第24話「特殊能力」

 

 俺たちのパーティーは意外と強かった。というか、今のところ無敵である。


 あれからさらに周辺の村を巡り、王国の直轄領まで足を伸ばして種子を集め回った。


 その間に倒したアンデッド、魔物、そしてカオスドラゴンの盗賊は計100体を超えるだろう。


 何人かの盗賊はカオスドラゴンの隠れ家を知るために、わざと逃がすことにした。


「本当にいいんか?」


 せっかく捕まえた盗賊を罰も与えずに逃がすことに、モックは少しためらっているようだ。


「どうせ盗賊団の秘密は話せないようになっているんだろ?」


 メイは苦笑いしながら俺に視線を向ける。


「ああ、尋問なんて時間の無駄だからな。おい、行っていいぞ」


 俺がそう言って盗賊の背中を叩くと、男は一目散に逃げ出していく。それを目で追いかけながらティリーがこう告げる。


「あの者を尾行しますか?」

「いや、そんなことをしても途中でバレる。もしくは隠れ家近くで敵の盗賊に囲まれて危うくなる」

「けどカオスドラゴンは放置しておけねえぜ。いったいどうするんだ頭領?」


 モックが期待をするような目を俺に向ける。たぶん、何か策があるのだろうと思っているのかもしれない。まあ、実際そうなんだけどな。


「ミルノドリって知ってるか?」

「小型の飛行魔物ですね。手のひらサイズの鳥型魔物で、最弱なので人間への脅威は低いと言われています」


 ティリーが即答する。


「そのミルノドリの習性は?」

「たしか、頭頂部にある黄色い羽には魔力を溜めこみます。討伐したさいは、この部位は素材としても高く売れると聞きますが」

「ああ、実は昨日のうちに1匹だけ生け捕りにしておいたんだよ」


 腰袋の中に手を入れ、中に入った野鳥に似た魔物を取り出す。まだ生きているので「ピキー」と鳴く。


「ん? そいつはミルノドリなのか? 頭に黄色い羽がないぜ」


 モックが取り出した魔物を見て首をひねる。


「生きたまま頭頂部の羽を抜いておいたんだよ。で、こいつを明日の夜あたりに逃がすとどうなるかわかるか?」

「逃がす? なんでそんなことするんだい?」

「さっき逃がした盗賊の背中に、こいつの羽を付けておいたんだよ。こいつの習性として、どんなに離れた場所にあろうが一直線に羽のある方向に向かって飛んで行く」


 ティリーがそこで「なるほど」と手を胸の前でポンと合わせる。


「地図上の現在位置からミルノドリの飛んでいった方向に線を引くのですね。今回のように盗賊を捕まえて逃がすを繰り返せば、その線の交差点がやつらが逃げ込んだ盗賊の隠れ家になると」


 ティリーは正確に俺の策の意図を理解していたようだ。


「そういうことだ。モック。マップ系の魔法は使えるだろ? 現在位置を知る基本魔法だ」


 俺はモックに視線を向ける。


位置表示ポジションディスプレイか? そんなの魔術師見習いだって使えらぁ」

「モックのレベルなら精密さはどれくらいだ」

「そうだな10ナールほどの誤差が出る。まあ、見習いでも50ナールほどだがな」

「それくらいなら十分使えるよ」


 俺の作戦を聞いていたメイはぼそりとこうこぼす。


「頭領ってけっこうずる賢いよな」

「そうか?」

「頭領の作戦なら逃がした盗賊をわざわざ追いかける危険も手間も省ける。それでいて敵の隠れ家もわかる。そういうの嫌いじゃないぜ」

「まあ、俺が独自で考え出した策ではないんだけどな。昔、知り合いのレンジャーから教えてもらったんだよ」


 そうやって、何度か盗賊の一味を捕まえては逃がすということを繰り返しているうちに、カオスドラゴンが拠点とするだいたいの場所は割り出すことができたのだ。


 それらの報告は、モックの使い魔を飛ばしてチャーチの街へと送る。盗賊団の件はレイシーに相談しなくてはならない。そのためにも資料は必要だろう。


 ある程度の種子や球根が集まると街に戻ることにする。


 街に戻った俺はすぐに城の書斎を訪ねた。


「ご苦労様でした。大変だったようですわね」


 レイシーが労いの言葉をかけてくれる。それだけで、疲れが少し癒されるような気がしてきた。


「ティリーもモックもメイも、みんな強かったからな。だいぶ楽はできたよ」

「報告書を読みましたが、奴隷商の話とカオスドラゴンという盗賊団は放置できませんわね」

「でも盗賊団は隠れ家が判明したし、そこから奴隷商の方も連鎖的に釣り上げていけばいいさ」

「そんな簡単に行きますかねえ」


 書斎の扉がノックされる。


「どうぞ」

「ゲイブリエルです。冒険者ギルドの方から中間報告書がいくつか提出されたので、ご確認ください」


 ゲイブリエルが書類の束を持って入室する。


「そこに置いておいて、あとで確認するわ」

「では、私めはこれで失礼……あ、それとエシラ殿」


 彼が俺を見る。


「なにか?」

「メイドのロリーナとイーディスが何か話したい事があるようです。後でお時間をいただけるとありがたいと言付ことづかりました」


 なんだろう? まあ、あとで話を聞けばいいか。


「わかった」

「では、失礼いたします」


 ゲイブリエルは下がっていった。


「なんだろうな? ま、とりあえず冒険者たちの報告書の方を先に処理するか」

「ええ、そうですわね」


 俺たちはそれを読んでいく。最初は王都に行ったアヤメからだった。


 彼女の報告は、最初の数ページは平和そのものだった。街は通常通り機能し、活気はなくなっているものの、住人たちは平穏な日常を送っていると。


 ただし、住人の行動は制限され、街に出入りできる人間も限られているとのことだった。


 さらに、王都を実質支配しているのはカドリール王子ではあるが、その影で彼を操るかのように存在する一人の女がいるらしい。


 王子から『マスティマ』と呼ばれる彼女は、常に王子の側にいて助言を行っているようだ。

 彼女が何者かは現在調査中とのことで、報告書は締められていた。


 ちなみに報告書は、彼女が放った『シキガミ』という使い魔が送ってきたものである。他の冒険者たちも、パーティー内にいる魔導師の使い魔によって報告がされていた。


「やはりカドリール王子は操られていたか」

「問題は彼女が何者かよね」


 レイシーはふぅとため息を吐く。


 こればかりは情報が少なすぎて答えは出ない。


「他の冒険者の報告を見てみよう」


 王都以外にも二手に分かれて国内にある貴族領を調べてもらっている。


 こちらは王都よりかは難易度が低いので、それほど危険も無く調べられるだろう。


 中間報告書では、北西に向かったパーティーが『未だに生きている街を発見できず』との短い報告をあげてきていた。さらに『自我を持つアンデッドの集団を見かけた』との不穏な情報も書いてあり、前途多難な未来を示唆しているようでもあった。


 というか、この集団ってカオスドラゴンと関係あるかもな。


 その報告書にレイシーはこんな感想を抱く。


「アンデッド化は思った以上に進んでいるみたいね。むしろ王都がアンデッドに浸食されていないのが不思議なくらいだわ」

「たしかにな。なにかしらの秘密が隠されているのだろうな」


 南西に向かったパーティーは、キャッツ公爵領のチェシャーという街に生存者がいることを確認している。


 ただし、ミハエル・キャッツ公爵は行方不明で、現在の統治者は公爵夫人のようだ。


 だが、街は人口が半減していて、その理由の一つが男がまったくいないということだった。これはまるでテニエルの街と同じじゃないか。違うのは女性の生存者が感染していないことか。


 ここでもあの怪しい奴隷商が絡んでいるかもしれない。こちらも情報が足りないな。


「はぁ……これではキャッツ公爵から兵を借りることも無理のようね」


 レイシーがさらにため息を吐く。


「まだ西の方の状況はわからないぞ」

「けど、王都から離れれば離れるほど、派兵は難しくなるわ」


 何千、何万もの兵が移動するのだから、どうしても行軍速度は人一人が移動するよりは遅くなる。さらに距離が遠くなれば、それだけ多くの食糧物資を持たなくてはならない。

 派兵する側もかなりの負担を強いられるはず。貴族にとっては王家の誰が統治しようと構わない。そんな状況であればカドリール王子に付いてもいいのではないかという貴族も出てくるだろう。


「最悪、諸侯の助けを借りずに自力で解決した方がいいかもな」

「そんなことができるのなら、最初からやってるわよ」


 レイシーは少しふてくされたように反応する。


「方法はないこともない」

「どうするのかしら?」


 彼女は呆れたように俺の顔を見る。


「少数精鋭で内部から潰すんだよ。クーデターが成功したのだって、内側から仕掛けられたからだろ?」

「わたくしたちもクーデターのようなことを起こせばいいと?」

「ああ。だが、少数精鋭といっても、最低でも200名は人員が欲しい」


 街の住民は150名しかいない。しかも戦える人数となると、もっと少ないだろう。


「足りないわね」

「他の貴族に兵を借りるということより、協力者を見つけて仲間にする方が早いかもな」

「そうですね。そのことも念頭に入れて今後のことを考えましょう」


 悪い方にばかり考えていても仕方が無い。


 出来る範囲で可能な答えを探せばいい。



**



 城内の調理場を尋ねる。


 書斎の掃除にやってきたメイド見習いの子に聞いたところ、ロリーナとイーディスはそこにいるとのことだった。


「ロリ姉さん、イーディス、来たぞ」


 調理場は扉がないので、直接中へと声をかける。


「ご主人さま!」


 と嬉しそうな顔で近づいてくるイーディスと、その後ろからだるそうにやってくるロリーナ。


「なんか話があるとか?」


 俺は年上であるロリーナの方にひとまず話を振る。


「エシラさんにお話というか、まあ、見てもらった方が早いと思うので」


 そう言った彼女の身体が、ふわふわと宙に浮く。


「え? ロリ姉さんって飛行魔法とか使えたの?」

「ううん。日常魔法でさえ使えないよ」


 と苦々しく笑う彼女。


「じゃあ、それは?」

「なんなんだろうね?」


 と、浮いている本人が首を傾げる。わかってないのかよ!


「あと、もう一つあるの」


 彼女は浮遊していた身体を床に降ろすと、急に身体が大きくなる。


「へ?」


 俺が驚いていると、彼女の姿は10代後半くらいの少女へと変化した。


「なんか、自分の年齢を変更できるみたいで、これが本来の私の姿なんだよ」


 そう自慢げに答えるが、27歳に戻ったということか。どう見ても俺より年上の女性には見えないんだけどな。まあ、童顔というやつか。


「7歳の姿のままだったのは、もしかしてあの時点で能力が発動していたってことか?」

「たぶんね。あの変な魔石で強制的に若返らせられて、自分の姿を勝手に固定していたみたいなの」

「戻れたのに戻れることに気付いていなかったわけか」

「うん、そうなんだと思うよ」


 ロリーナの秘密がこんなところで明かされるとは。とはいえ、元の姿に戻っても年齢よりも幼いってのは変わらないか。


 次にイーディスがロリーナに代わり俺の前に移動する。まさか彼女にも特殊な能力が芽生えたというのか?


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