第179話
あれから三日。結論から言うと、集落の面々は全員が俺の奴隷となった。
今回の出来事は俺が非番の間に起きたことなので、王国の支援活動とは無関係だ。だから、捕らえた『盗賊』とその仲間(家族)の討伐報酬を受け取る権利が俺にはある。
通常であれば奴隷として売却し金銭で貰う報酬を、今回は現物支給でお願いした。
エンデ側としては後腐れなく処刑したかっただろうけど、そのために王国ともめるのは困る。結局、『国外追放して友好国の管理下に置かれるなら、野放しにしておくよりはマシ』って判断に落ち着いたらしい。
まぁ、俺がそういう風に思考誘導したんだけど。ワンコたちが素直すぎて、オジサンはちょっと心配だよ。
奴隷化や法手続きの手数料は取られたけど、普通に買うよりは遥かに安く入手できた。誰も死なせずに済んだし、大量のニャンコをゲットできて俺のモフリスト人生も安泰だ。めでたしめでたし。
さて、せっかくゲットしたニャンコも、劣悪な環境で飼育すれば虐待になってしまう。モフリストとしてあるまじき悪行だ。飼い主として、キチンと快適な飼育環境を整えてあげなければ。
今回ゲットしたニャンコは、老若男女合わせて全部で三十五匹(人)。ひとつの集落としては少ないけど、ドルトンの屋敷に住まわせるには少々多すぎる。
離れを増築するにも時間が足りないし、そもそも与える仕事がない。ダラダラと昼寝してる大量のニャンコがいたら、近所の人にネコ屋敷と呼ばれて保健所に通報されてしまう。
『首狩りネズミ』の屋敷なのにネコ屋敷。意味がわからない。
ボーダーセッツの宿屋で働かせるという手もあるけど、あそこも今のところ人員は不足していない。ホワイトな職場を目指してるから、そもそも人員には少し余裕を持たせてあるのだ。何人かが病気で倒れても、それを穴埋めできる程度の余剰人員は確保してある。これ以上の追加は過剰だ。
まぁ、若い娘さんなら何人か補充してもいいかな? 潜在的ケモミミストの需要発掘になるかも……アリだな!
◇
「それじゃ、クリステラは冒険者ギルドで皆の奴隷登録をよろしく。僕のサインが必要なところは代筆しておいて。これ委任状ね。キッカは商業ギルドで当面の生活に必要な物資の購入をお願い。食べ物と着替え、あと魔道コンロを二十台くらい。他にも必要なものがあれば買っておいて。荷物持ちに男たちを連れて行っていいから。ルカとアーニャは他の集落の皆の監督をお願い。とりあえず順番にお風呂に入れて、ご飯を食べさせておいて。他の皆は忙しそうな人の補助ね。じゃ、あとはよろしく!」
「「「はい、いってらっしゃいませ!」」」
とりあえず、一時的に全員をドルトンの屋敷に連れてきて、その後の指示を矢継ぎ早に出した。皆賢いから、大まかに指示しておけばあとはなんとかしてくれるだろう。まだPKO期間中だから、あまり時間はかけられない。ぶっちゃけ、三日後にはまたエンデに戻って支援活動再開だ。割り振れる仕事は分担して、手早く手配を終わらせなければ。
そして、皆を置いて俺が向かうのは飼育候補地最後にして大本命、ダンジョンのジョンのところだ。あそこなら少し手を入れるだけで何人でも受け入れることができる。その気になればちょっとした町だって作ることが可能だ。
というわけで、今回はその『ちょっとした町』を作ってしまおうというわけだ。リアル〇ムシティだな。怪獣対策しておかないと。
ウーちゃんと一緒に大森林を駆け抜け、途中で出会った魔物を狩りつつ、二時間ほどでジョンのところまでやってきた。今日の夕飯は猪人のロース肉のポークチャップにしてもらおう。
岩山の隠し扉から
ひと月くらいご無沙汰だったけど、コアから流れてくるジョンの感情はいつも通りの平常運行だ。やっぱり時間感覚が違うんだろうな。
ジョンのコアは発見時より一回り大きくなっていて、ソフトボール大の正二十面体になっている。もう五十年物のダンジョンコアと遜色がない。ダンジョンの拡張を控えておくように指示しておいたから、その分コアに魔力をため込んだんだろう。ちょっと見ない間に大きくなった。
『小母さん、あなたのオシメ替えてあげたのよ。覚えてる?』って、覚えてるわけ
ダンジョンにとって、拡張の欲求は本能に近いものらしい。それを抑えている現状は、結構なフラストレーションが溜まっている状態みたいだ。
あまり溜め過ぎると何が起きるかわからない。今回は思いっきり発散させてあげよう。
まず、ダンジョンの地上部をジョンの土魔法による石塀で囲み、その内側に同じく土魔法で住宅を作り出す。石英主体の白い石造りの建物が、タケノコが伸びるようにニョキニョキと生えていく。家の構造は予め平面魔法で作ってあるから、イメージを伝えるだけであっという間に町の完成だ。
しかし、ジョンが作り出せるのは無機物だけなので、この住宅には扉や窓はない。材木は周囲にいくらでもあるんだし、そのくらいは自分たちで作ってもらおう。あの辺境で自給自足してたくらいだから、道具があればそのくらいは作れるはずだ。
まぁ、最初の加工用の木は伐っておいてあげるかな。大森林の木は太いから、乾燥して使えるようになるまでかなりの期間が必要だし。
ダンジョンの地下は、ジョンの
しかし生き物は水がないと生きていけないから、その確保手段として水道を通すことにした。幸い、水源はジョンの改装をしてたら掘り当ててしまった地下水脈がある。隠れ家の壁面にも空調として利用しているアレだ。王都には水道が通ってるところもあるし、このくらいはオーバーテクノロジーってほどでもないから自重する必要はない。
各家庭の台所とトイレ、お風呂場を経由して地下の下水道へと流れるように管を配置する。途中で地上を通ったりしないから、湧き水そのままのクリーンな水だ。この世界ではこれ以上の清潔さは望めない。
下水道はダンジョンの最下層に繋がっていて、そこには巨大な浄水プールが設置されている。と言っても化学的な処理を行っているわけではなく、汚泥を沈殿させて、有機物をマッディスライムに食べさせているだけだ。
最終的に汚泥は栄養豊富な土に変わり、地下一階の牧場で牧草育成に再利用される。とてもエコだ。
浄化された水はジョンの土魔法による加圧を利用して再び地上へと送り出され、農業用の水路をチョロチョロと……いや、結構な勢いで流れていく。意外に水量が多い。子供が落ちないように言いつけておかないとな。
農業用水は石塀際で再び池になっており、その池の底から塀の向こうの大森林へと流れだしている。この池に魚を放せばニャンコたちが喜ぶかもしれない。どこかで確保してこよう。
各家庭の上水道の出口には簡単な蛇口が付いてる。石の栓に穴をあけ、九十度ひねるとその穴を水が流れるという簡単なものだ。
試運転してみたけど、特に問題なく動作してくれたのでひと安心。水圧がそれほど高くないからかもしれない。もう少し高かったら栓が吹き飛んでたかも。浴槽に水を張るには時間がかかりそうだけど仕方がない。
そう、この町の家々にはお風呂が設置されている。ちゃんとお湯を沸かせる風呂釜付きだ。浴槽は滑らかな石造りで、風呂釜部分は銅製。ジョンが石英以外も抽出、加工できるようになったから作ってもらった。
外から薪で火を焚いて沸かす原始的な風呂釜だけど、そもそも大森林は暑いからそうそう沸かすことはないかもしれない。ネコはお風呂嫌いだしなぁ。むう。
住宅に目途が付いたら、今度は食料だ。いつまでも俺が養ってあげられるわけじゃないから、自分の食い扶持くらいは自分で何とかできるようになってもらわないと。
幸い、ここは魔素の豊富な大森林のど真ん中だ。辺境の特産品である森芋が良く育つ。畑を作れば飢えることだけはないだろう。
芋だけでは栄養が偏るから、野菜や豆も植えたほうがいいな。ドルトンに帰ったら種を買ってこないと。大豆も育てさせるか。いずれ醤油と味噌を作らせるときのために。
問題は脂肪とタンパク質、つまり肉だ。
俺たちは大森林や暗闇の森で魔物を狩れるから問題ないけど、アーニャの家族たちが俺たちと同じように魔物を狩れるとは考えられない。大森林は、熟練の冒険者でも油断すると命を落とす、この大陸でも屈指の高難度を誇る魔境だ。日常的に狩りをする場所じゃない。ただし俺たちを除く。
まだ地下牧場のジャイアントホーンもそれほど増えてないし、しばらくは俺たちが差し入れしてあげないとダメだな。ニワトリの放し飼いでもさせてみるか。
◇
「よし、できた!」
うむ、なかなかいい町ができたんじゃなかろうか。
厚さ二メートル、高さ八メートルほどの白い石壁が、半径三キロほどの円形でぐるりと周囲を囲んでいる。
石壁の外側はツルツルと滑らかな手触りで継ぎ目がなく、登るための手がかりはない。これなら外から魔獣が入り込むことは難しいだろう。
万が一登ってきても、不眠不休で見張っているジョンによって即座に退治され、栄養として吸収されることになる。警備は万全だ。
石壁内部の中央には、俺たちの隠れ家である岩山がある。今回、ここにはほぼ手を加えていない。秘密の隠れ家はいつまでも秘密にしておきたいのだ。たとえ大人たちにはバレバレだとしても。
岩山の南側はまだ手付かずで、大森林の趣を残す森が広がっている。薪や木工用など、生活に必要な木材はここから伐り出してもらう予定だ。元々居た魔物はジョンとウーちゃんが狩り尽くしているから安全だ。
人口が増えて消費が増えると、いずれ木材が枯渇してしまうかもしれない。植林することも教えておかないとな。
一方の北側には、今回作った町並みが広がっている。
大型馬車二台が余裕ですれ違える広さの大通りが東西と南北に直交し、南北の道はそのまま北の壁まで続いている。そこで行き止まりだ。
東西の道は途中で切れているけど、いずれ湾曲させて岩山をグルリと一周させる予定でいる。環状線だな。森の中を走る道は爽快かもしれない。
道は全て石畳で、統一規格の石材を組み合わせて作られている。車線も色違いの石材で明示してあるから、複数台の馬車が往来しても円滑な通行が期待できるだろう。まぁ、当分の間馬車が走る予定はないけど。
路肩には歩道と排水溝もあり、安全と衛生に配慮した造りになっている。馬車の出したボロも、この排水溝に放り込んでおけば地下の浄化槽へと運ばれる。
大通りによって四つに分けられたエリアは、小道によってさらに細かく分割されている。風通しを考えて、袋小路は作っていない。大森林は暑いからな。
大通りで区切られた区画の、岩山に近い南東エリアは官公庁や学校を置く文教エリアにする予定だ。でも今は集会所用のホールがひとつあるだけ。まだ必要ないし。だだっ広い空き地だ。運動場ぐらいは作っておこうかな?
その隣、南西エリアは、工房やアトリエを置く工業エリアだ。今はまだ鍛冶用の工房を二か所しか建ててないけど、いずれもっと必要になるだろう。なって欲しい。とりあえず炭焼き窯用の丘も作っておくか。
工業エリアの北側、北西エリアに並ぶのは店舗と倉庫だ。裏には倉庫や搬入路もある。ここは商業エリアにする予定だ。
一応
そしてその東、北東エリアが住宅地だ。一見、同じ規格の庭付き箱型平屋3LDKの家が並んでいるように見えるけど、実は少しずつ建物のデザインが異なっている。全部一緒のデザインだと道に迷うかもしれないし。
戸建てではないアパートタイプの住居もいくつか用意してある。こちらは単身者向け1DKが四つで一つの建物だ。少し建物が大きくなった分庭は狭く、紙の木は多めに植えてある。必需品だからね。
住宅は約五百人くらいが生活できるよう、二百戸ほど建てた。将来、子ネコが生まれて数が増えたら必要になるはずだ。当面は大半が空き家になるけど、ジョンが管理するから朽ちて風化することはない。
住宅エリアの北から壁際までが農地だ。農地と住宅エリアの境に泉が湧いており、そこから南北大通りに沿って農業用水が流れている。
畑は掘り起こしてあぜ道もつくってあるけど、土づくり以降は本職に任せたほうがいいと思って、灰や肥料を撒いたりはしていない。今はただ広い土の広場が広がるのみだ。ウーちゃんが楽しそうに全力疾走している。うんうん。
農地の一角には膝丈の柵で囲まれた養鶏場も用意した。肉と卵の補給に、ニワトリ(っぽい魔物)を放す予定だ。鶏小屋も作ってあるし、水場もある。あとは鶏だけだ。
石壁内のあちこちに、高さ五メートルほどの巨大な水晶の塊が鎮座している。これは地下の牧場やダンジョン内部に明かりを取り入れるためのものだ。ただし、のぞき込んでも下の様子は屈折して見えないようになっている。住民が知る必要のない情報だ。
平和な街の地下に魔物が巣食っているとは、お釈迦様でも気が付くめぇ。
岩山近くにあった偽ダンジョンの入り口は、石塀の外へと移築された。元々は地下牧場を経由して偽迷路や偽遺跡、偽ボス部屋に繋がってたんだけど、牧場を荒らされたら困るから偽迷路まで直通にした。
特に魔物は
今回の町づくりには、俺からジョンに供給された魔力が使用された。この町の維持管理用としての魔力も与えたから、久しぶりに枯渇寸前まで魔力を消費した。これで一晩寝れば、また少し魔力が増えるだろう。有り過ぎて困るものじゃないから、増えるのはいいことだ。
大きく拡張できてジョンも満足そうだ。これからは町の維持に魔力を使うことになるから成長は遅くなるだろうけど、もともとダンジョンは成長の遅い生き物(?)だ。十年が五十年になっても大差ない。
◇
出来た町に皆を連れてきたら、新参組には呆然とされ、古参組にはやりすぎと怒られた。
あ、怪獣対策してなかったな。まぁ、次に来た時に考えればいいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます