第184話
バンドー地方へ来てから七日。
ゴブリンを粗方駆逐し終えた俺たちは、回収した魔石や排卵薬などをミニョーラへと運び、晴れてお役御免となった。
本来なら七日どころか何年もかかるような依頼だったけど、俺の気配察知と飛行馬車があれば何も難しいことはない。バンドー地方にゴブリン被害が出ることは、しばらく無いだろう。
ゴブリンから回収した魔石は、千を超えてからは数えるのをやめた。二千はなかったと思う。
直径一センチにも満たないゴミみたいな魔石ばかりだけど、回復ポーションや契約書に使う特殊なインク作成などの需要がそれなりにあるらしく、保護した女性の看護に回す分を差し引いたとしても、かなりの利益が見込めそうだとマードック爺ちゃんが喜んでいた。魔石は何処へ行っても需要があるな。いい商材だ。
今回はそれに加えて排卵薬もある。今は国内が荒れててそれどころじゃないけど、情勢が落ち着いたらオークションにかけるそうだ。その利益もかなりの額になりそうだということで、満面の笑みを浮かべたマードック爺ちゃんの尻尾はブンブンと風切り音を上げていた。ワンコは感情表現がストレートでいい。
エンデでの派遣任務はこれで終了だ。王国もエンデも、本当なら交易の大動脈であるシーマ地方の治安を回復させたかったんだろうけど、シーマ地方は今内乱の真っただ中だ。内乱に他国の兵力を投じるのは問題が多すぎるということで、
裏では『旧シーマ王家のご落胤がウエストミッドランド王国で生き延びているらしい。ドルトンという街の新興貴族に匿われているそうだ』という噂を流している。まぁ、噂じゃなくて事実なんだけど。
これはエンデ首脳陣も承知の上での情報操作だ。
シーマ地方の内乱は蝗害による飢餓が切っ掛けだけど、その根底には征服者であるバンドーへの反抗心がある。まだ敗戦に納得できていない旧シーマ王朝派が煽っているのだ。その対策のための情報操作だったりする。
この噂が広がれば、真偽の確認のためにドルトンへと向かう者が出るだろう。そして事実が確認できれば、シーマ王国復興のために仲間を連れてドルトンへ向かうはずだ。家族を連れて行く者もいるかもしれない。そうなれば、シーマ地方からは旧王朝派という現政権に抵抗する者が減る。統治しやすくなるというわけだ。
一方の王国側は、他国のテロリストを匿う事にもなりかねないんだけど、匿う場所は王国有数の危険地帯である大森林のど真ん中だ。はっきり言ってしまえば隔離なわけで、大国の治安にはさして影響はない。
さらに、発言権を持つ旧王家の者は皆俺の奴隷だから、過激な思想を持った者が居ても押さえつけることが可能だ。なんなら、俺が現実を(体に)教えてやってもいいしな。
とりあえず、大量の流民を受け入れる準備だけはしておいた方がいいだろう。帰ったらまたジョンの開発だな。住宅はあるから、農地と文教施設の拡充をしよう。果樹園を作るのもいいな。
それよりも、王様に話を通しておくのが先だな。アーニャの出自とその家族についての説明もあるし、開拓地申請もしなければいけない。どのみち今回の救援活動について報告しなければならないんだから、そのついでだ。
ついでにしては案件が大きいような気がするけど、俺は気にしない。悩むのは管理職の仕事で、現場は最大限の仕事をするだけだ。ちょっと大きすぎたかもしれないけど……ボクシラナーイ。
◇
俺たちに残された時間は多くない。任務が終了したんだから、速やかに王国へと帰還しなければならない。けど、一日、二日くらいは寄り道や観光をしても
というわけで、ミニョーラでの各種報告や手続きを終えた俺たちは、直ぐにまたバンドー地方へと取って返した。目的はもちろん天空に浮かぶ伝説の城〇ピュタ、じゃない、ラプター島とそこにいる飛竜だ。こんな観光の目玉をスルーする理由がない。
「はぁ~、ホントに島が浮いてるよ。すげぇなぁ」
バンドー地方の北西の外れ、ノランとの国境上空に、確かにそれはあった。
直径は三キロほどだろうか。思っていたよりでかい。某アニメのイメージがあったから、せいぜい直径一キロくらいだろうと思ってた。ファンタジーを侮ってたよ、ゴメン。
形は、某アニメとは似ても似つかない。なんというか、すり鉢をふたつ合わせたような……若干上方向だけ長い、歪なそろばんの玉状というのが一番近いだろうか。
個人的な見解では、島というよりも巨大な岩塊だ。底部にはゴツゴツとした灰白色の岩肌が見て取れ、島の上部には背の低い木が生い茂っていて、それがなんとなく島っぽく見えなくもない。
その木の上を鳥が舞っているのが見える。島に住んでいるのは飛竜だけじゃなさそうだ。ラ〇ュタ人もいるかな? ロボットは? 女の子は落ちてくる?
それが地上から三百メートルほどの高さの中空に静止している。いや、極ゆっくりと独楽のようにY軸回転をしているようだ。転向力でも働いてるのかね?
こんな巨大な岩を浮かせている動力はなんだろう? 気配察知では濃く青い魔力が見て取れるから、加速度制御の魔法で浮かせているのは間違いない。
しかし、こんな巨大な岩塊を長期間安定させて浮かべるには膨大な魔力が必要になるはずだ。それは何処から供給されてる?
まぁ、ここでアレコレ考えても仕方がない。とりあえず真下まで行ってみるか。
◇
「これは……圧巻だな」
「今にも落ちてきそうですわね。なんだか落ち着きませんわ」
「ぼ、坊ちゃん、早く上に行こう! なんだかシリがムズムズするんだ」
「せやな。風も強いし、早いとこ上に行こうや?」
下から島を見上げても感嘆のセリフしか出てこない。いやはや、これは一見の価値がありまくりだな。
視界のほとんどを灰白色の岩肌が覆っている。圧迫感が半端ない。アレが落ちてきたら、俺でもちょっとヤバいかもしれない。フィールドと平面のフルパワーで、なんとか十分くらい支えられるかどうかといったところだ。
皆も少なくない恐怖感を感じているようで、いつもより口数が少ない。ウーちゃんなど、尻尾を股の間に巻き込んで俺の腰にすり寄っている。怖いんだね、うんうん。
風が強いのは、たぶん加速度制御魔法の影響だろう。常に上向きの加速度が生じているから、それに巻き込まれた空気が風となって吹き荒れているんだと思う。もう盛夏なのに随分と涼しく感じる。冬だととんでもなく寒そうだから、今来て正解だったな。
「よし、それじゃ上陸し……と、その前にどうやらお迎えみたいだ。皆、戦闘準備して。数は三、東からくるよ!」
俺が指さす方向から、一か月前の獲物と似た気配が三つ、こちらに近づいてくる。獲物が向こうからきてくれたみたいだ。探さなくていいのはらくちんだな。
これで今夜の晩御飯は焼肉確定だ。それでは、いただきます!
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