第7話 第二部隊の生き残り
スタンドで一夜を明かした茂利達。夜中に色々な出来事があったものの、安全な場所というのもあり心身ともに回復していた。
車庫からバイクを出して、一応出かけられる用意だけいつでもとれるようにした茂利はヒナと朝食をとる。茂利のプランは西へ避難する、つまりここで一応終わっている。あとはヒナの判断や行動指針にゆだねるしかないだろうと考えていた。
「これからどうする?」
「各部隊の生き残りを集めて、ここに誘導できればいいのだけど……」
「緊急通信や救難信号の類はないのか?」
「暗号化など処置しているから、遠くまで届かないの……。まあ、私みたいに情報巫女の立場にある上位個体となれば、広域に出せない事もないけど……」
ヒナが茂利に答える。一応、他にも部隊が来ていたのだから、ヒナと同じ上位個体はいたはずである。
それが無いという事はつまり、そういう事になる。
茂利が考えていると、ヒナが顔を上げる。
「……目の前まで敵が来てるわね」
「あのデカイやつか?」
「ええ、まあここにいたら安全よ」
ヒナがそういうと、茂利は目の前の道路を通り過ぎようとする大きな機械を眺めていた。
見た感じクモのような形状を思わせるシルエット、そしてその頂点には羽の生えた女がいる。そしてその横には玉座を思わせる椅子があり、そこに黒い仮面をつけた人が座っていた。
「あれが……モンスターの親玉になるのか……?」
「ジャミングが完璧ね……情報因子もコネクターも隠蔽されていて、何一つ分からない……。私でも突破できないだなんて……」
のんきに見上げている茂利とは対照的に、ヒナが屈辱感の混じった表情で相手の女を睨んでいた。
「伝説にある統括大巫女級、私より上位個体と思った方がいいわね」
「伝説ということは、そっちでもあれクラスはまずいないという事か……」
「……救難信号!?こんな時に!」
ヒナが顔色を変えて、すぐさま方向を確認する。茂利はすぐにでも飛び出せるように、バイクにまたがっていた。
「ヒナどっちだ!?」
「敵のやや後方、こっちからあなたが飛び出していくとすぐバレてしまうわ!」
ヒナの言葉からおおよそのあたりをつけて、茂利も敵の後方に目をやると、ボロボロになった女性が満身創痍の状態で歩いていた。
まだ無事なようだが、このままいくと敵のモンスターにみつかってしまう。猶予はない。
「裏から飛び出して迂回して回収する!隠ぺい工作や情報操作は任せるぞ!」
「ちょっと!!」
ヒナが静止する前に茂利は、バイクでスタンドを飛び出していた。今の茂利は敵からも補足できてしまう。
「相手は上位存在って言ったのにもう!……とりあえず排気と騒音を隠蔽して、情報因子が目立たないように……」
**
ヒナが頭を悩ませている中、茂利はじわじわと救出対象に近寄っていた。
「ハァ、ハァ……ここまでかなぁ……ミノリ姉さん、時雨先輩、ごめんね……」
「声を出すな、あきらめるな」
「!?」
茂利が彼女の前に現れて、すぐさま彼女をバイクの後ろにのせた。
「捕まる力はあるか?ないなら、このロープで体を固定するが」
「あなたは??」
「説明する時間がもったいない、ヒナの場所まで連れていくから、もう少しこらえてくれ」
突然現れた男性に困惑する彼女であるが、抵抗する力はもはや残っていないようだった。
そして信じられないことに男性から飛び出した、ヒナの名前。彼女は身を任せることにした。
茂利がロープを巻き終えると、前を横切ったモンスターに二人が見つかってしまう。
「しまった!モンスターに見つかった!飛ばすぞ!」
「!!」
「グギャ!?」
とびかかったモンスターを鉄パイプで殴り倒すと、茂利はすぐさま目標地点をめがけてバイクを走らせた。
大型機械が横断したため、路面状況は凸凹になっており、アスファルトがめくれてるところも見受けられる。
すると茂利の後ろから崩落音がし、粉塵と衝撃が地面を伝った。
ヒナが敵の視界を遮るために、ちょうどいい位置にある高速道路の劣化してる部分を落としたようだ。敵の巨大兵器の振動により落ちたと見せかけたのだ。
「よっしゃ!」
「!!」
おかげで茂利は、正面から迂回する事もなく最短ルートを突っ切って、安全地帯と化したガソリンスタンドに滑り込むようにして入り込むことができた。
「茂利!!」
「ヒナ、すぐに手当てを!!」
「ヒナ……本当にヒナ先輩!?」
ヒナがすぐさま茂利にかけより、茂利はロープを外して、彼女をゆっくりと下ろした。彼女は彼女でヒナの姿をみて、驚きの声を上げた。
「あなた、第二部隊の斥候長のモモちゃん!?」
「そうです!モモです!ヒナ先輩、無事だったなんて!」
彼女の名前はモモというらしい、斥候長という役職にいたようだ。茂利は彼女の服装から、ヒナよりも軽装というか露出が見える形状から、女忍者かと納得する。
「水を持ってくる、それ以外は中でいいだろ?」
「お願いするわ」
とりあえず、自分がいても役に立たないだろうと茂利は判断して、モモに飲ませる水を取りにいき彼女をヒナに任せる。
「モモ、第二部隊はどうなったの?第四部隊も通信が途絶しているわ」
「第二第四ともに、敵の奇襲を受けて指揮官の情報巫女が陥落、多くの友軍が捕虜になってます」
「捕虜に……?ならうちの部隊の面々も命だけは助かっているとみて、よさそうね……」
ヒナが介抱しながらモモから、事情を聴いて情報をすり合わせていく。
「スーツの破損は大きいけど、身体へのダメージは少ないわね。身体に限っていえば、飢えによる消耗が大きいくらいね」
「面目ないです……」
「修復するから脱がせるわね」
「まった!」
ヒナがスーツに手をかけたとき、茂利が声を上げて駆け寄った。
「脱がせる前でよかった、ほら水とあと濡れタオルだ……。動けるようになったらシャワーを浴びればいいから、乾いたタオルは持ってきていない」
「あら、ありがとう気が利くわね」
「じゃあ、中で待ってる」
茂利が駆け足で二人の前から姿を消した。
「あの人……男性ですよね?何を慌てていたんでしょうか……??」
「さあ」
モモの問いかけに、ヒナが首をかしげる。女所帯の人口生体である彼女たちからしたら、茂利の行動はいまいち理解ができていないようだった。
「とりあえず、水でも飲みなさい……スーツはこっちで修復しておくから、動けるならシャワーへ案内するわ」
「ここ、完璧な隠蔽ですね……こんな拠点を持ってるなんて、さすがヒナ先輩です」
「手に入ったのは茂利の機転だけどね」
「へ??男性が??」
意外なヒナからの回答に、モモが思わずそうもらした。
水を飲んでようやく落ち着いたモモが、シャワーを浴びて出てきたころに彼女のスーツの修復も終わっていた。
そして、彼女から詳しく事情を聴く事となるがそれは茂利の想像を超えるとんでもない話であった……。
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