第230話
うう、家に帰りたい。
王都での武術大会決勝戦終了から三日、俺はまだ王都にいた。いつもの王城、いつもの青薔薇の間にだ。
理由は簡単、いつものアレ、王様の横暴だ。本物の権力者にジャイアニズムを振りかざされると、小市民には抵抗の
「それでだな、次回大会の内容と期間なんだがよ……おい、聞いてんのか小僧?」
「ああ、はいはい、聞いてますよ。っていうか、そういうのは
「あいつも忙しいからな。ってか、内務全体がいっぱいいっぱいなんだよ。こっちで叩き台くれぇ用意しておいてやらねぇと、あいつら倒れちまわぁ」
こんな感じで、アレやコレの相談や報告をさせられている。
今は俺が倒れそう……でもないけど、休みたい。子供に対する労働圧力が強すぎる。児童保護法の制定を強く求めます。
そもそも、内務が忙しいのって今回の大会のせいじゃないの? 各種手配やら賭けの取り仕切りやらで、間違いなく通常業務を圧迫してるでしょ。原因は王様じゃん! 俺に後始末を押し付けるなよ!
「それでだな、次回以降は二年に一回、予選は一月中旬から、本戦は二月の中旬から初めて三月一日に決勝戦ってことでどうでぇ?」
「うん、それでいいんじゃない? 今回みたいに一日で三戦もする形式だと、ケガで戦えなくて不戦勝も多くなるだろうし。今回一試合だけだったのは運が良かっただけだよ」
「あいつか。根性はありそうだったな。騎士団に入団希望らしいから、入ってきたら隊長候補にして鍛えてやるか」
えっと、バルス? バブルス? なんかそんな名前だった気がする。決勝トーナメントで唯一ドクターストップがかかった選手だ。王様の中では、すでに幹部候補らしい。羨ましいなぁ(棒読み)。
「ふむ。そうなると、最終日は一日の試合数が少なくなるな。参加する側としてはいいが、観る側はつまらなくなるんじゃないか?」
俺が帰れないから、子爵も自領に帰れない。普通に帰ることも出来なくはないけど、一週間以上かかってしまう。俺と一緒なら半日だ。
それ以前に、子爵は王国の軍幹部でもある。各騎士団長と同等の命令権を持つ中将の位を貰っている。だから、子爵は王様と相談しててもおかしくない。
むしろふたりだけで進めてくれていい。進めてくれていいんですよ?
ちなみに、中将以上は元帥兼将軍の王様と、空席の大将しかいない。つまり現状では王様だけ。俺はもちろん無位無官だ。まだ子供だし。
だから、ふたりだけで進めてくれていいんですよ? マジでマジで。
「それなんだがよ、次回以降は部門別にしようかと思ってよ」
「部門別というと、武器別か? 危険じゃないか?」
「そこは模擬武器と防具でよ。審判も用意して、だな。まぁ、多少のケガはしょうがねぇ。死ななきゃいいだろ」
「ふむ、なら男女も分けた方がいいな。魔法はどうする?」
「もちろん禁止……いや、魔法だけの競技会を別に作るか。そっちは対戦じゃなくて評価会だな。いやいや、出場者が貴族ばっかになるか。やっぱヤメだ、後始末が面倒臭ぇ」
そんな感じで話が進んでいく。
「それじゃ、次回の素手部門は、優待選手でダンと小僧の出場は決定な」
「えっ、やだよ」
「あぁん!?」
またそんな昭和のヤンキー漫画みたいな顔して。
でも駄目、次回大会は出場する理由が無い。それに俺、他にやりたいこともいっぱいあるしさ。
「今回僕が勝ち進められたのは、他の選手が知らない技術を持ってたからだよ。でもそれもバレちゃったから、次からは通用しないと思うな。盛り上がらないよ」
「おう、それだ」
どれだよ。
「お前ぇ、あの技は一体なんでぇ? 付け焼刃や思い付きにしちゃあ、随分とサマになってたじゃねぇか?」
「それはオレも知りたいな。一体どこで覚えた?」
ありゃ、やっぱり訊かれるのか。
そりゃそうだよな。これまでにない技術のオンパレードだったもんな。少しでも目端の利く人なら気になって当然だ。まぁ、一応、言い訳は考えてある。
「アレはうちの奴隷たちとの訓練で鍛えたんだよ。うちにはエンデ出身の子もいるしさ。ほら、準決勝で戦ったアリサさんの妹とか、元王族とかさ」
「ふむ、
「本当かぁ? まぁ、いい。そういうことにしといてやるか」
王様はなんだか疑わし気なジト目だけど、俺はすっとぼけてスルーする。前世の記憶のことは明かせないからな。
王様も子爵も、それ以上深く突っ込んではこない。そういう点は大人だなぁと思う。
「ちなみによ、直接攻撃する魔法だけを禁止にしたら試合になるか?」
「試してみる?」
俺は軽く練った魔力にそこそこの殺気を載せて王様に叩きつける。
「っ!?」
王様は椅子を掴んで大きく後ろに飛び下がる。そのまま腰を落とし、椅子の背もたれを持ち、足をこちらへ向けて構える。なんかアクション映画のワンシーンみたいだ。即位しても身体を鍛えてるのは怠っていないらしい。流石は剣聖だ。
王城では爵位に応じた得物を持つけど、王様だけは無手が基本だ。だから椅子を武器替わりにしたんだろう。脂汗を流しながらマジな顔で椅子を構える王様。ちょっと笑える。
「ベン!?」
「……小僧、今のは洒落になんねぇぞ? 何しやがった?」
「練った魔力に殺気を載せてぶつけただけだよ。魔法の一歩手前の技だね。物理的な攻撃力は全くないよ。全力でやると気絶させるくらいは出来るけどね」
「……やっぱ魔法は全面禁止だ。やべぇ奴だとは思ってたがよ……予想以上にやべぇな、お前ぇは」
ゴブリンだとショック死する奴もいたけどな。多分、体内にある魔石が原因じゃないかと思う。
ん? だとすると、実体のない魔物にも効くかな? 今度ゴースト系に遭ったら試してみよう。
「それじゃ次の話にいくか」
王様が戻って来て、手に持っていた椅子に座る。
「お前ぇが
わんぱく姫が迎賓館に侵入してきた夜の一件だな。蝙蝠もだけど、夜の街をネズミが闊歩していた様子を報告して、病気との関連性を説明して注意喚起しておいた件だ。
子供のいう事だから無視されるかと思ったけど、ちゃんと調べてたんだな。横暴だけど有能だから対応に困るよ、この王様。
「うーん、一番簡単なのは罠かなぁ。返しのついた檻にエサを入れて誘い込むとかさ。捕まえたネズミは焼いて埋めるしかないね。食べたら病気になるかもしれないし」
「毒餌はどうでぇ?」
「それだと死体を回収できないんだよね。病気を持った死体もやっぱり病気の元だし」
「そうか。なら罠だな。仕掛けを作って冒険者ギルドにやらせるか。王都は仕事が少ねぇしな。ペーペーの仕事にすりゃ、ちっとは稼がせてやれるだろう」
「ふむ、
そんな感じで会議(?)が進む。
暗殺未遂の件の捜査の進捗とか、街道と港の整備状況とかを報告されたりしたり。
なんで
そしてそろそろ議題も出尽くして『やっと帰れる!』と思った頃。
「小僧、今回の件では本当に助かった。で、だ。礼として、お前ぇには『王室魔導士』の役職をやる」
「えっ? 要らない」
「あ゛ぁん゛!?」
ノータイムで断ったら、また王様がヤンキーになった。そのまま『
「だって僕、辺境で冒険者したいし。王室魔導士って王都に詰めてなきゃいけないんじゃないの?」
「心配すんねぇ、名前だけだ。ダンと一緒で、普段は好きにしてていい。呼び出しがあればこっちから連絡すっからよ」
「ふーん。っていうか、そもそも王室魔導士って何する役職なの?」
「決まった仕事はねぇな。っつうか、ここしばらくなった奴がいねぇ。大体の魔法使いは領地を継いで領主になるからな。お前ぇが数十年ぶりの王室魔導士だ。給料は高級官吏並みに出るぞ。良かったな」
「え? でも、仕事無いのにお給料貰っていいの? 今の内務改革に逆らってない?」
「それな。本当はドカッと褒美をやりてぇんだがよ、暗殺未遂事件があったことは伏せられてんだろ? ディクソンの誕生日を記念した武術大会の初回にケチがついちまうからな。褒美も大っぴらにはできねぇから、ちっとずつやろうってことで、こういう形にしたってわけよ。お前ぇが魔法使いでオレの派閥なのは有名だからな。役職に就けても問題ねぇ。ってなわけだから、遠慮せず受け取っておけ」
「うーん、そういう事なら、まぁいいか」
決まった仕事が無いっていう点が気になるけどな。それって、逆説的に『何でもやらされる』ってことじゃないの? ドロドロした権力闘争の後始末とかさ……お給金だけ貰って、出来るだけ王都には近づかないでおこう。
さて、これで本当に王都での仕事は全部終わりかな? ようやく我が家に帰れるよ。
帰ったら温泉でゆっくりしよう。そしてジョンの所に行ってウーちゃんたちと楽しい狩り暮らしをするんだ。
「あ、そうそう。小僧、来月の一日に城まで顔出せよ。そんで、お前ぇが作ったっていう大森林の村まで俺と官吏何人かを連れていけ、案内しろ。視察ってやつだ」
はい?
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