第241話
亜〇ちゃんは語りたい。お爺ちゃんも語りたい。多分そういう種族なんだな、お爺ちゃんという存在は。
「この遺跡に組み込み、復活を果たしたコアは魔力を求めた! 与えた魔石を喰らい、ワシの魔力を吸収することによって、ついに神へと至ったのだ!」
ダンジョンから属神へ。以前天候と裁きの神に聞いた通りだな。
属神へ至るには何か条件があるって話だったけど、それは教えてもらえなかった。この偽神ユミナはそれを満たしたんだろう。
あるいは、この遺跡にその条件を満たすための仕組みが組み込まれているとか? あり得るな。
おそらくここは古代魔法文明の遺跡だ、そのくらいの秘術が残っててもおかしくない。なにしろ、神を生み出すための施設だからな。
「この遺跡を掌握したワシを妨げるものは何も無かった! 神へと至った偽神ユミナは、その権能を以って計画を加速させたのだ! それは正に神の計画だった!」
このお爺ちゃんは火の魔法使いだ。気配察知で見ると、そこそこ濃い赤のオーラを纏っているのが分かる。ルカと同じくらいか? 結構な使い手だ。さすが元王族。
その魔力を吸って、あの大きさにまで成長したのか。
コアの大きさだけならジョンも負けてないけど、ジョンはまだ属神になってない。やっぱり、この部屋に何か仕掛けがあるんだろう。あの台座とか怪しいよな。事が片付いたら調べてみよう。
こっちにはお構いなしで語っているお爺ちゃんを無視して、クリステラが俺の耳元へ口を寄せる。
「ビート様、先ほどからわたくしの『天秤』が上手く働きませんの。阻害されているようですわ」
「ほんと? ああ、多分この部屋に満ちてるユミナの魔力のせいだよ。皆にも注意するように言っておいて」
「承知致しましたわ」
この部屋は全体が、かなり濃いユミナの魔力に覆われている。その魔力のせいで、クリステラの魔力的な視線が通らないんだと思う。霧で先が見通せないって感じ? デイジーの『先読み』にも影響があるかもしれない。
と言っても、ユミナの魔力は無色透明、固有魔法の色だな。無色透明なのに見通せないとか、何かの禅問答かよ。
とはいえ、実際に阻害されているんだから仕方がない。ちょっと厄介だ。
でも俺の気配察知は通ってるな。もしかして、魔法とは仕組みが違う? いや、パッシブとアクティブの違いかも。そのあたりは気にしたことが無かったな。今度詳しく調べてみよう。
平面は……出せるな。魔法無効ってわけじゃなさそうだ。それならやりようはある。
「そう! こやつに魔力を与え、意思を伝達できるのはワシひとり! ワシは神に選ばれたのだ! 尊き
まだお爺ちゃんの独白が続いてた。いけないな、途中から思考に
王権神授って話か。王制の国はだいたいそうだよな。神様が国を治めろって命を下したってやつ。この世界では本当に神様が居るから、授かるというより許可を貰うって感じだろうけど。
っていうか、偽の神様に貰った権利って偽物なんじゃないの? 意味なくない? まぁ、鰯の頭も信心からって言うけどさ。
そういう意味じゃ、偽の神様でも神様……なのか?
「王朝の復興ってことは、やっぱりお爺ちゃんは十三人委員会なの?」
「うん? くくく……十三人委員会か。そうだな、確かに十三人委員会だ。いや、だったと言うべきだな。なぜなら、今やワシこそが十三人委員会なのだから!」
「どういうこと?」
「ふははっ、こういうことよ! 出でよ魔物ども! こ奴らを始末しろ!」
お爺ちゃんが角柱に手を翳すと部屋の壁の数か所にアーチ形の穴が開き、そこから
あの角柱はコンソールか。某天空の城の中枢にあったヤツっぽく見えなくもない。そういえば、この部屋のレイアウトはあの制御室にちょっと似てるかも。オマージュ? 草は生えてないけど。
湧いて出た魔物は、少なくとも五十匹。部屋の中央にいるお爺ちゃんを無視して俺たちへと向かってくる。これは、魔物を操ってる?
「ふはははっ! これこそ偽神ユミナの権能、『強制隷属化』よ! その力は魔物すら隷属させる! 残念ながら、生け捕りにできる魔物の強さは高が知れているがな。その分は数で補えば良い! さぁ、この数の魔物を捌ききれるかな!?」
「えっと、それってつまり……」
「そう、その通りだ! この力でワシは委員会の無能共を全て隷属させたのよ! 決してワシに逆らわず、命令に従順な手駒に変えてやったのだ!」
うわ、最悪だ、このお爺ちゃん。自分に従わない構成員は無理やり奴隷にしたってことかよ。
いや、この口ぶりからすると、構成員全員を奴隷にしてるっぽい。マジで最悪だ。
なるほど。この力を手に入れたから、旧王朝の復古に動き出したのか。誰も逆らえなくなるんだから、絶対王政も簡単だ。
決して逆らえない国民と絶対的独裁者。
アーニャもこの力で隷属化して従わせるつもりだったんだろう。その後で潮流の神の巫女にして、その権能を操ろうって魂胆だったと。
属神と偽神とはいえ、神が二柱も居たら抵抗できる勢力なんてない。
そうか。俺がアーニャを押さえているから、それに危機感を持ったってこともありそうだ。アーニャを巫女にすれば、俺が属神の力を操れることになるからな。
不本意ながら、俺は国王の懐刀って言われているらしい。つまりバリバリの国王派だと思われている。
その俺が神の力を操れるとなれば、ユミナ王朝復活の最大の障壁になる。そりゃ、何としてでもアーニャを手に入れなければってもんだ。
あれ? それなら俺の暗殺でも良くない? そうすればアーニャの所有権は宙に浮く。ちょっと工作すれば権利を手に入れられたかもしれない。何でやらなかったんだ?
おっと、考え事してる間にもう魔物が目の前だ。でも慌てない。所詮猪人やゴブリンだ。いつもの散歩で狩るのと同じ。
緩急を付けて懐に入り、腰から抜いた鉈と剣鉈を一閃。首または足首を切り落とす。これで即死または行動不能だ。もう脅威じゃない。あとはこれを繰り返すだけ。
千匹の群れでも平気だった俺が、高が五十匹ほどに押されるわけがない。更に、今回は仲間もいる。あっという間に駆逐完了だ。
「くっ、手強いだろうとは思っていたがこれほどか! 偽神ユミナが正攻法は不可能と判断するわけだ」
いや、その正攻法って暗殺だよね? それ、尋常の手段じゃないから。『正』じゃないから。
俺の暗殺が行われなかったのは偽神の判断か。俺の戦闘記録を何処からか入手して、それで暗殺は難しいと判断したんだろう。わりと冷静なんだな。
「だがこれだけではないぞ? 偽神ユミナの真の力はこれからだ! やれっ!」
お爺ちゃんの声に呼応して、部屋の中の魔力が俺に収束してくる。ヤバい、何かの魔法攻撃か!?
自分と仲間たちの周囲に平面の
……。
何も起きないな? 失敗か?
「ふはははっ、これで貴様もワシの手駒よ! さぁ、ワシに忠誠を誓え! 跪いて許しを請え!」
「え? 普通に嫌だけど?」
「っ!? 隷属化が発動してないだと!? 何故だ!? 貴様、何をした!」
何ぃっ!? 今の、強制隷属化の魔法か!?
ヤバい、ヤバすぎる!
おそらく、今の魔法を防げたのは練った魔力で抵抗力を上げてたからだ。偽神ユミナの魔力が俺よりも低くて助かった。
いや、これまで地道に魔力を鍛えてきたおかげだ。努力と継続は力、いや、地力なり。
けど、他のメンバーはそうじゃない。まだ俺ほどの魔力を手に入れていない。偽神ユミナよりも魔力量が低い。
とうことは、アレを喰らったら隷属化されてしまう!?
「皆、撤退! 一旦引くよ!」
「させるかっ! ユミナ、
っ! 偽神ユミナの魔力が皆に収束していく! させるか!
練った魔力を
「「「ああっ!?」」」
皆の動きが一瞬止まる!
くっ、送った魔力が足りなかったか!? タイミング的には間に合ったはずなのに!
「……ビート様、いきなりでは驚いてしまいますわ」
「ホンマや、一言
「ボスは強引だみゃ! 尻尾の毛が逆立ったみゃ!」
「アタイはちょっと痛気持ち良かった、かも?」
「うふふ、ビート様のがわたしの中に……うふふふふ」
「急に大きいのが入って来て、びっくりしたわ!」
「……くせになりそう」
……抵抗はできたみたいだ。良かった。
でも皆ちょっと頬が赤い。言い回しも何かいやらしい。もしかして、魔力譲渡には変な効果があるのか? 今までそんなこと無かったよな?
ああ、ウーちゃんもビックリさせちゃったね、ごめんごめん。でも、あんな奴の従魔にはさせたくなかったんだよ、許して、ね?
いや、それどころじゃないよ! ほら皆、脱出しないと!
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