第018話

 ビンセントさんの馬車二台と村に一台しかない荷車を使っても、昨日村長達が伐採した材木は載せきれなかった。仕方ないので、俺が作った平面に載せて移動させることにした。

 ジョイントも使えるようになったことだし、貨物列車のように平面を連結させて運ぶことにする。みんなは目を白黒させてたけど、今更隠しても意味無いし。

 そんなわけで馬車には俺と村長、父ちゃんと母ちゃん他数名の村人、ビンセントさんが乗り込み、その後ろから材木を積んだ平面が六両着いてくる格好になった。

 流石に契約外ということで、アンナさん達は村で留守番だ。護衛は父ちゃんと村長が居れば問題ないということらしい。


 平面は浮かせてるから、馬車を曳く馬への負担は無い。馬車も無しにして皆平面に乗っていく事も提案したんだけど『落ち着かない』ということで却下された。速くて快適だと思うんだけどな。引っ張っていく俺は疲れるけど。

 ちなみに、馬車は西部劇に出てくるような一頭立ての幌馬車だ。風が通らなくて蒸し暑いけど、雨に濡らしたくない荷物なんかもあったりするだろうから、幌は必要なんだろう。


 目的地までは三十キロ程の距離があるため、馬車で行くと半日近く掛かってしまう。そのため、今回は目的地周辺で一泊野営し、翌日戻る予定だ。ビンセントさんは行商の予定が遅れてしまうけど『どのみちイナゴのせいで道中は荒れているでしょう。落ち着くまで五日ほどは様子を見るつもりです』とのことで、今回は御者として同行している。


「それで、いつから使えるようになっていた?」

「気が付いたら使えるようになってた。もうずっと前だよ」

「どうして黙ってた?」

「村の誰も使ってないし、僕だけ使ってたら変に思われると思って……」

「……なるほど、聡いのも善し悪しだな」


 そこで村長はため息をひとつ吐いた後、黙り込んでしまった。

 今は、移動中の馬車の中で尋問されているところだ。この時の為に受け答えをシミュレーションしといて良かった。『嘘を吐かずに真実を話さない』というのは難しいのだ。

 必要以上の事は話すべきではない。誰の利にもならないだろうから。


「何が出来るんだ?」

「壁……というか、板を作れるよ。大きいのとか小さいのとか。あと、玉とか」


 そう言って、目の前に十センチくらいのバ○ュラを作ってクルクル回して見せる。


「昨日は、これの大きいのを作ってイナゴを止めてた」

「これは……土魔法で石を作り出している? いや、風魔法で空気を固めているのか? こんな魔法は見たことが無いな」

「えっと……良く分かんない。何となく作り出してるから」


 説明したところで3DCGが理解できるはずがないし、もっと複雑な形状のものも作り出せるんだけど、別に言う必要はないだろう。実際、そんなに複雑な形状の物を使う事は今まで無かったし。


「……そうか、そうだな。子供に分かるはずも無いか。そういえば、お前の力が子供にしては強いのも魔法か?」

「ん~、多分? お腹のグワーッて奴をバーッて出さずにギュッてしてると、いつもより力が強くなるよ」

「そ、そうか。それが魔力なんだろうな。俺には分からんが」


 敢えて擬音を多用してみた。感覚的なものだからこっちの方が理解しやすいかと思ったんだけど、ダメだったみたいだ。村長は理性の人だからかな?

 父ちゃんは俺の後ろで『グワーッでバーッか……なるほど』とか言ってる。父ちゃんは感覚派らしい。


「他に何か隠してる事は無いか?」


 う、やっぱ聞かれるよな。先ずは些細な事から明かすか。


「近くに居る魔物や人の場所がわかるよ。大体半リー(一・五キロ)くらい」

「ほう、それも魔法か?」

「わかんないけど、多分魔法じゃないかな? 頑張ったら一リー(三キロ)ちょっとぐらい離れてても分かるよ」

「それは凄いな。例えば、この近くには何か居るか?」


 気配察知はほぼ常時発動させているけど、この近辺からは何も反応が無い。イナゴに荒らされて、動物や魔物は移動してしまったのだろう。

 ちょっと範囲を広げてみると、東にふたつ反応がある。距離は三キロ弱といったところか。東はイナゴの被害を免れていたみたいだ。


「近くには居ないけど、あっちの方、一リーくらいのところに何かが二匹いるよ」


 俺はそう言って東の方を指差す。進行方向から見て右側だ。


「ふむ。疑うわけではないが、確認は必要だろう。ビンセント、寄り道になるが東に向かってくれるか」

「承知しました。多少の寄り道くらいは問題ないでしょう」


 そう言って馬車を右へ走らせる。御者台に身を乗り出して『もうちょっと左、そう、そのまま真っ直ぐ』とか方向指示しながらしばらく進むと、直径一メートルくらいの岩がゴロゴロと転がっている場所に着いた。

 気配はこの岩場から感じられるんだけど、何か居る様には見えない。どういうことだ?


「ここか?ビート」

「うん、そことそこ辺りから気配がするんだけど……おかしいなぁ」


 馬車から降りて気配のする辺りを指差す。気配の大きさからすると弱めの魔物じゃないかと思うんだけど、それらしいものは見当たらない。岩が転がるばかりだ。


「……ふっ、ふはははっ! いやビート、お前は正しい。お前の能力も間違いないようだ」


 村長が笑いながら気配のする辺りに歩いて行き、そこにあった岩を一つ蹴り転がす。すると、ひっくり返った岩から脚が四本生えてジタバタし始めた。

 何これ、亀?


「こいつは『偽岩亀にせいわがめ』だ。身の危険を感じるとこうやって岩に擬態するんだ。甲羅が硬くて倒すのは厄介だが、草食で害はないから放っておいていい」


 足掻いていた亀は首を伸ばしてようやく起き上がると、そのまま手足を縮めてまた岩に擬態してしまった。もうばれてるっつうの。こんなにヌケてて生きていけるのかコイツ?

 もう一つの気配のする岩を蹴ってみると、それもやっぱり偽岩亀だった。そしてひっくり返ってからまた擬態するところまで同じ。

 いいのか? お前達? そんな事で?


「こいつは草原にしか居ないから、森の傍で育ったお前は見たことがないはずだ。そのお前がこいつを見つけたということは、お前の能力は本物ってことだ」


 まあ、信用はしてもらえたようだ。

 


「これはなんとも……凄まじいですな」


 例のイナゴキューブ(仮)まで到着した際の、ビンセントさんの第一声だ。他の皆は口を開けてポカーンと見上げている。うん、我ながら大それたものを作ってしまったと慄くばかりだ。

 上の方では鳥が数羽、何か啄んでる。イナゴの死骸でも露出してたかね? 早く焼いて処分しないと、死骸はともかく、卵が孵ってしまう。


「……王都で見た属神の神殿よりデカいな。これが魔法使いの本気か。貴族が囲い込みたがるわけだ」


 本気ってわけでもないけどね。ただ土を集めて固めるだけなら、同じものを百個だって余裕で作れる。食うに困ったらレンガでも作って売りますかね?


「早くしないと日が暮れちゃうよ?」

「あ、ああ、そうだな。皆、材木を降ろして薪に切り分けろ! 何本かは焚き付け用に細くするんだ!」


 いつまでも呆けてられたら処理が進まないので、声を掛けて行動を促す。我に還った村長の指示で、ようやく皆も動き出した。実際、もう太陽は中天を過ぎてるしな。急がないと、暗くなったら作業が出来なくなる。


「村長、細切りにするのは僕に任せて」


 もう自重する意味もないので、出来ることは率先してやっていく。


 平面列車の一両を自分の前に持ってくると、載っている木材の一本を一メートルくらいの丸太に切断する。木材はどれも直径一メートル、長さ五メートルくらいだ。

 いつもの極薄平面で切ってもいいんだけど、今回は歯車の様にギザギザの付いた円盤を回転させて切っていく。丸鋸だな。材質は、いつもの無色透明だ。

 これで切ると大鋸屑おがくずが出るんだけど、それが目的だ。着火の際に着火剤として使うつもりでいる。まだ生木だから多少点きにくいかもしれないけど、無いよりはマシだろう。

 透明丸鋸にはガードも付けてあるので、大鋸屑は散らばらずに地面へと落ちていく。

 透明の刃で切っているので、まるでつむじ風に削られてる様だ。押さえや送りも無色透明の平面を使っているから、はた目には木材が勝手に切れていく様に見えるかもしれない。なかなか不可思議な光景だ。

 切った丸太を今度はスライスし、厚さ三センチくらいの板にする。さらにそれを一センチくらいの幅でカットしたら火付け用の木材の出来上がりだ。一本の加工に三分も掛かっていない。


 ふと、妙に静かだなと思って周りを見回すと、またも皆がこちらを見つめたまま口を開けて呆けていた。

 

……大鋸屑入るよ?

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