第194話
という事で、冒険者ギルドの役員たちとの顔合わせと開発計画プレゼンは
街道整備計画には、ドルトンの港の拡張も含まれている。街道の西の端が港という位置づけだからだ。実際には南門から入って港前を通過、北門までを整備する計画なんだけど。
ジャーキンの開発した風の魔道具が普及すれば海上輸送が増大するのは間違いなく、今の港湾設備ではオーバーフローするのが目に見えている。早めの対処は不可欠だ。というか、海上輸送の増大を見込んでの街道整備だったりするので、港の拡張は決定事項だ。
手早く詳細を企画書にまとめ、王都の内務
とはいえ、ぶっちゃけ改革前と変わらない。名前が変わっただけだ。政変のゴタゴタを糊塗するためにリニューアルしただけらしい。これだからお役所は。
ともあれ、これであとは裁可が下りるまで待機するだけだ。ようやく実家に帰れる! 新しい家族が俺を待っているのだ!
◇
「間に合わなかったかぁーっ!」
全速力で帰ってきたのに、母ちゃんの部屋へ行くと既にベッドの上で赤ちゃんは授乳中だった。買ってきたお土産を抱えたまま、床に突っ伏す俺。居ても何の役にも立たなかっただろうけど、生まれる瞬間の喜びを家族として分かち合いたかったよ……。
「ビート様、おめでとうございます。玉のような男の子ですよ」
「……昨日の朝生まれたばかり。ふたりとも元気」
「……そう、ありがとう」
ルカとデイジーがお喜びの言葉をくれる。
一日遅かったか。王都より先にこっちへ来るべきだった、痛恨のミスだ。
いつまでも項垂れてはいられない。家族が増えたのだ。非常に喜ばしいではないか! まずは大仕事を終えた母ちゃんへの
「母ちゃん、お疲れ様! これ、お土産ね。赤ちゃんの産着とオシメと音の出るオモチャとかいろいろ。居間に置いておくから使ってね」
「あんがとな、ビート。これでお
「うん、もちろん!」
お土産は主にベビー用品だ。王都で買ってきた。西〇屋も〇ちゃん本舗もないから、懇意にしてる商人のトネリコさんに揃えてもらった。ベビー用品は貴族向けのものしか流通していないらしく、割高だったけどその分、質は良かった。
俺と母ちゃんが話している間も、赤ちゃんは一心不乱にオッパイへ吸い付いている。なるほど、元気そうだ。プクプクのほっぺたはピンク色だ。つつきたい。
生まれたばかりの赤ちゃんはしわくちゃで猿みたいっていうけど、この子はもう既にヒトの赤ちゃんっぽい。猿っぽいのは生まれた直後のレアシーンなのかもしれない。見られなかったのが悔やまれる。次に期待しよう。頑張ってね、母ちゃん!
まだ目は開いてない。目鼻立ちは母ちゃんに似てる気がする。あっ、耳が父ちゃんと同じ形だ。ちゃんとふたりの血を引いてるなぁ。どっちにもあんまり似てない俺としては羨ましい限りだ。
母ちゃんが言うには、俺は俺が生まれる前に生き別れた父方の爺ちゃんにそっくりらしい。いやそれ、髪の色だけじゃね? 半分白髪だっただけじゃね?
この子も、もしかしたら俺と同じように前世の記憶持ちだったりするんだろうか? でも、俺は生後一週間くらいで記憶を取り戻した。この子も、もし記憶持ちだったとしても、同じくらいの時間が必要かもしれない。しばらくは様子見だ。
「父ちゃんは?」
「隣の部屋で寝とるだ。昨日は大喜びでずっとはしゃいどったでな」
何をしてるんだ、あの親父は。いや、気持ちは分かるけども。俺がいたら一緒にはしゃいでただろうし。
「お前が生まれたときもそうだっただよ。村中走り回って騒いでただ」
「昨日も走り回ってましたよ。町を五周くらいしてました」
「……『うるさい、赤ちゃんが泣く』って子爵夫人に怒られてた」
本当に何やってんの、あの親父は! ちょっとは落ち着きなさいよ! 大人しく母ちゃんの傍に付いてろよ! 俺は仕事で、文字通り飛び回ってたっていうのに!!
ジンジャーさんが怒ってたってことは、お手伝いに来てくれてたのか。子爵夫人になったのにフットワークが軽いな。後でお礼を言いに行かないと。
「ふふっ、嫁としちゃあ、あんだけ喜んでもらえんなら産んだ甲斐があるってもんだぁ。嫁冥利に尽きるだよ」
母ちゃんが目を細めて赤ちゃんを見る。母の顔だなぁ。
なんだかんだで、うちの夫婦はラブラブだ。ケンカしてるところを見たことがない。父ちゃんが怒られて母ちゃんに謝ってるところは何回か見たことがある。
父ちゃんは母ちゃんにベタ惚れだし、母ちゃんは父ちゃんを支えようと献身的だ。お互いを思いやってるのがよく分かる。だから二人目の赤ちゃんが生まれたんだな。三人目も期待できそうだ。
この赤ちゃんには、まだ名前がない。名前を付けてもらえるのは、次の年明け以降だ。乳幼児死亡率が高いこの国では、愛着が強くなり過ぎないよう、年明けまでは名前を付けない習慣があるのだ。すぐにお別れしてしまうかもしれないから。悲しい習慣だ。
まぁ、最近は俺が普及させている石鹸の影響で、衛生的には改善されているはずだ。この町で病死する子供は減るだろう。
魔物に関しても、この町の住人の多くは身体強化が使えるから、襲われて死ぬ可能性も低い。
最近なんて、魔物は肉としてしか認識されていないらしい。差し詰め、大森林は巨大牧場というところか。前世でも食肉設定がある牧場経営ゲームは見たことがない。斬新だな。PC用ならあったかも。
だから、きっとこの子も元気に育ってくれるはずだ。というか、俺が死なせない。可愛い弟を死なせてなるものか! 兄ちゃんが守ってやるからな!!
その、まだ名前も付いていない俺の弟だけど、実は現在、俺が家長であるフェイス男爵家の、継承権第一位だったりする。我が家系初の、生まれついての貴族なのだ。あらまぁ、びっくり。
王国の慣習では、貴族家の当主は最も血縁の近い男子が継ぐこととなっている。一般的には当主の息子ということになる。
基本的には長兄優先だけど、魔法使いの素養がある弟がいた場合、その弟が優先される。生まれた順番はそれほど重視されない。
女児は生まれが早かろうが魔法使いだろうが、継承権はない。子供が女子しかいなかった場合のみ、入り婿をとって跡を継がせる場合がある。
現代ならジェンダーフリー団体が撤廃の抗議デモをおこしそうな慣習だ。最終的な要求はきっと『女子全員に爵位を』とかに変わるんだろうけど。つまり女子優先だな。あの連中の辞書に男女平等の文字はない。ジェンダーフリーってなんだろう?
俺のフェイス家の場合、まだ俺に子供がいないから、近縁の男子というと父ちゃんか生まれたばかりの弟ということになる。
しかし王国の慣習では、俺が初代であるにもかかわらず、どういうわけか父ちゃんは先代でご隠居という立場になるらしい。まだ三十台なのに、なんかお爺ちゃんっぽい。
つまり既にリタイヤした立場なので、その分継承順位が下がるらしい。よって、現時点での継承順位トップはこの弟ということになるのだ。
もし俺に男子が生まれたら、その子が継承権トップになる。弟は繰り下げだ。でも継承権がなくなるわけではない。
俺は冒険者だから、秘境の奥へ行くし危険な仕事もする。いつ命を落とすか分からないから、家を継ぐ跡取りがいるというのは重要だ。もうただの平民じゃなくて貴族だからな。
弟が順調に育てば家が絶える心配は減る。俺も安心して冒険ができるってもんだ。
「それはそうと、子爵様の方で何かあったようです。一昨日から慌ただしく皆さんで何か準備されてました」
「……外から馬に乗った兵士が来て、それから慌ただしくなった」
ルカとデイジーから、何やら不穏な報告が上がってきた。お祝いムードから一転、ふたりとも神妙な面持ちだ。
「兵士というのが穏やかではありませんわね。ビート様、お顔をお出しした方が良ろしいのではありませんこと?」
「そうだね、行ってみよう。じゃあね、母ちゃん。また来るよ」
「あんれまぁ、もう行くだか?
母ちゃんに見送られて家を出、子爵邸へと向かう。街道整備計画の進捗も共有しなきゃならなかったし、ジンジャーさんにお礼も言わなきゃだから丁度いい。
母ちゃんのお手伝いには、今度はサマンサとアーニャに残ってもらった。このふたりも何気に家事スキルは高い。特にアーニャは子守り関連のスキルが高いから、出産後のお手伝いには最適だろう。亡国のお姫様にオシメを替えさせるのはどうかと思わないでもないけど。
領主館へ行くと、なるほど慌ただしく数人が荷運びをしている。見た感じ、食料と武器防具が多い。これは確かにただ事じゃない。皆が忙しそうなので、声を掛けながら勝手に領主館の中へ入っていく。皆顔見知りだから、全く咎められることはない。昭和の農村的なノリだ。
「子爵、何があったの?」
「おお、ビートか。すまんな、今は立て込んでいる。街道整備の話は落ち着いてからにしてもらえるか?」
開きっぱなしの執務室のドアから中を覘くと、難しい顔で子爵が書類と格闘してた。のぞき込むと、どうやら武器と食料の輸入計画らしい。つまり戦争の準備だ。またジャーキンかノランが攻めてきたのか?
「なんだかキナ臭い内容だね。また戦争?」
「そこまで
戦争じゃなくて紛争だった。
って、十分大事じゃん! 規模が違うだけでやっぱり戦争じゃん!
ってか、ロックマンだと!? 何作目!? □ールちゃんは居るの!? 初期デザイン希望!
そこ大事だからkwsk!
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