第243話
気を失った
大騒ぎになった。さもありなん。
重大案件だからと思ってコッソリ連れてきたんだけど、あまり意味が無かったかもしれない。
先々代とはいえ、侯爵家元当主による反乱計画の露呈。文字通り、国を揺るがす一大事だ。
その重大さから、聴取には内務尚書のレオンさんが駆り出されたほど。木っ端役人に任せておける案件じゃないもんな。荷が勝ち過ぎるし、関係者が増えると隠しきれなくなる。
まぁ、露呈は時間の問題だろうけど。
そのお陰で、通常業務が全てストップしてしまった。忙しいのに仕事を増やしてごめんなさい。あの王様以外になら素直に頭を下げられる俺。
その俺も、『真実を包み隠さず話す』という誓約書に署名の上で証言させられた。神殿謹製の魔法の誓約書だ。違反すると激痛の走るアレ。
まぁ、誓約書の内容を今回の一件に限定させてもらったから、アレやコレやの、バレたら幽閉されそうなカクシゴトについては話さずに済んだ。
自発的ならともかく、強制引きこもり生活はしたくない。ネットもゲームも漫画も無いもんなぁ……自分で描くか? 下ネタ漫画。
その甲斐あって俺の証言は間違いないと証明され、お爺ちゃんは神殿で奴隷化されて洗いざらい喋らされたそうだ。俺は立ち会えなかったから、レオンさんからの又聞きだったけど。
多くの人を強制的に奴隷化していたお爺ちゃんが、強制的に奴隷にされて罪を問われる……こういうのを因果応報って言うんだろうな。
なんだかんだで王城に拘束され、ドルトンへ戻れたのは五日後だった。
まぁ、毎朝抜け出してウーちゃんの散歩はしてたけど。だって、それは飼い主としての最低限の義務だ。国の一大事と愛犬の散歩なら散歩を取る。それが正しい愛犬家の姿だ!
ちゃんと尋問の時間には帰ってたから問題ない、はず。きっと。
警備の近衛騎士たちは脱走に気づいてたみたいだけど、特にお咎めは無かった。
それが気になって、どうしてお目こぼししてくれるのか騎士のひとりにズバッと直調してみたら、どうやら王様から『面倒くさい事になるから、できるだけ関わるな』というお達しがあったらしい。
何、その腫物扱い。ひどい、今度会ったら抗議してやる!
まぁ、その王様もいろいろ仕事が増えたみたいだから、今回だけは勘弁しておいてやろう。
で、当然、王様による大森林の拠点の視察は無期延期になった。今回の一件では数少ない朗報だ。そのまま中止になってくれると、もっと嬉しい。
ドルトンに帰ってからは平穏そのものだった。
代官としての事務仕事、冒険者学校でこども先生、街道工事で重機代わりの造成作業、不足してきた石鹸とシャンプーの補充。やる事は多かったけど、概ね平常運転だ。
……ちょっと働き過ぎだな、俺。
まぁ、工事はいつか終わるし、学校も体制が整えばお役御免になる。そうしたらもっと自由時間がとれるようになるだろう。
つまり、遊べる時間が増える! やっぱ、子供がアクセク働かなきゃいけない世の中は駄目だと思うんだよ、うん。子供は遊んでこそ子供だ。
そんな感じで一か月ほど経過したある日、王城からの呼び出しがあった。ようやく事件が決着したらしい。当事者の俺への報告と褒賞の件についての相談だそうだ。
季節は既に春を過ぎ、そろそろ初夏になろうとしている。結構時間がかかったな。
まぁ、国の柱のひとつだった侯爵家によるクーデター騒ぎだ。各所に影響が出ただろうから、時間がかかるのは仕方がない。
王城へ向かうと、通されたのはいつもの『青薔薇の間』だった。
確か
中に入ると、王様とレオンさんが既に待っていた。普通、こういうのって格下が先に来て待ってるものじゃないの? いや、そんな形式がどうでもよくなるくらい
「まったく、なんでお
開口一番、王様に非難された。まったく、心外だ。
「いや、僕は降りかかる火の粉を払っただけだよ。先に手を出してきたのはあっちだからね? 僕は悪くないと思うな」
「ちっ、確かにそうだけどよ、もうちっと穏便に済ませられなかったのかよ?」
「十分穏便だと思うよ? 容疑者は死んでないし、王城外に情報は漏れてないでしょ? 気を使ったんだよ、一応」
「ぬぐぐ……はぁ、そうだな。
うん、
事が事だけに、公にするのはタイミングが重要だと思って、できるだけ早く、出来るだけ秘匿しながら容疑者共を連行してきた。まだ王都では騒ぎになってないみたいだから、それなりに効果はあったと思う。
よく見れば、王様もレオンさんも目の下に隈がある。このひと月ほどの苦労が偲ばれる。
王様はともかく、レオンさんはお疲れ様です。お土産に持ってきた焼酎で英気を養ってね。
でも今回の件では、俺は完全に被害者だ。その俺が苦労して事件を解決してきたんだから、責任ある大人にも苦労してもらわないと。
「もうよろしいですか? では当事者のフェイス殿へ、今回の一件の顛末をお話しいたしますよ?」
「ああ、頼まぁ」
レオンさんが王様に確認をとってから話を始める。王様はテーブルの上の組んだ両手の上に額を乗せ、顔を伏せて沈黙する。
ああ、見た目以上に疲弊してたんだな。お疲れ様と言いたいけど、普段の無茶振りと相殺ってことでスルー。日頃の行いを反省しなさい!
「まずは報告から。ユミナ侯爵家は取潰しになりました。一族郎党、極刑または犯罪奴隷です」
まぁ、これは当然だ。貴族家元当主による国家反逆罪だもんな。未遂だったのは俺が動いたからであって、情状酌量の余地はない。連座で一族全員が処分されるのは必然だ。
けど、出来れば何も知らなかった人の極刑はナシでお願いしたい。知らない間に犯罪者にされて殺されるのは不憫だ。
その旨を伝えると、
「ご心配なく。聴取して無関係だった者は奴隷落ちにしております」
ということだった。
っていうか、『しております』ってことは、既に処分済みなのか。多分、極刑の方も既に実施済みなんだろう。仕事が早いのはいいことだけど、その冷徹さがちょっと怖い。
「侯爵領は王家直轄領となります。当面は派遣している監察官がそのまま代官となります」
ああ、幼い当主を補佐するためという名目で中央から派遣されてた人ね。
確か肩書は『補佐官』だったはずだけど、今、隠しもせずに『監察官』って言ったな。
まぁ、内実がそうだったのは公然の秘密ってやつだったしな。対象が無くなったから、もう隠す必要もないってことか。
「ガラハッドによって隷属化されていたものは神殿で再隷属化を行い、聴取を行いました。十三人委員会の中枢近くに居たものは同じく極刑、望まず協力させられていた者は開放して罰金刑または期間奴隷としました」
罰金刑はそれほど多額じゃないし、期間奴隷も数日の奉仕活動で済むそうだ。
処罰無しとするには、たとえ本人の本意でなかったとしても、内容が重すぎるためだそうだ。
現代なら情状酌量で無罪かもしれないけど、ここは封建国家だ。その程度の罰で済むのなら、かなりの温情措置と言える。最大限の譲歩をしたってことだな。
詳細を聞くと、十三人委員会の手は既に王国の中枢近くにまで伸びていたそうだ。
まず、魔道具研究所の首脳陣はほぼ全員が隷属化されていて、その研究成果は全て委員会に流出していた。むしろ、委員会のために研究しているような状況だったようだ。
そしてラナの街の主要な顔役も多くが隷属化されていた。その中にはラナ冒険者ギルド支配人のダイス氏も含まれていた。
道理で、俺の個人情報が委員会に漏れていたはずだよ。世間の噂話だけじゃ分からない情報まで知られていたもんな。
そうか、例の斥候三人の情報もダイス氏から漏れていたんだな? だからラナの街に戻った途端に拉致されたのか。俺が来るまでは泳がされていたと。
ダイス氏は強制的に隷属化された口だそうで、罰金刑のみで役職は据え置かれたそうだ。思っていた以上の温情措置で安心した。
そういえば、ダイス氏はそれとなく俺に委員会の事を教えてくれていた。オカルトっぽく話してたけど、多分あれが誓約下でのギリギリラインだったんだろう。農民親子は喋る前に自死させられてたもんな。
それだけでなく、王城に務める役人も数名が隷属化されていたそうだ。それはヤバい。反乱が実行されてたら、王城の混乱は避けられなかっただろう。
「遺跡の機能は全て停止していましたが、魔道具研究所の資料によると、中枢に新たなコアを設置すればまた稼働を始めるようです。が、王国としてはその危険性を重視し、一部を除き破壊することに決定しました」
あら勿体ない。
けど、確かにあの遺跡にあったものは危険だ。使い方を誤れば、簡単に第二、第三のお爺ちゃんが誕生してしまう。破壊もやむを得ないか。
「これらの処分は明日公表されます。流石に関係者が多すぎて、全てを隠蔽することは不可能と判断しました」
まぁ、そりゃそうだな。ラナの街の有力者が軒並み処罰されたわけだからな。人の口に戸は立てられない。隠してもすぐにバレる。
「それで、ここからが今日の本題、今回のフェイス殿への褒賞の話です」
「ここからは俺が話そう。小僧、ぶっちゃけ、お前ぇは何が欲しい?」
「え? まだ決まってないの?」
「ああ。事が事だからな。ケチるわけにはいかねぇが、やり過ぎるわけにもいかねぇ。その辺の塩梅が上手く決まらなくてな。いっそ本人に聞いてみようって話になったのよ」
「うーん、欲しいものはあのコアとか転移の魔道具とかだけど、それは駄目なんだよね?」
「そうだな。どっちも世間に流すのは拙いシロモノだ。国が管理下に置くしかねぇ」
残念。あのコアや台座があれば、ジョンを神に進化させられたかもしれないのに。
転移の魔道具も、よく訪問する場所に設置すれば移動時間の短縮ができたかもしれない。
まぁ、ダメ元で聞いただけだから、実はそれほど残念でもない。
「うーん。だったら、特に欲しいものはないなぁ。適当な報奨金だけでいいよ」
「やっぱりか。けど、それだと示しがつかねぇんだよ。何かねぇのか?」
「んん~? 何かあったかなぁ?」
正直、報奨金ですら、それほど欲しいとは思っていない。既に資産はある程度確保してあるからな。明日からでも隠居生活が送れる。『まだ十歳にもなっていないのに隠居っていうのはどうかな?』という感じで保留しているだけだ。
「今回の一件で貴族派はボロボロだ。お陰で王城じゃ王家派が完全に主導権を取ったんだけどよ、その王家派の中からもお前ぇを危険視する連中が出てきてんだよ」
曰く、あまりにも早く頭角を現し過ぎてるからだそうだ。それを『自分の地位が脅かされるかもしれない』と危惧する王家派貴族が少なからず居るようなのだ。
「今回もお前ぇにデカすぎる褒賞を与えたら、お前ぇの影響力が強くなりすぎるっつってな」
「無駄な心配だね。僕は派閥争いなんて興味ないよ」
「だろうな。けど、何も無しってわけにはいかねぇし、名誉職は前回くれてやっちまったしなぁ」
そもそも王家派でもないしな! 俺は俺派だ。俺のためだけに生きる!
「しょうがねぇ。それじゃあ小僧、お前ぇにはユミナ侯爵家の資産の三割と子爵の位、それと領地をやる。資産の全部をやると宮廷雀共がうるせぇから、三割で我慢しろ。残りはいずれ還元してやる。領地は旧ドルトン伯爵領と大森林に拓いたっつう村、それとその周辺だ。しっかりやれよ?」
……え? 子爵? 俺が? っていうか、旧伯爵領全部?
「いや、それもう伯爵じゃないの? 旧ドルトン伯爵領全部なんだよね?」
「仕方ねぇだろうが。男爵から一足飛びに伯爵ってぇのは他の貴族からの反対がでけぇ。かといって、小さな領地じゃ功績に見合わねぇ。『領地は広いが爵位は子爵』、そのくらいが落としどころってこった」
ありゃ。
ついこの間男爵になったばかりなのに、もう子爵になってしまったみたいだ。
なんか、領地っていう綱で王国に縛り付けておこうっていう意図が見えなくもないけど、どのみち大森林のネコたちの世話はしなきゃならないし、その大義名分が出来たと考えるとしよう。
ビート=フェイス、九歳。
正式な領地持ちになりました。
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