第10話 中央に拠点を探そう
モモの『シノビネットワーク』より、色々な情報を得た二人だったが、結局全貌は見えず敵の目的も見えずと未明なものが多い。
そんな中、指揮官であるヒナの判断は固まったようだ。
「さて、行動指針がきまったわ」
「!」
ヒナがペンを取り出して中央区の札幌駅の付近、それから大通りの電車通り付近を丸く囲った。
「捕虜の救助も相手の拠点偵察も、ここからじゃ遠すぎる。近くにいくつか拠点が必要よ」
「あ、この電車通り……西11丁目のあたりに隠れ家になりそうなビルがあったっすよ」
モモの情報をうけて、いくつかのビルにヒナがしるしをつけて行く。
「物資の補給が厳しそうだな……。コンビニの類をモンスターが荒らしていないといいが……」
「いっそ、ここみたいに安全地帯があるといいのに……」
「決めたわ札幌駅付近で、相手の見落としていそうなところを探すわ」
ヒナがそういう。モモの西11丁目のあたりまでそれほど離れておらず、あのあたりなら線路もあるし色々活用できそうなものがあるとみたのだ。
「それに、藻岩発電所は元第二部隊の拠点も近かったところ。多くの捕虜を助けても抱えるキャパが我々にはないわ。補給戦も伸びるしね」
「遠方なら偵察に絞れば自分が行くっすよ!」
「中央で隠れ家があれば、テレビ塔あたりまでの偵察やらも可能だし、合理的ではあるな」
モモは勿論、茂利もヒナの判断に異論はなかった。
「ルートはどうする?俺たちが逃走に使ったところをいくか?モモの来たルートで行くか?」
「あ、シノビネットワークで気になることが……。相手、石狩街道という通りは避けてたみたいっすよ?」
「石狩街道?」
「ここだ」
茂利が地図の道を指さして見せる。街から石狩へ延びる一本道。地元には旧石狩街道という、旧交通の中心道路もあったりするのだが、モモの言うのは新しいほうだ。
「もしかしたら、生き残りを拾える可能性もある……と?」
「ただ、テレビ塔や中心部のビルで監視してたら丸見えになるな……」
「どっかで街中に入る必要がありますね」
ほぼルートは石狩街道から決まりかけたという時、ヒナが何かを考えた様子でいた。
「ワナだったら怖いわね、部隊構成は勿論、下手すれば人員の構成も抜かれてるかもしれない」
「じゃあ、街道を捨てて、別ルートか……」
「あの」
話題が振り出しに戻りかけたとき、モモが口を開いた。
「自分は斥候長っす。別行動をとりながら先行して、二人を誘導しますか?」
「一時的な共有で、連絡できるようにするわ」
「はい」
ヒナがモモの進言を受け入れて、彼女の通信規格を自分と合わせる。茂利の目からは彼女に手を当てて、撫でてるようにしか見えなかった。
「拠点になりそうなビルを探すときは合流して、捜索にあたるわ」
「はいっす!」
「あれ?もう行くの!?」
モモが立ち上がりスーツを手に取ったため、茂利も用意をしようとする。
「いえ、自分は先行なので、先にでるだけっす!」
「ルートは彼女の情報をもとに算定するわ」
「なるへそ」
茂利がそういうと、着替えを始めるモモから目をそらして、地下へ向かった。
「うん、ばっちり治ってるっす!」
「ミノリ姉さんみたいに、繊細なつくりは再現できないけど……。あなたの支障にならない程度には仕上がっていると思うわ」
「いえいえ、見劣りしないっすよ……情報適合開始」
モモが動きを確かめるため、スーツを起動すると跳ねたり伸びたりして見せる。
「おい、水と食料だ。この時期の北海道は今や暑いからな……気をつけてな」
「……は、はい」
「ん?どうした?」
「そ、そのぉ……」
茂利が食料などが入ったリュックを渡すと、モモが赤面しながらうろたえだす。
「私たちの世界でそういう人、ましてや男性はいなかったからね」
『女子高育ちがいきなり男をみたようなものかね?』
ヒナの一言に茂利が彼女の思いを理解するため、近そうな境遇をイメージしてみる。実際はもっと悲惨なものなのだが、この時ばかりは彼はその前提が抜けていた。
「ありがとう、トシさん」
「おお」
手を振って夕暮れに走り去っていく彼女に、『おお、近藤さん』という言葉をとっさに飲み込んで彼は見送った。
「さて、明日になるけども……。モモから連絡がきたらすぐに出られるように私たちも用意をするわよ」
「わかった、食料の選別をしておくよ」
夜間はバイクのライトが目立つ、そのため、茂利たちは明るい時間帯の行動になる。
『あどけない顔をした彼女たちが戦わないといけない世界か……』
一日もいなかったが、モモとの出会いは茂利に大きな変化をもたらしていた。いつしか彼は自分がこの異変に巻き込まれた意味を見つけようとしていた。
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