそこいる。あんまり裕福そうには見えないから、田舎から職を求めて出てきた人かもしれない。
この人たち、ちゃんと生活できてるんだろうか? 為政者としては、スラムを作られたり犯罪に走られると困る。早期に衣
『衣』は後回しでもいいけど、『職』と『食』と『住』は喫緊だよな。
住はもうちょっと待ってもらえば何とか出来る。開拓したから。
食も、当面は輸入を増やすことにしてるし、開拓地での農業が始まれば状況は改善されるはず。
問題は職だ。
しばらくは開拓地での建築や農業で人手が必要だけど、その後は失業者が溢れることになるかもしれない。この街で働き続けられる職場と産業が必要だ。何か考えないとな。
ひとつ解決したと思ったら、すぐに次の問題が出てくる。為政者って大変だ。
あれ? 冒険者ギルド前に人だかりが出来てる。何か問題かな?
っ! この気配はバジルたちか! うちの子たちに何かあった!?
「すいません、ちょっと空けてください! 冒険者ギルドの者です、道を空けてください!」
声を掛けながら人集りを掻き分けて進む。支配人だから嘘じゃない。問題が起こってるなら解決しないと。うちの子たちが困ってるなら助けないと!
職権乱用? その通りですが、何か?
俺、ウーちゃん、タロジロの順で人垣を抜けると、そこには三人の男たちとバジルたちがいた。人垣はちょっと広く間を開けて当事者たち(?)を取り囲んでいる。
男たちは革鎧を着ている。冒険者だな。覚えのない気配だから、最近この街に来たんだろう。
顔は見えない。だって、男たちは見事なDOGEZAを決めていたから。バジルたちに向かって。
「お願いします、俺たちを舎弟にしてください!」
「「お願いします!」」
……うん、どういう事?
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