第4話 これはファンタジーか??
一旦物陰にバイクを止め、茂利は真っ先に荷物から牽引用のロープを取り出した。車の重量にも耐えられる頑丈なものだ。
それを目覚める様子のない、ヒナ?と呼ばれていた少女に巻き付けて、自分の背中に固定する。抱きかかえて、鉄パイプを片手に運転なんか普通にできやしないからだ。
「苦しくは……なさそうだな」
ロープで自分の背中にヒナを固定し終わり、茂利は背中の感触からそう判断する。
密着はしているもの、窮屈さはそれほど感じないよう配慮しているのは勿論、ヒナの軽い身体からそう判断した。
「鉄パイプは……身を守るためにも必須だな」
質の悪い珍走団みたいなシルエットになりそうだが、襲ってくる外敵がいる以上、武器を持たないという選択肢は茂利にはない。
軽く体をゆすり、ズレないか確認したのち、茂利は走り出す。
『敵は南から東へ進行している……まだ西は脅威が軽いはず』
もしかしたら生き残りで巻き込まれた同朋がいるかもと、淡い期待を持ちながら茂利はバイクを走らせる。
「グギャ!」
「シャー!」
「さっそくおでましか!」
ゴブリンが進行先で棍棒を片手に茂利へ威嚇をし、馬鹿正直にとびかかってきた!
「薙ぎ払い!」
「!」
ゴブリンの一体を鉄パイプで払いうちにしたところで、茂利は予想より自分の体感が揺らいだのを感じた。下手に鉄パイプをふるおうものなら、ゴブリンの体重と相殺しきれず自分がコケてしまうだろう。
バイクでコケるなど、危険極まりない。さらに背中の彼女を考えると、絶対にそれは避けないといけない。
「チ!」
茂利がゴブリンの片手に鉄パイプを当てて、武器を叩き落とす。まずは逃げるのを最優先することにしたのだ。
「道が悪いとスピードが出せないな……それにどこかで一度給油をしたい……」
周囲に注意を払いながら、茂利は慎重にバイクを進めていると、目の前にゴブリンがまた見える。それも三体が道をふさぐようにしていたのだ。
「やべ!」
「このまま進んで頂戴……ファイアボール!」
バイクを止めて戦闘か、Uターンを考えた茂利の後ろから少女の声がする。すると目の前に火球が複数飛んでいき、ゴブリンを蹴散らした。
「な!魔法!?」
「情報操作で進路をある程度整地するわ、スピードを落とさず目的地へ向かって頂戴な」
「お、おう」
先ほどまで荒れていた道路は、ヒナの言う通り整地されある程度マシになっていく。
「どうやら、助けられたみたいね。感謝します……。私は第三部隊統括巫女、情報素生体ナンバー12、ヒナと呼んで頂戴」
「俺は、河原茂利、シゲでもトシでもどう読んでくれても構わない」
「そう」
短く返した少女に対して、茂利は色々と追及したい気持ちを抑えていた。情報素生体、統括巫女……。自分のいた世界ではまず耳にしない、SF小説で見るかどうかといったキーワードが頭に残っていた。
『認識タグ、管理処置をされていない……やはり天然の男性ね……』
「あのさ、ヒナさん……。直球に聞くけど、あんたらこの世界の人間じゃないだろ?」
茂利の身体を調べていたヒナに、茂利がそう尋ねる。
「……ええ。この空間内で限定すれば、あなたもこの世界の人じゃないわよ」
「まじかぁ……」
「ストレス負荷がかかったけど、バイタルは平常……。男性にしては強い個体……いえ、人なのね」
後ろを向いてヒナの顔を見たいが、バイクでわき見運転は危険である。ましてやゴブリンやモンスターが徘徊するような場所で、集中を切らせるなど危険極まりない。ただ、彼は彼女がどういう表情で語っているのか見たかった。
口調や言葉の表現チョイスなどから、茂利は彼女の来た世界がある種のディストピア世界である可能性を考えていた。
進んでいるうちに、茂利は比較的ダメージの軽そうなガソリンスタンドを見つけた。
「あ、スタンドだ!一旦止まります」
「わかったわ」
茂利がバイクを止めると、スタンドが無人であることを確認して、やむなく給油ホースを握ってバイクへ給油を始めた。
泥棒のような真似をして、やや心が落ち着かないというか下腹部がフワっと浮いて軽い尿意を感じそうな罪の意識を感じてしまったのだ。
「化石燃料は不便ね。ところで……」
「ん?」
「そろそろ紐を解いてくれないかしら?」
ヒナがそういうと、茂利が今の今まで自分がヒナをおんぶしている状態であることに気が付いた。
「あ、すまない。」
運転中はまだしも、休憩のタイミングがあればやりたいことや用を足したい事もあるだろう。男女がくっついたままだと言い出しづらい、今の今まで気が利かなかった自分を恥じながら茂利はロープを解いて彼女を背中からおろした。
「……お手洗いならスタンドの中にあるはず、もし荒らされていなければ自販機から飲み物を買えるはずだ。一応財布を渡しておく」
「ありがとう」
財布を受け取ったヒナがすたすたと、スタンド店内の中へ姿を消した。ふと一人で行かせてしまって大丈夫だろうか不安になったが、先ほどの彼女が放ったファイアボールを思い出し、一人で何とかなるだろうと茂利は判断した。
「って!!スタンドは火気厳禁だ!!」
キャップをしめて、キーを抜くとすぐさま慌てて茂利がヒナの後を追った。ガソリンスタンドで火災なんて起こされたらたまったものじゃない。目立って敵を呼び寄せたら大変だと、注意しに彼は店内内へ向かった。
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