第167話
「久しぶりに食べましたけれど、以前より遥かに美味しいですわ! やはり獲れたては違いますわね!」
「なんちゅうか、今まで食うたことない味やな。トリのようなウシのような……」
「うみゃっ! うみゃっ!」
「……美味」
飛竜の肉は皆にも好評のようだ。
村に持ち帰って母ちゃんに調理してもらったらあまりにも美味しかったものだから、屋敷で待ってる皆にも食べさせてあげたくて、翌朝すぐにドルトンまで帰って来たのだ。比喩抜きで飛んで帰ってきた、超高速で。
朝から肉っていうのもどうかと思ったけど、夏場だから早く食べないといけないしな。冷凍すると味が落ちそうだし。
ちなみに、日を置くとヤバいのが分かり切ってるレバーは、昨日のうちにウーちゃんとピーちゃん、そして俺の腹の中にしっかり納まっている。超レアに焼いて塩を振っただけだったのに、そのソテーは驚くほど甘くて濃厚な味だった。ウニを濃縮してクセをなくし、少しコリッ、サクッ、トロッとした食感を加えた感じと言えば想像できるだろうか?
これでワサビと醤油があれば最高だったのに。
「あらあら、このモモ肉、凄い肉汁ですね。噛みしめる度にジュワッとあふれ出してきます」
「こっちはムネ肉か? 結構な歯ごたえなのに、噛み切った途端に弾けるみてぇに口の中でほどけやがる」
「美味しい、です。こんなの、初めて、食べました」
「(コクコク!)」
「至福」
「飛竜に食べられた話は聞いたことがあったですけど、まさか飛竜を食べるときがくるとは思わなかったですよ!」
子供たちにも好評だ。良かった。沢山お食べ。
子供たちとピーちゃんがやってきて人数が増えたから、ダイニングのテーブルに全員が座って食事することができなくなってしまった。なので、俺とクリステラ、キッカ、デイジーとアーニャはリビングのローテーブルで食事をしている。
ルカとサマンサは給仕をすることが多いので、調理場に近いダイニングで子供たちと一緒に食事をしている。
俺たちを追い出す形になってバジルたちは恐縮しているけど、こっちの方が楽なんだよな。食べた後すぐに
「食べられたって、エンデでは飛竜がよく出るの?」
「はいです。アタシの住んでたところは山がちだったですから、たま~に飛竜が襲ってくるですよ。お婆ちゃんも、気が付いたら後ろを歩いてた弟が居なくなってて、空を見上げたら飛竜が飛んで行くのが見えたって言ってたです」
こわっ! 何その絶望的な神隠し!
そうか、空を飛ぶ魔物は行動範囲が広いから、魔境から離れてても被害が出るのか。その上、飛竜はスピードがあるから弓を当てるのが難しいし、耐久力もあるから半端な威力じゃ倒しきれない。
実はゴブリンや猪人なんか比べものにならないくらいヤバい魔物だったんだな、飛竜って。
でも、肉は凄く美味しい。多少の危険を冒してでも入手したいレベルだ。俺ならそんなに苦労することなく狩れるし、生息地付近にお住まいの皆さんの安寧にも繋がる。
ふむ、エンデねぇ……。
◇
「オイコラ、月面帝国ってのは何なんだ小僧」
開口一番のセリフがコレだ。うちの王様は口が悪くていけない。こめかみに血管が浮いてるし、どこのヤンキー漫画だと聞きたい。〇年画報社か? 〇談社か?
王様への謁見は、異例の速さで叶うこととなった。
ぶっちゃけ、王城の入り口で召喚に応じて登城してきたことを伝えたら、そのまま応接室へ通され、小一時間ほど待たされた後に、王様の執務室へと通された。
以前は申し出から謁見まで数日掛かったことを考えると、どうやらかなりお待ちかねだったらしい。一応正装で来てて正解だったな。
執務室は意外にもというか、何もかもが無駄に広くて豪勢な王城らしくなく、十二畳くらいで質素な調度の部屋だった。
天井には灯の魔道具が数個設置されていて窓は無い。換気用と思しき穴が数カ所開いているだけだ。入口から見て左側の壁には別の扉があり、その向こうには数人の気配がある。きっと護衛の近衛兵だろう。
右と正面の壁は本棚で、背表紙のない本……いや、書類がギッシリ詰まっている。
王様が居るのは、その正面の本棚の前に設えられた重厚なデスクだ。デスクの上にも書類が山積みになっている。真面目に仕事してるんだなぁ。
俺はというと、入って来た扉のすぐ前で立ちっぱなしだ。執務室だからか、ソファとかは置いてないらしい。
今この部屋には王様と俺しかいない。『ちょっと不用心じゃない?』と思わないではないんだけど、王様は剣聖のふたつ名を持つ豪の者だ。滅多なことで不覚はとらないという自信の表れなのかもしれない。
即死じゃなければ、数秒持たせられたら、隣室に控えている近衛兵たちが間に合うという心算じゃないかな? 俺を信用しているわけじゃないだろう。多分。
話題は事前の予想通り、ジャーキンで暴れたことみたいだ。
まぁ、戦争の最中に敵国を荒らしまわった謎の武装勢力なんて、為政者として危機管理上見逃せるはずがない。少なくとも、敵か味方かの判断ができるくらいの情報は集めないといけない。
その辺、ウチの王様はしっかり仕事をしてたみたいだ。
「さて? 私めには何のことだか?」
「とぼけるんじゃねぇよ、ネタはあがってんだ! テメェがブリンクストン近辺で、ジャーキンへ行った女を探してたのは言質が取れてる! その数日後から、東から順にジャーキンの軍事拠点がその月面帝国とやらに襲われてる! 最後は帝都だ! その間、テメェの所在は国内で確認できてねぇ! バカでも気付くぜ!!」
あら、思ったより俺のこと注目してたっぽい。
普通、いち冒険者の動向なんて王様が確認しないだろう。実は要注意人物として警戒されてる? もしくは既に重要参考人か被疑者扱い? 弁護士を呼ぶ権利は……って、そんな職業ないか。これだから中世ファンタジーは!
「巨大なリビングアーマーってのはどういうことだ? テメェの魔法は空を飛ぶだけじゃなかったのかよ? 隠してることがあるなら洗いざらいぶちまけちまえ!」
取り調べってこんな感じなんだろうか? 刑事さん……もとい、王様のこめかみの血管が切れそうになってる。相当オカンムリみたいだ。
カルシウムが足りてないのかもしれない。今度プリンを差し入れしてあげよう。アレにはミルクが入ってるし、カラメルの苦みと甘みはリラックスにもいい。いや、取り調べならかつ丼のほうがいいか? いやいや、あれは取り調べを受けるほうだった。
さて、そろそろとぼけるのも限界かな? 事前に心構えをしてきたお陰か、かなり余裕を持って対応できてる気がする。焦ると碌なことにならないからな。
まぁ、爵位を貰った時点で魔法を隠す必要性はかなり下がってるし、権力の頂点にいる王様の機嫌を損ねると厄介だ。多少手の内を晒すのは仕方ないか。
いざとなったら暴れて逃げるつもりだけど、まだそこまでの事態にはなっていない。王様の反応をみてから、今後の対応を判断しよう。
「陛下に誤解を招く表現を致しましたこと、自身の不明を恥じ入るばかりで御座います。より正確に私めの魔法を……」
「ああ、その気色悪い喋り方はやめろ。ここには俺とお前しかいねぇんだ、ダンと話すときと同じでいい」
「そう? じゃあ遠慮なく。僕の魔法を正確に表現すると、物を疑似的に作り出して操る魔法だよ。こんな感じで」
俺は自分の隣にテ〇ジンを作り出して立たせる。サイズは約百八十センチだ。さすがに搭乗可能サイズを出すわけにはいかないからな。お城が壊れてしまう。
王様は突然現れた甲冑(?)に一瞬腰を浮かしたけど、俺の説明を聞いて椅子に座り直した。
「お察しの通り、ジャーキンで暴れてたのは僕だよ。これを巨大化したやつに乗って、城壁や軍施設を壊して回ってた」
「大きさは自在ってわけか。操るのはどうすんでぇ?」
「考えるだけでできるよ。ほら」
〇ムジンが、左右にステップを踏みながらターンを決めたりしゃがんで足を振り上げたりと、やたらダンサブルに踊り出す。〇脳戦機のダンス……シュールだ。せめてフェイ・〇ェンなら……あっ、そういえばリップルレーザーをまだ作ってなかったな! ハート形の奴も作っておかなければ! メロメ〇ビームなやつ!
踊り続けるテムジ〇に、王様が目を丸くしている。ふふふっ、モーションを登録してあるから、このままエンドレスで踊り続けるぜ!
「なんでテメェはいつもそう……いや、もう怒る気も失せたぜ。ま、確認が取れただけで良しとするか。なんか疲れたしよ」
よし、勝った! 諦めさせたらこっちのもんだ。今後はかなり好き勝手にできる! だって、王様が『良し』って言ったんだからな!
「ほらよ、これを受け取んな」
なんて喜んでたら、王様が一枚の紙をこっちへ押し出してきた。デスクまで歩いて行って受け取る。ナニコレ……指令書? えーっと、他国への物資輸送と現地での救援活動?
「
「えーっ?」
「そんなイヤそうな顔すんじゃねぇよ! 勝手にジャーキンで暴れて来たのをそれでチャラにしてやろうってんだ、感謝しな!」
むー、子供を無理やり働かせるなんて、なんて酷い王様だ。けど、この程度の仕事で他国での破壊工作を不問にしてもらえるなら……仕方ないか。
「わかった。それで、行先はジャーキンの最前線でいいの?」
「いや、そっちはギリギリなんとかなってる。テメェに行ってもらいてえのは反対側、エンデだ」
あらら? なんか、思いがけずエンデへ行く正当な理由ができちゃいましたよ?
これは飛竜の肉祭り確定かな? 輸送物資に鉄板とネギ塩とレモンはありますか?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます