第5話 休める場所を探そう

ガソリンスタンドで、茂利はヒナにお説教をされていた。


『慌てて飛び込んできて奇襲かと思ったじゃない!』『化石燃料の知識があるのだから、火気厳禁なくらいわかるわ!』と、自分よりも小さな体の少女に言われ続けていた。どれもごもっともである。


その中での収穫は、ヒナには火球以外の攻撃手段があるというものだ。



「普通に情報操作でその辺のものを投げつける事もできるし、火以外にも操作は可能なのよ」


「あったばかりでそこまで分からんよ……いや、整地を平然として多段階で地震攻撃ができると思ったほうが……」


「言っておくけど、この世界で私たちが地震攻撃をしたことはないからね?」


「あ、はい」




ようやくヒナのお説教から解放され、茂利が鉄パイプ片手にバイクに向かう。




「貧相な武装ね……。次から反作用の相殺も操作してあげるから、遠慮なくパイプをふるいなさい」


「あ、それは助かる」


「ところでそのロープは何よ?」


「いや、危ないから固定をと……」


「情報操作であなたから落ちないように、自分で固定できるわ。だからいらない」


「了解」




情報操作とはすごい便利だ。茂利はそう思いながら、バイクにキーをさしてエンジンをかける。ヒナは茂利の肩に手をおいて、後ろに立つ形でいた。


後部に座ると視界がせまいため、ヒナはスタンディングで危険運転一発退場ものの姿勢をとっていた。




「……ホントに滑り落ちたりするなよ?」


「大丈夫、なんなら振り落とそうと試してみても構わないわよ?」




茂利の懸念に、ヒナが笑いながらそう答える。茂利は、硬い表情で淡々と話す彼女にも笑うことができるんだという事を知った。




「次のアテはあるの?」


「あー……被害の少なそうな西を目指して、同じようなスタンドで一晩明かせればと考えている」


「なるほどね……現時点では西の方が被害が少ないと考えたのね……。西に展開してる部隊はいないけど、斥候や退路確保で他部隊の生き残りと合流できればいいのだけど…」




ヒナの言葉から、彼女にもある程度の行動指針があるようだと茂利は考え、運転しながら彼女と情報を交換し合うことにした。




情報操作とは便利なもので、マスク越しの茂利にもヒナの言葉が運転中にクリアに聞こえるように調整がなされていた。本当に魔法のようなものだが、ヒナに言わせればこれは科学であるらしい。




「こっちにはどれぐらいの部隊がきてるんだ?」


「私の第三部隊、あとは第二部隊と第四部隊が来ているわ」


「ふーん、第一部隊は来てないのか?」


「わけあって、第一部隊は空白状態なの」




ヒナの顔がやや暗くなり、茂利は追及を辞める。空気を変えたいちょうどいいタイミングでゴブリンが飛び出してきたため、茂利は鉄パイプでゴブリンを一撃で葬り去った。




「本当に反動がねえ……」


「私も乗ってるのに、転ばれたらたまったものじゃないからしっかり調整してるわよ」


「なるほどね……」




時をおり敵をみつけて、火球を飛ばすヒナ、暴走族のように鉄パイプを振るう茂利。ちぐはぐなコンビだが今のところ、移動は順調に進んでいる。




「あのさ、答えられなければ黙秘でいいんだけど、そっちの世界ってどんな世界?」


「議会制民主主義の形態をとっているけど、人体にタグを植え付けてサイバー化が進んでいる情報社会と言えばいいのかな……?あなたの脳内から色々とそちらの世界の情報を見たけど、かなり違うようね」




何気におっかない事を言われた気がした茂利は、思わず頭を押さえそうになったが運転中のため我慢してハンドルを握る力を強めた。防衛本能から力んだだけである。




「勘違いしないで頂戴、思考をトレースして得ただけで……意識の操作や乗っ取りはできないから」


「……そういう事じゃあないんだよなあ……」


「政治や議会は天然の人間が担っていて、社会を回してるのは情報素生体、非武装の社会巫女と呼ばれる私たちみたいな人造人間ね」




キャパがオーバーしそうな情報がたくさんでてくるが、わざわざ人型にしている訳はなんとなく茂利には理解できた。


茂利の世界ですら自動レジなど、機械化導入で効率のいいシステムが出来上がっても年配層などから『温かみがない』『客として扱われていないみたいだ』という声が上がるのだ。おそらく似たような理由で、あえて人の形態をとっているのだろう。




「巫女ってことは……男性型はいないのか?」


「いないわね……Y遺伝子の精製と管理が難しくて、成功した事例がないと聞くわ」


「ふーん……女性だらけの社会か……」




ヒナからの話を聴けば聞くほどなんだか歪な感じがしてならない、茂利は言いようのないモヤモヤした感情に包まれた。




「お、発寒は高速道路が一部崩落している以外、これといった被害はなさそうだな」




気が付けば茂利は中央区からそのまま西に走り続けて、発寒へ来ていた。


そしてこれまた被害のほとんどないスタンドを見つけて、茂利はそこへバイクを走らせた。




スタンドの周囲は見通しがよく、コンビニや商業施設もあり、食料の問題もクリアできそうだった。これほど条件がいいところだ、できれば一日くらいここでゆっくりと休みたい。




「ヒナ、内部に敵はいるか?」


「……敵はいないわ……滞在しても問題はなさそうよ」


「そうか、今夜は一旦ここで休もう」




茂利がバイクを止めて、さっそく給油をするとそのまま車庫へ隠すようにバイクをしまう。




「ふう、汗をかいて気持ちわりぃ……」


「二階にシャワースペースがあるみたいね……浴びてきたら?」


「そうさせてもらうが、その前にスーツを洗いたい……絶対に臭くなる」




茂利がそういうと、ヒナが軽く周囲を見渡してから茂利に向き直る。




「周囲にも敵影なし……私が食料を探してくるから、あなたはスーツを洗うなりシャワーを浴びるなりしてていいわよ」


「いいのか?」


「ほぼずっと、運転しっぱなしだったんだしね。男性に負担を強いちゃったわけだし、このくらいさせて頂戴」




ヒナがそういうと、ゆっくりコンビニへ向かって行った。




「あの言い方だと、相当に男性って貴重なんだろうなあ……」




とりあえず、戻ってきたヒナがすぐにシャワーに入れるように、茂利は真っ先にシャワーを浴びることにした。火照った身体に浴びるシャワーは最高だった。

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