第200話
「マジか……」
「これはなんとも……とんでもない大物が出てきてしまいましたね」
王様は両肘を突いて両手で顔を覆ってしまった。さっきは片手だったから、ダブルにパワーアップだ。更にパワーアップしてトリプル以上の場合はどうなるのか、進化(?)に興味があります!
レオンさんは腕を組んで俯き、左手で顎の先をつまんで難しい顔をしている。左利き? いや、俺は右利きだけど、左手を自然と顎に持ってきてしまうな。ということは右利きか。
ふたりが何にショックを受けているかというと、俺が誰でも魔法使いにできてしまうことを知ったからだ。いろいろと隠してることのうち、比較的軽度と思われる事柄を暴露したのだ。
経緯としては、
『報告書の通り、旧シーマ王家の生き残りを大森林に匿ってる。エンデ首脳も承知の上だよ』
『魔物の跋扈する大森林にどうやって?』
『魔法で塀を作ってその中に』
『お前ぇの魔法か? 確か一時的なものじゃなかったか?』
『仲間の土魔法使いに作ってもらったんだよ』
『誰だ? 俺の知ってるやつか?』
『ううん、(正直にダンジョンだとは言えないので)旅で仲間にした孤児の少女|(サラサのこと)だよ』
『その少女は元貴族か?』
『ううん、平民|(たぶん)』
『平民なのに、なんで魔法が使えるんでぇ?』
『僕が教えたから』
『お前ぇ、教えたら使えるってもんじゃねぇだろう?』
『そう? 今のところ教えた全員が使えるようになってるよ? 僕は適性も分かるし』
『……何人に教えた?』
『えーっと、九人だね。奴隷が五人と、保護した孤児が四人。最初から魔法使いだったクリステラと僕で十一人、全員が魔法使いだよ(ウーちゃんとピーちゃん、ジョンも魔法を使えるけど、ヒトじゃないからノーカンにしておこう)』
というやり取りがあって、それで王様が『……マジか』となったわけだ。
俺が持つ秘密のうち、前世の記憶には神の禁忌に関する知識も含まれてる。下手に開示すると世界の滅亡にまで繋がってしまうから、これは
ダンジョンは、この世界じゃドラゴンに並ぶ恐怖の対象だ。しかも、成長すると下級神になる可能性がある。それを手懐ける手段があると知れたら、パニックとムーブメントが吹き荒れるに違いない。その中心になるのは間違いなく俺で、それを知るために有象無象が群がって来るのが目に見えるようだ。
いつかはこの世界の人もその真実を知るんだろうけど、今はまだ早い。というか、俺レベルの魔法使いじゃないと不可能だろう。そして、俺以上に濃い気配を持った魔法使いには未だお目にかかったことがない。実質不可能であるなら、無駄に混乱させる必要はないだろう。
マクガフィンに至っては神の英知そのものだ。しかも使えるのが俺だけとなれば、是が非でも自陣に取り込もうと、国内外を問わず引き合いが来るだろう。
それが平和的なヘッドハンティングならまだしも、拉致監禁、薬物投与、洗脳、奴隷化の非合法コンボなんていうこともあり得る。
自分の身だけならどうとでも守れるけど、知り合いを人質に取られると厄介だ。そんな危険は冒さないほうがいい。
というわけで、この三つの秘密は明かすわけにはいかない。特に前世の記憶とマクガフィンについては、何があっても知られるわけにはいかない。誰も知らない知られちゃいけない。世界と自身の命運に関わる重大事だ。
……おかしい、最初は前世の記憶だけだったのに、いつの間にか秘密が増えている。これが大人になるということなのか? 普通の大人は世界の命運を背負わないよなぁ?
「小僧、分かってると思うけどよ……」
「うん、むやみに広めるつもりはないよ。身内だけね」
「分かってんならいい。オレの許可なしに、もう誰にも教えんなよ?」
「えー、弟が大きくなったら教えようと思ってたのに」
生まれたばかりの俺の弟は多分土属性、つまり抽出変形の魔法に適性がある。魔力が黄色かった。
土魔法は、井戸掘りや塀作り、ガラス作成や石材加工はもちろん、彫金や鍛冶にも有効な、とても実用性の高い魔法だ。彫像作成にも使えそうだから、芸術方面でも活躍できるかもしれない。
才能次第だけど。覚えておけば将来安泰だから、是非教えておきたい。
「何年先の話でぇ。とにかく、しばらくは誰にも教えんじゃねぇぞ?」
「はーい」
「秘密にしていても、気付く者は気付くでしょうね」
「ダンは当然知ってるだろう。ドルトン伯爵も気づいてるかもしれねぇな。そっちはオレらで手ぇ回すしかねぇだろう」
「承知しました。対策を講じます」
俺の魔法使い量産能力については国の預かりになったみたいだ。まぁ、王国運営の根幹に関わる事案だからな。
魔法は表向き、王族、貴族にしか使えないことになっている。それは魔法がとても強い力であるからで、その力でもって王侯貴族が民衆を導いているという建前があるからだ。それがこの国の封建制度の根幹になっている。実際、貴族かそれに連なる者以外の魔法使いはほとんどいない。
俺の魔法使い量産能力は、それを根底から覆すものだ。誰でも魔法を使えるようになってしまうので、王侯貴族の存在意義が全く失われてしまう。社会基盤の崩壊だ。
比較的軽い秘密でも国が揺らぐ事態になるのか……俺、実はとんでもないテロリストだったんだな。
けど、俺は別に社会不安を煽りたいわけではない。むしろ、社会には安定していて欲しい。ただでさえ魔物が跋扈するこの世界で社会が混乱するのは、一国どころか人類の衰退にも繋がり兼ねないからな。
その割にはノランやジャーキンを大混乱させたような気がするけど、あれは無法の限りを尽くした奴等が悪い。無法なら混乱して当然。因果応報、自業自得だ。
「小僧、もう隠してることはねぇな?」
「うーん、何かあるかもしれないけど、今は思い出せないかな? 思い出したら報告するよ」
「なんで報告する前から厄介事の匂いをさせてんでぇ……。あー、こいつからの報告書、受け取りたくねぇー」
「陛下、同意見ですが諦めてください。問題が起こる前に報告されているだけまだマシです」
なんか酷い言われようだ。ふたりのジト目視線が痛い。俺ってそんなに問題児か? 別に悪いことはしてない……よな? 隠し事は山ほどあるけども。……なんか自信なくなってきたな。
「そ、それはそうと、僕の出した街道整備と港の改修工事の計画案はどうなってるの?」
「ああ、あれなら昨日決済しておいた。『風の魔道具活用による船舶の稼働向上とそれに伴う経済活性化及び現状の港湾施設の稼働限界』だっけか? 研究所の論文かと思ったぜ。まったく、ガキのくせに妙な知恵を回しやがって」
「『終戦に伴う未就業者の増加、その雇用対策としての公共工事と恒常的発展性の見込める辺境の活性化』もよい着眼点でした。いろいろと問題はありそうですが、効果は期待できそうです。内務庁の許可も出しましたので、帰る際に書類を受け取って行ってください」
「アレを官吏にも読ませて、王都周辺からリュート海沿岸までの再開発計画を練らせてる。ドルトンはその試験運用ってことで先行開発することになった。オレが王位に就いてから初めての大型事業だ。コケんじゃねぇぞ!」
いつの間にか大型公共事業から超大型公共事業になってる! 責任重大じゃん!!
でもまぁ、これで工事を進められる。がっつり儲けさせてもらいまっせーっ!
◇
その後、いろいろと話を詰めていたらすっかり陽が暮れてしまい、その日は王都に泊まることになった。夜間飛行ができなくはないけど、安全第一だ。
今回は珍しく俺ひとりで王都に来ていたので、自分で宿を探さないといけないなぁなんて考えてたんだけど、
『王城にゃ迎賓館がある。使えるようにさせとくから、今日はそこへ泊っていけ』
という王様の一声で、なんと王城に泊まることになった。王城の迎賓館とか、紛うことなきVIP待遇じゃん? ラッキー!
王城には官吏用の宿直室もあるけど、仮にも貴族家当主を泊めるには、
迎賓館は、王城の前宮(役人や王様が政務を行うエリア)と後宮(王族が生活するプライベートエリア)の境目、前宮側にある。
瀟洒な三階建ての洋館だ。神戸の旧居留地にあるやつっぽいけど、こっちは観光用じゃなくて現役バリバリの宿泊施設だ。
現役だから、当然現役の使用人たちが切り盛りしている。館全体では……今は六人が働いているようだ。気配察知で調べたから間違いない。
意外に少ないような気がするけど、今日は宿泊予定者がいなかったからかもしれない。俺は急な来客だからな。
それでもメイドさんをひとり、専属でつけてもらえた。王城で働いているだけあって容姿の整ったメイドさんだけど、当然のようにミニスカではない。本物っぽい(というか本物だから)足首まで隠れるロングスカートで長袖の黒いメイド服だ。
ちょっと残念だけど、本職には本職の良さがあるなぁと再認識した。帰ったら皆にも本職風のメイド服を購入しよう。
迎賓館には専属のコックも居て、急な来客にもかかわらず、凝った宮廷料理を作ってくれた。
食べ始めと食べ終わりで後味の変わるスープや、複数のハーブとソースで飽きの来ないサラダ、ただ焼いただけに見えるのにフルーツの香りがする焼き魚など、これぞ高級料理というものばかりだった。
しかし残念ながら、上品過ぎて食べた気がしなかった。俺としては焼肉丼とみそ汁のほうが良かったなぁ。
◇
上等なネコ足のバスタブで風呂に入り、クッションの効いたフカフカのベッドへ飛び込んで眠りについた俺だったけど、夜半に目が覚めてしまった。誰かが近づく気配を感じたからだ。気配で目を覚ますなんて、俺も冒険者らしくなったものだ。
俺の泊まっている迎賓館の一階奥の部屋へ、その気配はゆっくりと近づいてくる。泥棒や暗殺者じゃないな。足音が消しきれていない。少なくとも本職じゃない。
俺の部屋の扉が、音もなく開いていく。意外かもしれないけど、迎賓館には鍵のかかる部屋はないそうだ。堅固で警備の行き届いた王城の中だから危険はないし、メイドが出入りするときは必ずノックするから不要なんだそうだ。そういうものか。
開いた扉から何者かが部屋に侵入してくる。ノックしなかったから、メイドじゃないっぽい。少なくともメイドとしての仕事をしにきたわけじゃなさそうだ。
俺のベッドのほうへと気配がゆっくり近付いてくる。どうやら忍んでいるつもりらしいけど、全然足音が消せていない。やっぱり素人だな。それに、殺意は感じられない。俺を害しに来たわけでもなさそうだな。一体何者だ?
寝たふりをしている俺のすぐ傍、ベッドのすぐ前まで近づいてきた。今だ!
「動くな! 一体何も……の?」
被っていたシーツを撥ね退けつつ跳躍し、平面を踏んで部屋の隅の天井近くまで退避する。
同時に、侵入者の周囲を平面で囲って拘束しつつ、平行光源で部屋を明るくする。
そこにいたのは、驚きで大きく目を見開いた、白いネグリジェを着た五歳くらいの金髪幼女だった。
……誰?
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