第6話 夜中の来訪者

比較的安全な隠れ家として、一夜を明かす予定のガソリンスタンドで、茂利はヒナと別行動をとり作業に当たっていた。


最優先は粉塵と汗に汚れたライダースーツの洗濯である。




「ふう、スタンドのわりにツーリング用品が充実してて助かったな……」




オーナーの趣味なのか、ガソリンスタンドのわりにライダー用の商品が充実していたおかげで、茂利はライダースーツを綺麗に洗濯することができていた。


そして茂利はライダースーツを二階に干す。外に干してモンスターのイタズラや、敵勢力に発見されるのを懸念したからである。


そうこうしているうちに、窓の外から身体よりも多くの荷物を抱えて歩く少女の姿が目に入った。茂利は急いで階段をかけおりて、少女へ駆け寄る。




「ヒナ、今手伝う」


「平気よ、情報操作で軽くしてるから」


「……便利だねその能力」




せめてもの補助をと思い、茂利はドアを開ける役割を担う。




「それにしてもずいぶんと持ち帰ったものだな……」


「場合により、ここを避難所にも使うかもしれないから、地下室に食料を備蓄しようと思ってね」


「なるほど」




ヒナの冷静な判断に感心して、茂利はとりあえず一緒に地下室へおりる。




「匂い移りを防ぐために、ちょっと整理するわ」


「じゃあ、こっちで隠蔽とかはしておくわ……。あ、今日と明日のは上に置いてあるから」


「サンキュー」




空気がどんよりとした地下室であるが、二人で手分けして作業するのも案外悪くないものだ。茂利だけでなく、ヒナも不思議とそう感じていた。


そうこうしているうちに、先に作業を終わらせるのは情報操作というチート武器を持つヒナである。




「茂利、そっち手伝ったほうがいい?」


「いや、ヒナはシャワー浴びてきていいぞ……俺も後でもう一度入りたいし、やることがないなら先に入って休んでてくれ」


「そう、ありがとう」




ヒナが肩にかかった髪を軽く後ろに払いやる。首元が涼を求めてだろうか、そこまで情報操作でのケアが行き届かないだけなのか、茂利には分からない。




「……これからいろいろと話してくれるような日が来るのだろうか……」




茂利がそうつぶやいて、危険物や有機溶剤の移動を続ける。


彼女たちは自分を……男性を保護対象と言っていたことを思い出す。機密作戦に思いっきり顔を出している以上、この異変が解決したとして自分が自由になれるなど考えてもいない。


あっちの世界ではどんな扱いを受けるのだろうか……。男性はどのような社会的立ち位置でいるのだろうか、なぜ男性が重要視されているのか、考え出すときりがない。




「これぐらいでいいか」




茂利が上に上がると、シャワーを浴び終えたヒナがいざという時、時間を稼ぎやすいようにバリケードを構築していた。




「あら、ご苦労様」


「バリケードか……手伝ったのに」


「情報操作でやれば汗のかく仕事じゃないから……それに、早くシャワーを浴びたそうにしていたからね」




どうやら気を遣ってくれたようで、茂利はありがたく好意に応じることとした。




「そういえばヒナたちのその……スーツって洗わなくていいのか?」


「情報操作で衛生的に保たれるようになっているから、気候の適応も完璧だし、中が蒸れる事もないわ」


「へえ、便利な一品なことで……」




なんともうらやましい逸品だと茂利が考え、ヒナと別れてまたシャワーを浴びに行った。








**






色々なことがあった一日、それは茂利だけでない。部隊が壊滅、友軍がほぼ機能不全となったヒナも同然であった。


夕食を済ませると、ほどなくして二人は眠りに落ちた。




「……ん?」




茂利が夜中に目を覚ます。時間はまだ夜明け前である。


何気なく彼は二階へあがると、干してあったはずのライダースーツがない事に気が付いた。そして、窓辺でライダースーツがもごもごと動いていることにも気が付く。




「すまんが、これは渡せない」


「!」


「な!?」




ライダースーツを持ち上げると、そこには小動物のようなシルエットがあった。だがどう見てもこの世界の生き物じゃない。




「ゴボルト?……ピクシー?」


「……!」




茂利は日本人の妖精イメージと、欧米の原典妖精イメージは違うと聞いたことがあるのを思い出した。だから、目の前の存在をそのどちらかと仮定する。


イタズラ好きというのを考慮すると、ピクシーっぽいように思えた。




「すまんが、これは大事なものだから渡せない。変わりにこれじゃだめか?」


「!!」




茂利は不用品と化した500円硬貨をピクシーに手渡してやると、ピクシーは興奮した様子で何かを始めた。




「~」


「はは、ありがとうってか?またな」




ピクシーが窓から消えると、慌てた様子でヒナが階段を駆け上がってくる気配がする。




「どうした?」


「今、何がおきたの!?」




血相を変えたヒナが茂利にそう尋ねる。質問に質問で返された茂利は、とりあえず今おきていたことを説明してやる。




「そんな!?まさかそんな不確定な存在が、これほどの規模の情報改変を行ったというの!?」


「情報改変??」


「あー、えっとね……ここが完全な安全地帯になったの!!」




聞きなれない言葉を聞き返しただけの茂利だったが、ヒナがとりあえず現状を説明してくれる。


おきたのはこのガソリンスタンドが独立した位相化したということで、茂利たち以外に入れない完全な安全地帯になったという事である。




「結界とはちがうの……?」


「敵がその位階をピンポイントで見つけ出して攻めてこない限り、入れないわね……。ノーヒントなら、宝くじや天文学的確率よ」


「へ、へえ」


「この情報構築……私でも把握しきれない……??」




いまいちピンとこない茂利だったが、ヒナはヒナで何かに気が付いて首をかしげていた。




「100%安全なら、ぐっすり休めるな……今日はもう寝ようぜ」


「そ、そうね……」




確認作業は明日にでもできる、そう考えながら茂利はまた眠りに落ちていった。

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