第八章:武術大会編
第213話
「皆、明けましておめでとう。今年もよろしくね」
「「「明けましておめでとうございます!」」」
今年も無事に年が明けた。
朝のダイニングに揃った皆に俺が挨拶をすると、皆も揃って挨拶を返してくれた。俺を入れて総勢十二人と四匹か。うむ、大所帯になったものだ。
おっと、ジョンも居たな……ジョンはどう数えればいいんだろう? 建物なんかは一棟だけど、ピラミッドは一基だっけ。
それじゃあ、ダンジョンは? 一匹? 一個? うーん……もう一ジョンでいいか。総勢十二人と四匹と一ジョンだ。ホント、大所帯になったものだ。
えっ、お魚の養殖? ちゃんといつものように丸投げしてきましたが、なにか?
仕事なんてものは、出来る人がいるならその人に任せた方がいいのだ。何でも自分で抱え込むと、無理が積もって破綻してしまう。前世で懲りたよ。
俺がするのは、方針の決定とちょっとした知識の供与だけだ。あとは担当者の創意工夫に任せる。本来、仕事というのはそういうものだ。
そうして出た利益は経営者が吸い上げる! ふはははっ、悲しいけどコレ
まぁ、今回の一件は村の自立事業だから、利益なんて出ないんだけどね。悲しいけど。
三が日は
学校での俺たちの講義と代官としての仕事は十日まで休みにしてあるから、ちょっとくらいなら予定が狂っても問題ない。俺にはあんまり関係ないけど、交通機関の発達していないこの世界では、旅行の日程に十分なマージンをとる事は常識だしな。
……でも、十分な余裕をとったつもりでも、そういうときに限って大きく予定を狂わせるような
よし、何も考えないようにしよう! 世はなべて事も無し!
「それじゃ、新年のお楽しみ、特別賞与を配るよ。いくら入ってるかは、貰ってからのお楽しみ、と言っても、計算してくれたクリステラとキッカは知ってるんだけどね」
「まぁ、ぶっちゃけると、前回とおんなじくらいやな」
「昨年は、収入は多かったんですけれど、支出も多かったのですわ」
俺の奴隷である六人に、お金が入った小袋を手渡ししていく。去年稼いだ利益の一割を貢献度に応じて頭割りしたものだ。神様に定められている、奴隷に支払う正当な報酬だ。
金額としては、前回とほぼ同額だ。去年はいろいろと稼がせてもらったんだけど、この拠点の開発やドルトンでのアレコレで、結構支出も多かった。結果として、去年とほぼ同額ということになってしまった。
ちなみにこの賞与は、拠点に住んでいるネコたちには支給されない。彼らは犯罪奴隷であるため、最低限の生活保障以外の報酬の支払いは必要ないと神様に定められているからだ。
まぁ、そもそも今年は俺の利益には貢献してないから、褒賞の対象外なんだけど。新年のお祝いとしてお酒や乾物は支給してあることだし、それで我慢してもらおう。
「ははは、またこんなに入ってるじゃん。金銭感覚がおかしくなっちまうよ、アタイ」
「あらあら、また冒険者ギルドに預けにいかないといけないわね。うふふ」
「その前にお魚買うみゃ! 象鮪一本買いだみゃ!」
「……鼻が美味しい」
喜んでもらえているようでなによりだ。それより、その象鮪というのが気になるんですけど? なんか、途轍もなくデカいことが予想される名前だよな、それ。今度買ってみよう。いや、獲りに行こう!
「はい、バジルたちにもあるよ」
「えっ?」
子供たちにはお年玉だ。バジルたちは俺の奴隷じゃないから賞与の対象じゃない。でも、何も無いのはかわいそうだからお年玉をあげることにした。金額は一律大金貨一枚、約百万円くらいだ。
多額の金銭を子供に与えるのが好ましい事ではないと分かってるんだけど、一方で、冒険者の感覚では大金貨一枚はそれほど高額でもなかったりする。
ちょっと上等な武器や防具には普通に大金貨数枚ほどの値がついてるし、難易度の高い採取依頼なら金貨数枚の報酬もザラだし、盗賊の討伐依頼なら大金貨数枚ということも珍しくない。自分の命を懸ける仕事だから、見返りもそれなりに大きいのだ。
「君たちの狩った飛竜の売却益もあるし、家のお手伝いも頑張ってくれたからね。遠慮せず受け取っておいてよ」
「あ、ありがとう、ございます!」
「(ぺこり)」
「凄いですよ! 初めて大金貨に触ったですよ!」
「感動」
皆、喜んでくれたようだ。若干一名、感情が薄い子もいるけど。サラサ、感動してるなら、せめて無表情はやめて。僕は君の笑顔が見たいんだ。
「ビート、アタシには?」
「ないよ?」
「なんでよ!」
「嘘だよ。はい、これはジャスミン姉ちゃんの分ね」
「なによ、あるんじゃない! ありがとう、ビート!」
「無駄遣いしないようにね」
一応、ジャスミン姉ちゃんにも用意してある。ひとりだけ貰えないというのは悲しいからな。中身は子供たちと同じ、大金貨一枚だ。
普段の生活費は全部俺持ちだから、ジャスミン姉ちゃんが現金を必要とすることは、基本的には無い。
ただ、不測の事態やちょっとした買い物で必要になることが無いとは言えないから、普段から大銀貨数枚(数万円)程度は持たせてはいる。今回はその特別版だ。
『無駄遣いしないように』とは言ったものの、基本的にジャスミン姉ちゃんはお金を使わない。ちょっとした買い食い程度だ。
物欲が低いというよりは、お金を使う習慣が無かったから買い物をしようという気が起きないんだと思う。開拓村には店ってものが無かったからな。
今回欲しがったのも、お金が欲しいんじゃなくて、自分だけ貰えないのが寂しかっただけだと思われる。
個人的には、せっかく美人でナイスプロポーションに育ったんだから、少しくらい着飾ったりアクセサリーを身に着けてもいいと思うんだけどな。それくらいの余裕はあるんだし。ちょっともったいない。
「ピーッ! ピーちゃんは?」
「うん? ピーちゃんも欲しいの? でもピーちゃんはお金使わないでしょ?」
「ピーッ、ピーちゃんもほしい! そのキラキラしたやつ!」
ピーちゃんがお金を欲しいと言うから、もう金銭の価値を学習したのかと驚いたら、どうやら光る物に興味があっただけらしい。そういえば、一部の鳥にはキラキラ光る物を集める習性があるんだったっけ。カラスとか。
ピーちゃんはセイレーンで、主に海辺に暮らす魔物だ。主食は魚らしい。
なるほど、それであれば光る物に興味を惹かれるのも無理はない。陽の光に魚の鱗が反射するのを追うのと同じ理由で、光る物に目を奪われてしまうのだろう。ペンギンが鏡の反射を追いかけちゃうのと同じ。
この世界の硬貨は法と商売の神様謹製で、汚れたり壊れたりすることがほとんどない、一種の神器だ。いつまでもキラキラピカピカしている。セイレーンが欲しがっても不思議ではない。
「そうだね、じゃあ、これをあげるよ。紐を通して首から下げればいいかな? 失くさないようにね」
「ピーッ! パパありがとう! ♪~」
大銀貨の中央には直径一センチほどの穴が開いている。この穴に適当な革紐を通し、ペンダント状にしてピーちゃんの首に掛ける。
大銀貨にしたのは、一番魚っぽい色だったからだ。案の定、ピーちゃんはご機嫌だ。嬉しい時に出る、いつもの歌が口から漏れている。魔力の乗った呪歌じゃないけど、魅了されそうないい声だ。
しばらく皆でピーちゃんの歌を聴いた後、今年最初のご馳走を頂いた。
栗金団は完璧だった。皆にも好評だ。これでまたひとつ、異世界生活が充実した。ルカには感謝しかない。
そうだ、今年はもち米を探して、来年の年明けには雑煮を食べよう。うん、いい目標ができた。やる気も出る。
今年も良い年になりそうだ。
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