第十章:子爵開拓編

第244話

 俺たちがアレコレしている間、バジルたちも冒険者として頑張っていたみたいだ。冒険者ギルドのランクを表す『星』がふたつになっていた。討伐系と調達系がひとつずつ。

 主に大森林の猪人オークで稼いでいたらしい。猪人は常時討伐対象だし、その肉は人気の食材だから調達依頼が常にある。一挙両得のいい選択だ。


「がんばり、ました!」

「(こくこく)」

「旦那様が居ないと、野営が大変でしたよ!」

「苦行」

「ピーッ! ピーちゃん頑張った! パパ褒めて!」

「おー、よく頑張ったねー。タロジロもいい子にしてたかー? よしよし」


 ピーちゃん、タロジロの順で頭を撫でてやる。

 ピーちゃんはちょっと大きくなったかな? 魔物だから成長が早いのかもしれない。サマンサに新しい服を準備しておいてもらわないと。

 タロジロは……大きさはあんまり変わらないな。けど、ちょっとだけ顔つきが大人っぽくなったような……いや、モフられてデレデレだからよく分からない(笑)。

 おっと、分かってるよウーちゃん。君もちゃんとモフモフしてあげるから割り込まないで。


 中堅、つまり星が五つ以上にならないと護衛系の依頼は受けられない。そういう規定があるわけじゃないけど、信用が足りないから依頼主が採用してくれない。今は地道に星を稼ぐしかない。

 既に星が十を超えている上級冒険者である俺ですら、護衛の星はふたつしかゲット出来ていない。まぁ、俺の場合は子供だからという理由が大きいんだけど。こればっかりはどうしようもない。


「ところで、なんでうちに居るんですか、アリサさん?」

「これも修行のひとつの助。強い魔物や強者の集まる辺境は修行に最適の助」


 サラサの姉のアリサさんが当然のような顔をして寛いでた。リビングの絨毯の上に正座してお茶を飲んでいる。ルカお手製の豆茶だ。お茶受けは芋羊羹。本当に寛いでるな!


「故郷の住民の安否確認はいいの?」

「もう行ってきたの助。もぬけの殻だったから、周辺の集落に言付けを頼んできたの助。何かあったらこの街に来るか手紙を送るように手配しておいたの助」


 なるほど、流石は流浪の武芸者。大会が終わって怪我から回復したら、すぐに里の安否確認に向かっていたみたいだ。まぁ、既に俺たちで廃墟になった集落を確認済みだったんだけど。

 特に新発見は無かったみたいだ。万事上手く、とはいかないよな。この世界は、ただ生きているだけでも厳しい現実を突きつけて来る。


「それはそうとビート様、パーティを開きませんと」

「パーティ?」


 またクリステラが突拍子もない事を言い出した?


「はい。王国では、治める領地を持つ子爵以上の爵位を授かったときに、それを周知するパーティを催すのが通例なのですわ」

「へぇ、そうなんだ?」

「ええ。場所は所領の屋敷で行う事が多いのですけれど……まだありませんわね」

「うん、無いね」


 そうなんだよなぁ。

 ドルトンにあった俺の屋敷は、現在絶賛解体中だ。人数が増えて手狭になったから、改築中というか、建て直し中なのだ。周辺の土地も買収して、広く大きくなる予定。

 なので、今は元々あった旧領主館に仮住まいしている。

 この旧領主館、冒険者ギルドのすぐ裏だから、便利なのは間違いない。街の中心にあるし、職場(冒険者ギルド)までドアツードアで歩いて二分だ。冒険者ギルドの支配人を兼ねる領主としては最高の立地だろう。

 建物も大きく、この地方には珍しい石造りなのも重厚感があっていい。流石は元伯爵邸だ。

 庭が狭いのは、ぐるりと周囲を城壁に囲まれたこのドルトンでは仕方のないことだろう。まぁ、狭いと言ってもサッカーコート一面半くらいはあるから、この街では十分広い。領地持ち貴族の屋敷としては少々狭いって程度だ。

 欠点を上げるなら、温泉が湧いてないことくらいか。

 いや、分かってる。普通のお宅に温泉なんて湧いてないってことは分かってる。

 けど、以前の屋敷には湧いてたんだから、掘り当てちゃったんだからしょうがない。もうその味を知ってしまった以上、今更元の生活には戻れない。

 ここまで水路を引いてくることも考えたけど、以前の屋敷があった街はずれから街の中心ここまで引いてくるのは無理があり過ぎる。途中にある建物を迂回しつつ水路を引いてたら、温泉が只の水になってしまう。

 いずれここは迎賓館にでもして、これから建てる屋敷が新領主館になるだろう。庭付き温泉付き(露天)。なんて素晴らしい!


 というわけで、今現在はパーティを行う会場がない。


「じゃあ、ここでやるしかないね。一応、一通りの設備はあるし」

「せやな。あとは招待客の泊まる部屋と料理の準備か?」

「っていうか、招待するのはこの街の有力者だよね? だったら泊まる必要はないんじゃない?」

「いえ、近隣の領主や下級貴族の方々も呼ぶのが通例ですわ。もっとも、来るかどうかは相手次第ですけれど」


 下級貴族っていうと、領地を持たない男爵と準男爵か。王都近くで年金生活を送ってる人が多いけど、地方で暮らしてる人がいないわけじゃない。ドルトンにも数人いるらしいから、そういう人も呼ぼうってことか。

 年金の受け取り手続きを冒険者ギルドで代行してるから、年始にこの街に居て年金を受け取った下級貴族なら居場所を把握できているはず。それなら案内状も送れるか。


「近隣の領主って言ったら子爵そんちょうとロックマン子爵だよね。子爵はともかく、ロックマン子爵は来ないだろうなぁ」

「ですわね。しかし、一応体裁として招待状は送っておくべきかと」

「面倒臭いなぁ」

「仕方ありませんわ。それが貴族のしがらみというものですもの」


 クリステラが苦笑する。

 けど、生きているとそういう面倒なことをしなければならないことも多々あるものだ。

 行きたくもない宴会に顔を出さなければならないときとか。上司に連れられて、おばちゃんしかいないキャバクラに行かなければならないこともあるのだ。マジ勘弁。


「しょうがないか。それじゃ日取りを決めて案内状を出さないとね」

「ですわね。手配はお任せください! フェイス子爵家の名に恥じぬパーティにして御覧に入れますわ!」

「よっしゃ、腕が鳴るで! 予算管理はまかしとき!」

「パーティなら衣装も必要だよな! イカす盛装を仕立ててみせるぜ!」

「あらあら。それじゃお料理も負けてられないわね。フェイス家秘伝のお料理を沢山作らなきゃ。うふふ」

「いいわね、パーティ! あたしは料理も裁縫も手伝えないけど、飾りつけや余興なら手伝えるわよ!」

「うみゃ、それならアタシも役に立てそうだみゃ!」

「……同じく」

「なんでも、お手伝い、します!」

「(こくこく)」

「お料理のお手伝いならお役に立てるですよ!」

「余興」

「ピーッ、ピーちゃんもお手伝いするーっ!」


 皆がやる気になってる。

 そうだな、こういうのもお祭りみたいで楽しいかもしれない。お祝い事は楽しくないと駄目だ。

 うん、ちょっと子爵になった実感がわいてきた、かも?


「ふむ、お呼ばれするのは吝かではないの助」


 あ、まだ居たのねアリサさん。

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