第132話
結局その日は村に泊まり、翌日朝早く、引き止める村人を振り切ってカガーンへと向かって旅立った。いや、だから娘は要らないから。
村長宅に泊めてもらったんだけど、せっかく屋根のある場所に泊まれたのに妙に疲れてしまった。
まぁ、精神的にはともかく、身体を休められたのはありがたい。この旅の間はずっと野宿する事も覚悟してたからな。
ノラン人は肌が白くて、髪の色も金髪や銀髪、赤毛なんかの薄い色の人が多い。体格も大きい。そういえば、ダンテス村の村長も身体が大きくて赤毛だな。先祖にノラン人がいたのかもしれない。
俺たちみたいな黒や茶髪はそう多くないから、町に入れば外国人と疑われるだろう。というか、多分バレる。
だって、表向きこの国には獣人やエルフはいないことになっているから、アーニャとキッカがいる時点でモロバレだ。実際には非合法な奴隷として存在してるんだけど。まったく、なんて国だ。
そんなわけで町には入れないと思ってたから、宿に泊まることは半ば諦めてた。宿じゃないけど、屋根のある建物で休めたのは行幸だ。
もうひとつ、良かったことがある。それはノランの首都カガーンと三宗家に関する情報を得られたことだ。村長がせめてものお礼にと、知っている事を話してくれたのだ。
この国の農民は、あまり愛国心が強くないのか? まぁ、俺たちも普段生活する分には、国とか政治とかは気にしないしな。仮にも貴族がそれではいけないんだろうけど。
ノランの首都カガーンは、この村から馬車で十日程北西に行った、北氷海に臨むカガーン湾沿岸にある。
半月状の城壁に囲まれた東西に細長い街には十万人くらいが住んでおり、東部は貴族の住む貴族街、中央部は港湾施設と商業街、西部は平民が住む平民街になっているそうだ。
規模はそれほど大きくないな。ドルトンよりちょっと大きいくらい。王都セントラルの半分くらいか。
貴族は全員が貴族街に住んでおり、三宗家はそこの一等地に大邸宅を構えているらしい。基本的に平民は貴族街に入れないため、具体的な屋敷の場所までは分からないそうだ。
貴族なら地方に領地を持ってたりしないのかと思ったら、国土は全て国のものってことで、領地を持つ貴族はいないそうだ。代官や総督として派遣された貴族がその土地を治めているらしい。
三宗家の筆頭がゴルディオス家で、現当主はアンダーソン=キーン=ゴルディオス、五十歳くらい。嫡子がドーソン=ゴルディオスで三十歳くらい。
ふたりともノラン人らしい金髪の大男だそうだ。しかし、それ以上の詳しいことは分からないのだとか。議会と式典以外、ほとんど人前に出てこないらしい。
きっと後ろ暗いところがあるから、襲撃を警戒してるんだろう。俺たちも襲撃するつもりだしな。正解。
三宗家の次席がオーロ家で、当主はベラ=キーン=オーロ。貴族では珍しい女性当主で、年齢は六十くらいだそうだ。跡取りはジェイフン=オーロ、二十歳くらい。ベラの孫だそうで、両親は流行り病で既に鬼籍に入っている。
そのせいでベラに甘やかされて育っており、手の付けられない
三宗家最後の一族がゾロト家で、現当主は若干十二歳のクランド=キーン=ゾロト。
ゾロト家では、少し前に一族内での権力争いがあったそうで、色々と血なまぐさい事件を経て、叔父であるブレナン=ゾロトの後見によって兄二人を押しのけ、クランドが当主に就いたそうだ。
ゾロト家はそのお家騒動で力を落とし、他の二家に水を開けられているそうで、今のノランではそれほど大きな発言力を持っていないらしい。この家は放っておいても没落しそうだな。まぁ、放って置かないけど。あと押しするけど。
「ふむ、その六人が獲物っちゅうわけやな? 屋敷の場所と人相が分かったらなんとかなりそうやん」
「まぁ、ゾロト家のクランド君は
「そうですわね。流石に十二歳では一族を掌握できないでしょう」
「けど、うちらの身近にも常識外れの子供がおるしな。戦闘はふたつ名持ちで討伐五つ星の腕前、知識は学者並、大繁盛してる宿屋のオーナーで、見たことも聞いた事も無い万能魔法の使い手。終いには陛下直々に準男爵様の位を授けられるような子供がな。警戒して損はないと思うで?」
「あらあら、改めて聞くとおとぎ話にも出てこないような活躍っぷりね」
む、そんな子供がいるのか? 油断ならないな。……皆、こっちを見るんじゃない。せっかくとぼけてるのに。
今いる場所は、カガーンの南東約三キロの岩場だ。潜入前に打ち合わせておこうと思って、大きな岩の陰で休憩中だったりする。
というか、大きな岩を平面魔法でくり抜いて、簡易な住居に仕上げてある。石製だけど椅子とテーブル、ベッドに竈もある。竈では昨日狩った大鹿の肉のスープが煮込まれて、味付けのハーブがいい匂いを立ち昇らせている。
俺もずいぶんと、この手の細工が上手くなったものだ。やっぱ石工になるのもアリかな? 家紋も三角と目玉に変えたりとか。
「……若は特別」
「ここまで異常なのはそういないみゃ。心配ないみゃ」
「だよな。普通の子供なら、生かしておいても害はねぇだろ」
「そうね、男の子は目標から外しませんか? ビート様」
アーニャは相変わらず口が悪い。悪気が無いのはわかってるけど、言葉を選べ。
サマンサとルカは、流石に子供を手に掛けるのには抵抗があるみたいだ。俺もそう思う。
クランド君が秀才とか天才とかいう話は聞かなかったから、きっと彼は普通の子供だろう。それなら生かしておいても問題ない。
「ふたりがいいなら、それでいいよ。そうなると、ターゲットは五人だね」
「全員をいっぺんに相手できたらええんやけど、そう
「そうですわね。ひとりずつ相手をしていたら、きっとふたり目以降は警戒されますわ」
ふむ、議会の会期中なら全員集まるだろうけど、今が会期中かどうかは分からない。
あの村の村長は、議会の会期を知らなかった。まぁ、普通の農民なら議会の会期なんて知らなくて当たり前だ。全然生活に関係ないからな。俺だって中学の社会科で学んだはずだけど、前世での国会の会期なんて全然覚えてないし。県議会や市議会なんて、言わずもがなだ。
それに、会期中は貴族が集まるんだから、警備は厳重なはずだ。
俺の平面魔法を使えば潜入と脱出くらいはできるだろうけど、大勢を相手にして顔を見られたりするとマズイ。『他国の貴族が自国の貴族に狼藉を働いた』なんて、開戦のいい口実だ。大義名分を与えてしまう。
だから俺たちの作戦は隠密裏に行われなければならない。秘密戦隊だ。人数が七人でほとんどが女隊員という、ちょっと変則的な戦隊だけど。……いざとなったら平面でマスクを作るか。
「何はともあれ、潜入して情報を集めないとね。夜になったら僕とアーニャで忍び込んでくるよ。皆はここで待機ね」
それまでは休憩だな。いまのうちにウーちゃんの散歩に行ってくるか。
面白い魔物とかいないかなー? 珍獣ハンタービートのワールドツアー一か国目にふさわしい魔物が。
けど、もしオオトカゲが居たら、追いかけられるんじゃなくて追い回す。そして狩って食う。それが珍獣ハンター。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます