俺、冒険者！〜無双スキルは平面魔法〜【WEB版・改】

第058話

　ドルトンからの馬車は昼過ぎに到着した。舗装されていない土の道を走ってこの時間での到着という事は、出発は夜明け前だったはずだ。ご苦労様です。

　応援でやって来た冒険者は八人、馬車が二台。イメルダさんが言うところの『少しは使える』連中の様で、討伐ランクは皆ふたつ星という事だった。

　ちなみに全員女性。現場に配慮したのか、あるいはイメルダさんの趣味か。

　馬車に食料や衣類が積まれていた点は、流石はギルド副支配人だと思った。物資が足りないと言ってたのに、かなり無理してかき集めてくれたのだろう。

　まぁ、ドルトンは港町だからな。しばらくすれば他の街から補給が来るはず。それまで保てば問題ないはず。

　俺は馬車の到着まで仮眠を取らせてもらっていた。

　もう限界だった。子供の身体は完徹するように出来ていない。前世では一日五時間の睡眠で十分だったのに、今のこの身体は八時間位寝ないと体調が整わない。不便だ。

　それでも、盗賊のネグラから戻った後しばらくは頑張って起きていたのだ。何故なら、朝日が昇り明るくなった事で村の惨状が曝け出されたから。

　あちこちに村人の遺体が転がり、それをハゲタカのような魔物が啄んで喰い荒らしていた。

　村全体から濃い血臭が上がっており、放置すれば暗闇の森から魔物が寄って来る事は明白だった。可及的速やかに処理しなければならなかった。

　村の外れに大きな穴を掘り、そこへ木材を井桁に組んでから遺体を乗せ、更にその上に木材を重ねて荼毘に付した。

　木材は塩造りの燃料用だけでは足りなかったので、空き家になった家を解体して補った。俺がほぼ骨組みだけにした家も使わせてもらった。証拠隠滅ではない。

　個別に分けてあげたかったけど、如何せん数が多すぎた。何しろ百体近い遺体だ。手間を掛けていては時間がかかりすぎる。手遅れになったら目も当てられない。

　遺体は平面魔法の送風機が効果を発揮し、短時間で綺麗に燃えて灰になった。上から土を被せ、簡素な岩の墓標を置いて終了だ。ご冥福をお祈り致します。

　遺体の中には、全身を切り刻まれた海エルフの男女の遺体もあった。街に戻ったらキッカに墓の事を知らせてあげよう。

　盗賊共の死体は首以外、刻んで海に捨てた。

　村人と一緒の墓に入るなど言語道断だ。深海でダイオウグソクムシの餌にでもなってろ。居るかどうか知らないけど。

　首は討伐の証拠だから、気持ち悪いけど持って帰らなければいけない。死んでまで手間を掛けさせるとは、救いようが無いな！

　ここまでの作業は全て俺とクリステラ、アンナさんたちだけで行った。

　生き残った娘さんたちには酷な作業だし、何より俺が自由に魔法を使えない。なるべく知られたくない。

　平面に閉じ込めて窒息させた盗賊たちには俺が魔法使いであることがバレているけど、秘密が漏れる心配は無い。なぜなら、既にこの世には居ないからだ。

　広場に引き出して見せしめになってもらった五人のうち、四人がその盗賊だった。無作為に選んだ訳ではなかったのだ。最初から素直にネグラの事を話すとは思ってなかったから、犠牲になってもらうつもりで意図的に選ばせてもらった。口封じと見せしめ、娘たちの敵討ちと、一石三鳥というわけだ。俺って腹黒。いやいや、合理主義ですよ？

　ちなみに、五人のうちの最後のひとりはアンナさんを追い回していた奴だ。腹に据えかねていた俺の鬱憤を晴らさせてもらった。やっぱり俺って腹黒？

　そこまで済ませると、既に太陽は中天に近かった。だから寝たのはほんの二〜三時間位だ。

　まだ眠気が強くて本調子じゃないけど、そうも言っていられない。アンナさんたちはずっと起きていて、盗賊の見張りやら周囲の警戒やらをやってくれてたのだから、まだ俺が弱音を吐くことは出来ない。

　クリステラは、いつものように俺の毛布に潜り込んで寝ていたけども。もう突っ込む気にもなれない。

「荷物は全部積んだね!?　クズ共も忘れずに積み込むんだよ！　戦場で盾の代わりくらいにはなるんだからね！　じゃあ出発するよ！」

　アンナさんたちが取り仕切ってくれて、俺はかなり楽させてもらってる。街に着いたら、彼女たちも依頼の協力者として申請しておこう。きっとまた、報酬は少ししか受け取らないんだろうけど。

　御者は応援に来た冒険者のひとりがしてくれている。後続の馬車もそうだ。

　応援に来た冒険者八人のうち、六人は村の警護に残っている。村娘だけでは何かあったときに対処できないからな。

　アンナさんとウルスラさんは俺たちと一緒に先頭の馬車、リサさんとミサさんは盗賊共の見張りとして後続の馬車に乗っている。流石に皆、馬車と並走する元気は無いようだ。

　道すがら、ボーダーセッツで別れてからの話を聞いた。

　アンナさんたちはボーダーセッツでしばらく休息をとった後、拠点であるドルトンに向かう商隊の護衛を探したそうだ。しかしボーダーセッツからは大型船の定期便が出ているため、護衛の依頼は無かったそうだ。

　仕方なく近隣の村までの商隊護衛依頼を受け、そこからは歩いて戻って来ていたのだけれど、何度か野営してドルトンまであと一日、久しぶりにベッドで眠れる！　と思ってセンナ村に立ち寄ったら、村が盗賊に襲われてたそうだ。ついてないな。

　俺もボーダーセッツで別れてからの経緯を話した。奴隷が五人（六人になるかもしれない）という話ではかなり驚かれたけど、俺の秘密（魔法）の事を知っているのですぐに納得してくれた。

「あたし等は口止めしなくていいのかい？」

　御者に聞こえないよう、小声でアンナさんが話しかけて来る。

「なんとなく、アンナさんたちは大丈夫かなって。でしょ？」

　そう答えると、少しポカンとした後、アンナさんとウルスラさんが前後から俺を抱きしめて来た。

　前後に胸が！　これが伝説のマシュマロサンド、別名エンゼルパイ！　等と言う事は無く、革の胸当てに押し潰されて痛いだけだった。

　なにやらクリステラから殺気交じりの魔力が漏れていたけど、俺に向けるのはお門違いだと言いたい。

　アンナさんたちの事は信用している。信頼していると言ってもいい。一時とはいえ寝食を共にした仲だし、なにより俺を子供として扱ってくれるから、というのもあるかもしれない。

　行商人であるビンセントさんは別の意味で信用している。あの人は生粋の商人だから、俺に利用価値があるうちは秘密を洩らさない。村長とも懇意だし、俺と村長を裏切って商売のタネを捨てるような真似はしないだろう。

　しばらくはそんな感じで話をしていたんだけど、馬車の揺れに慣れてくると急に睡魔が襲ってきた。しばらくは気合いで耐えていたけど、健闘空しく睡魔に押し倒されてしまった。やはり子供の身体は不便だ。

◇

　御者のお姉さんに揺り起こされた時には、既に馬車は冒険者ギルドの前に到着していた。太陽はもう水平線に差し掛かっている。

　見ると、クリステラもアンナさんたちも起きたばかりのようだ。ちょっと不用心だったかな。魔物に襲われなくて良かった。

　ギルドの前にはウーちゃんと奴隷たちが待っていた。ウーちゃんは馬車を降りた俺に駆け寄り、腰ごと尻尾を振りながら盛大に顔を舐めてくれた。ウレションしそうな勢いだ。可愛い奴め。

「ただいま」

　興奮したウーちゃんを撫でて落ち着かせた後、皆に帰還の挨拶をする。

「おかえりなさいませ。お疲れ様でした」

「おかえりだみゃ！」

「おかえり、ぼっちゃん」

「……ケガ、無い？」

　皆、それなりに心配してくれてたようだ。ありがたい。

「ふふん！　ビート様とわたくしが居れば、この程度の仕事は軽いものですわ！」

「うん、クリステラも今回はよく頑張ってくれたね。ありがとう」

　クリステラはいつもの調子だけど、今回は村娘たちのケアや遺体の火葬に尽力していたし、偶には褒めてあげてもいいだろう。

「っ！　ビート様に褒めて頂けましたわ！　ご褒美頂きましたわ！　おほほほっ、これであと十年は戦えますわっ！」

「……さ、それじゃ報告に行くか」

　どこぞの開発者のような事を言っているクリステラの事はスルーしてギルドへ向かう。相手にしているときりがない。

　馬車は職員の手でギルドの裏へ回され、お宝の査定と盗賊の引き渡しが行われるそうだ。後は任せていいだろう。

　ギルドの入り口にはキッカが立っていた。

　服はパンツルックの冒険者風に着替えている。出発前にキッカの分をひと通り買い揃える様、ルカに頼んでおいたのだ。

　神妙な顔でこちらを見つめるキッカに、俺は前置き無く話しかける。

「キッカ、お父さんとお母さんは村はずれに弔って来たよ」

「ビートはん……おおきに」

　キッカは俺の頭を抱えるように抱きしめて来た。俺にはキッカの顔は見えないけど、かすかな嗚咽が聞こえてくる。俺はキッカの背中に手を回し、泣き止むまでポンポンと軽く叩き続けた。

　実は俺好みの薄い胸が鎖骨の辺りに当たって至福だったけど、これを素直に喜んではいけない状況なのが辛かった。

　ご褒美なのか拷問なのか、どっちなんだよ！

◇

　既に諸々を準備していたのだろう、ギルドでの手続きは滞りなく済んだ。

　アンナさんたちが協力してくれた事も問題なく認めてくれたので、事後承認だけど依頼完了という事にしてもらえた。なかなか柔軟な組織だな。現代日本の企業や役所とは大違いだ。

　報酬は前金と後金、生け捕りの報酬を加えて計大金貨四枚と金貨四枚。

　俺とクリステラ、アンナさんたち四人の計六名で山分けしようとしたけど、案の定、アンナさんたちはひとり金貨二枚づつしか受け取らなかった。盗賊から分捕ったお宝は査定に時間がかかる為金額はまだ不明だけど、アンナさんたちは受け取りを辞退するとの事だった。相変わらず律儀な事だ。

　前々日のゴブリン退治は、俺七割（ウーちゃん含む）、クリステラ一割、ギルド一割、その他の冒険者一割という貢献度になったそうだ。他の冒険者たちも活躍してたしな、主に後始末で。

　その報酬は細かく計算されていたけど、結果だけで言うと大金貨四枚と金貨一枚、大銀貨七枚になった。

　さらに、すっかり忘れていた村長の護衛依頼の完了報告とその報酬金貨四枚を貰い、今回の報酬は合計大金貨八枚、金貨一枚、大銀貨七枚になった。さらに盗賊のお宝の分が加わるとなると、結構な儲けになったんじゃなかろうか。苦労した甲斐があったというものだ。

　そして……

「はぁい、これがクリステラさんのタグでぇ、討伐がひとつ星になったわよぉ。見習い卒業ねぇ。おめでとう～」

「ありがとうございます！　これでわたくしも一端（いっぱし）の冒険者ですわ！　おほほっ、おほほほほっ！」

　眠そうなネコ耳お姉さんからクリステラが更新されたギルドタグを受け取る。そしてまたいつぞやのように、タグを掲げてクルクル回りだした。何かの儀式なのか？

「それでぇ、これがビート君のギルドタグよぉ。討伐が四つ星になったわぁ。これで中級冒険者の仲間入りねぇ。おめでとう～」

「ありがとう！」

　タグを受け取ると、確かに討伐が四つ星になっていた。

　うむ、順調だな！