第9話 シノビネットワーク(廃盤)
安全地たちとなったガソリンスタンドにて、茂利たちは昼食をとることにした。
保存が効くよう茂利が調理して業務用冷凍庫に放り込んだ食料もあるが、ヒナたちはカップ麺を食べていた。
効率がいいという理由に、こっちの保存食糧の類はおいしいからだという。
同じくカップ麺をすすりながら、茂利は考える。
『わざわざ美味しいものを人造人間、情報素生体である彼女たちに回すだけ食料に余裕のありそうな世界じゃないものな』
ましてや男性と女性の比率が完全に崩壊し、女性が社会を回す中、人工的につくられた彼女たちの綺麗さを憎まないとは思えない。
妊娠機能をオミットさせたのも、おそらく数少ない男性を取られると警戒したからではないのだろうかとすら、茂利の考察は進む。
勿論、彼女たちには関係のない話だし、これを口にして何らかの処分対象になったら困るので茂利はそれを心にしまう。
「トシさん、こっちのごはん美味しいですね!」
「おう、手料理になればもっとうまいもん食わせてやれるぞ?」
満面の笑みでモモが茂利をそう呼ぶと、茂利が自信満々に答える。どう呼んでもいいといった手前、歴戦の武士みたいに呼ばれても受け入れねばならぬ。
「ムフフ~……男性が料理っすか~」
「こうみえて、バイト経験豊富なんでな」
スルスルとモモが茂利の腕に顔を近づけて、彼を見上げるような姿勢になる。ヒナよりは大きいが、やはり体格は茂利のがいい。
だが童顔にアンバランスな発育、これでどこかの学校の制服でも来ていたらもう高校生や中学生の高学年にしか見えないだろう。ヒナは……入学式の看板前の写真に似合うかもしれない。
「……これが……男性、男の人……なんっすね」
「!」
モモが感触を確かめるように茂利の腕に触れる。普通に考えると、彼女たちが男性に会えたり触れ合えるような機会は向こうで恵まれているとは思えない。茂利は少女の表情の中に切なさのようなものを感じた。
なんで向こうの世界はこのような危険な仕事にかかわる人造人間をあえて、人間にしようとしたのだろうか……。なんで彼女たちのような愛くるしい姿を持たせたのだろうか……。茂利の中に疑問はやはり湧いて出てしまう。
「そういえばモモとヒナって、同い年なのか?」
「ヒナ先輩のが二世代上っすよ」
「あなたたちの世界の年齢基準に当てはめるなら……私が17歳で、モモが15歳になるわね」
「なるほど」
思わず、ヒナのことを『飛び級少女とかその類に見ていた』と茂利は漏らしそうになる。短く呑み込んでありきたりの言葉を返すので手一杯だった。
「むふふ、同年代でも私たちの部隊って、発育のいい子が多くてっすねえ」
「時雨さんもミノリ姉さんもすごかったわね、幼年カリキュラムから目立っていたわ」
『君もすごく目立っていそうですね』
茂利が失礼な事を考えていると、二人が食事を終えた。茂利がコーヒーを淹れてやると、空気が変わり会議の続きになる。
「一応、言っておきますが……私たち斥候にある技能、シノビネットワークというものがあるのですが……そこで得た情報です」
「シノビネットワーク、そこまでの展開ができていて第二部隊は壊滅したのね……」
専門用語と二人にしか分からない世界であるため、茂利は地図片手にこの単語をスルーすることにした。
「最も、展開してすぐ散会、本陣が落ちてからは一部残存兵に合流して……。時雨先輩が落ちたと聞いてからは、敵に利用されないようすぐに廃盤にしました」
「あなただけ別行動だったから、助かったということね……」
「まあ、孤軍四面モンスターでもう終わりとおもったけど、結果的には助かりましたね」
ヒナとモモが軽くそういいながら、モモから第二部隊の落ちた位置や残存兵力が集った位置を聞いて地図に記していく。
「時雨は外回りの平定に回っていて、その間に本陣が落ちたため、敵が引いたあとに本陣跡に拠点を築こうとしたようですが……。真駒内みたいに障壁が表れて侵入ができなかったそうです」
「この程度の立地や拠点でミノリ姉さんが、妨害用の障壁トラップを置いていくとは思えないわね……。これは私でも解除できないものと思った方がよさそうね」
「それで、第三部隊の生き残りと合流をかけて逃走する前に得た情報では、捕虜はこことここに集められているようです」
モモの指をさした場所は、藻岩発電所。札幌から一番近い発電所である。そしてもう一つは大通公園のテレビ塔近くである。
「関連性が分からない……電力のインフラを抑えるのはいいとして、テレビ塔?」
「電波でもつかって、生き残りに投稿しろって呼びかけるつもりっすかね?」
「……」
茂利とモモが首をかしげていると、ヒナが黙ったまま地図を見て考え込む。
「拠点構築ができなかったと言え、私と完全状態のミノリ姉さんの情報障壁を突破した相手……。相手の情報巫女は少なく私たちより上位の巫女がいるはず」
「噂の第一部隊のレンさんっすかねえ……」
「……」
空白の第一部隊、それがあったころの情報巫女の名はレン。追及するとまた軍機に触れそうなため、茂利は口をふさいだ。
「第一部隊の消失なんて、私たちが存在する前の話……記録もほとんど無いに等しい……」
「あと、駆動兵器に乗っていた人物……あれ男っす」
「!!」
ヒナと茂利が驚いてモモを見る。操縦席なのか座席にすわっていたのは、黒い仮面をつけた人物とまでしか二人は分かっていなかったからだ。
「間違いないっす。相手の肉声と、攻撃しようとした仲間が男性保護装置の起動により、行動不能状態になって捉えられたって情報がありましたから」
「誤作動する機能じゃない……じゃあ、私たちが落とされたのって……」
「相手に男がいたからかもしれないっすね」
二人がため息交じりにコーヒーに口をつける。気分を変えたいところだが、そう簡単に変えられる情報でもなかった。
「通信が本部と途絶している以上、男性捕獲にともなう情報制御の許可申請ができない……」
「かといって、このままじゃあ……どうなるか分からない……ってところですね」
「?」
モモがチラっと茂利を見ていた。
「ああ、そうか。俺が男性をしばき倒せばいいのか」
「……たはは」
「……」
そう言った茂利にもう少し言葉を選べないのかといいたそうに、モモが苦笑いを浮かべている。対照的にヒナは無表情でコーヒーを飲んでいた。
「そうね、あなたも保護対象にあるし、ある程度の自衛と判断して……黙認する姿勢でいたほうがいいかもしれないわね」
「ええ!自分で言っておいて、まじっすか!?」
「そうこなくっちゃ、思い入れのある町をめちゃくちゃにしやがったんだ。一発入れてやらんと気が済まないところだったぜ」
ヒナの判断に驚いたモモ。茂利は任せとけと言わんばかりに、鉄パイプの素振りを始めた。
「あ、あ、あんな原始的な武器じゃ、死にに行くようなもんっすよ!」
「茂利、ほこりがたつ」
「ああ、ヒナすまない。あとモモ、一応これ情報操作で強化してもらっているから」
そう言って、茂利がモモに鉄パイプを手渡した。
「……これ、ガチガチの強化っすね……」
「バイクに乗りながら片手運転しながら、こいつを振り回しても反動がないんだぜ」
「まあ、彼……気を失ってる私をおぶりながら、ノーマル状態の鉄パイプを片手にバイクで走っていたけどね」
「……」
モモの茂利を見る目がとんでもない奴を見る目になる。上京した壬生浪士たちもこういう目を向けられたのかな?とトシ繋がりで、茂利が思ってみる。
「時雨先輩といい勝負しそうですね……」
モモがそうつぶやいた。話に聞く時雨さんという人は、いったいみんなからどんな目で見られているのだろうか。茂利が想像もつかない人物に、会いたいような会いたくないような複雑な心境になった。
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