第21話「新たな冒険者パーティー」
目の前にいるのはレイシーのニセモノ。あの『リベリオン』とかいう詐欺師野郎だ。
「ほほう、よくわかったな」
「レイシーはまだ恋というものをわかってないんだよ。だから、あそこで頬を赤らめるなんてありえない。俺が騙されると思ったか?」
「なるほどなるほど、お主は強敵じゃのう。これは説得のしがいがあるというものじゃ」
「なんでこんなことをした?」
「お主が言ったのじゃよ。『もっとうまくやれ』と」
ああ、たしかに言ったな。こういう手も使ってくるとなると油断も隙もない。悪魔の囁きには注意しないとな。
「今回は交渉決裂だ! 次も俺を騙そうとしたなら、もうおまえの言葉を全て信じないからな。自分たちが正しいと思うなら、正攻法で説得してみろってんだ!」
「それは手厳しいのう」
そう応えながらも余裕がありそうな感じだ。本当にムカツク。
「とっとと戻せよ!」
その言葉で再び暗転して、表情が少しだけ変化したレイシーが目の前に現れる。
「レイシーだよな?」
「そうですわよ。もしかして、『リベリオン』と話されたのですか?」
俺は奴との会話をかいつまんで説明する。
「まあ、それは大変でしたね」
「……今度は本当に本物だよな?」
俺は疑ってしまう。
「まあ。そうですわね。わたくしだと証明するものは何もありませんからね。いえ、あなたはニセモノのわたくしを見破ってくれたのですよね。それだけでも、なんだか嬉しいですわ」
彼女はそう言って微笑む。
「いやいや、今のレイシーが本物かどうかの判断もできてないんだから喜ぶ意味がわからねえよ」
「いえ、あなたとは出会ってそれほど経っていないというのに、わたくしのことを理解していてくださいます。それが嬉しいのですよ」
これは本物のレイシーなのだろうかと、俺はまだ疑っているというのに。
ティリーに宣言したように、これは本格的に彼女と仲良くならないとなと、反省するのであった。
**
「そういや、セッティー司祭と会ったんだって?」
書斎のソファーでくつろぎながら、俺は正面の机にいるレイシーに問いかける。前に面会を求めてきたこともあったな。
「ええ。蘇生への感謝の言葉と、あとは10歳以上の孤児を街で面倒を見れないかとのことだったわ」
「そうか、教会は司祭とシスター一人しか蘇生できなかったんだもんな。あ、ラビも入れれば3人か」
「さすがにそれで孤児全員の面倒を見るには人数が足らないってことで、見習いとして街の人の手伝いをさせてはどうかって提案があったの」
10歳以下でも奉公に出されるような世の中だし、10歳以上であればまだマシな方か。まあ、こういう考え方自体が間違っているのだけどな。
「教会としては養蜂もあるし、あれは子供には危険だしな」
「それで、わりと年齢が高めの子には城の見習いメイドとして働いてもらうことにしたの。あとは、仕立屋とか鍛冶屋とかギルドのある酒場とかですわね」
「なるほど」
孤児たちがそれぞれの技術を手に入れれば、将来食うに困ることもないだろう。
本来なら、子供は保護されて誰もが平等に学べること環境が必要だ。貧富の差が激しいのも教育がしっかりなされていないからである。
もし自分が王になったのなら……いかんいかん、こんなのはただの権力欲だ。
たぶん、『リベリオン』の言った「真の王としてこの世界に君臨」という言葉を意識してしまっているのだろう。
俺は首を振って邪念を追い出す。
と、扉がノックされた。
「ゲイブリエルです」
「どうぞ」
レイシーに促されてゲイブリエルが入ってくる。
「殿下、工兵部隊の隊長から陳情書が届いております」
彼は部屋の真ん中の大きな机に座っているレイシーへと声をかける。俺が盗賊の頭領といっても、裏で実務を担当するのは王家の人間であるレイシーなのだから。
「陳情? 何か問題があったのかしら?」
「段々畑は順調に完成しているようですが、畑に植える種が足らないと」
「倉庫には残ってないの?」
「種として使えるような食材はありませんね。このままだと畑だけ完成して、育てる作物がないということになりますが」
「そうね。近くの村に分けてもら……いえ、壊滅しているのでしたわ」
「次の季節に植えるために、村の倉庫で種や球根を保存している場合もあります。周辺の村を回ればそれらを集めることができますが……」
ゲイブリエルの提言は歯切れが悪い。俺はその問題点に気付き、口を出す。
「壊滅した村はアンデッドの巣窟だ。戦闘経験のないもの。特に少人数での戦闘を行える者でないときついと?」
「はい。エシラ殿の言う通りです。アンデッドだけなら兵たちでも対応できるでしょうが、彼らは人数も少なく、城の警備を担当しております。工兵に至っては連日の畑作りで疲労しておるでしょう」
それに彼らは冒険者のように少人数のグループでの戦いに慣れていない。
「冒険者に依頼されますか?」
レイシーがそう提案するが、それは無理だ。俺は状況を説明する。。
「今、冒険者は出払っている」
「そうですね。諜報活動で各地に散らばっているのでしたわ」
今、この街にいるもので少人数でも戦える者……。
「俺が行くしかないか」
「それならばわたくしも」
トップが二人もいなくなるのは今の段階ではマズいな。
「いや、レイシーは裏で実務をこなしてくれないと困る。そうだな、ティリーを貸してくれ」
「前衛と後衛の二人だけでは危険では? 敵はアンデッドばかりではありません。本当の盗賊やアンデッド化していない魔物が現れた場合、かなり窮地に追い込まれます」
確かにそうだ。アンデッドだけなら俺一人でも対処できるが、レイシーが言ったような事態の場合はかなり危険だ。
「前衛職がもう一人と、後衛のできれば魔導師か弓使いがいればいいんだが」
「私めに心当たりがあります」
ゲイブリエルがそう言って畏まるように頭を下げる。
**
冒険者ギルドの扉を開ける。
酒場と併設してることもあり、まばらに客は入っていた。
「いらっしゃいませ」
給仕の子は12、3歳くらいの少女だった。初めて見る顔だが、たぶん孤児院の子が働きにきているのだろう。この街は人手不足なので、そちらの方にもお願いしたと聞いていた。
「ギルド長に用があってきたんだ。彼は?」
「2階にいらっしゃいます」
「ありがとう」
そう礼を言って、階段を上がっていく。
扉の前でノックをすると「失礼する」といって入っていく。
「よう、頭領じゃないか。元気か」
彼は事務机の上で酒を飲んでいた。彼と会うときはいつも呑んでいるような気もする。
「今日はモック個人に用があって来た」
「おう、なんだい? 冒険者はまだ帰ってきてないからな。クエスト依頼なら無理だぞ」
モック個人に用があるといったのに、ちゃんと聞いていないな。こりゃ。
「ゲイブリエルから話は聞いた。あんた、昔冒険者だったんだって?」
「ああ、その話か。いちおう銀級の資格は持ってたんだがな。それがどうした?」
銀級か。それならそこそこ頼りになるな。
「あんた個人にクエストを依頼したいんだ。冒険者が出払っていて人がいないんだろ? しかも今は緊急時だ。第二王……いや、盗賊の頭領たる俺の権限で協力してもらうよ」
「ははは、まあ、しかたねえな。少し身体なまってるかもしれんが、肩慣らしにはちょうどいいかもしれん」
「じゃあ、協力してくれるんだな」
「ああ、その前にクエスト依頼の書類を持ってきてるんだろ? そいつを見せてくれないか」
「ああ、これだ」
俺はレイシーが作成した書類を渡す。モックはすぐにそれに目を通した。
「なるほど。これにはあと一人必要ってわけだな」
「ゲイブリエルさんが、あんたに聞けばもう一人戦える奴を教えてくれるかもと言っていた」
「おう、任せておけ」
そう言って機嫌良くガハハと笑うとジョッキの麦酒を飲み干した。
「ちなみにあんたは昔何の職業だったんだ」
「オレか? オレは魔導師だ」
右手で力こぶしを作りながら彼は答えた。筋肉系魔導師か。ある意味頼もしくもあるが、少し暑苦しいような……。
**
モックについて街の南区の方へと歩いて行く。
「どこに行くんだ?」
「鍛冶屋だ」
なるほど、鍛冶屋は実力のある剣士崩れがなる場合も多い。それに実際に作った武器を試し切りなどすることもあるから、一般人よりは武器の扱いに慣れているはずだ。
鍛冶屋の看板がある建物を脇からぐるりと裏手へと回ると、高熱の炉と鍛冶用金床、冷却用のバケツが置かれた作業場であった。
そこで一人の男が作業をしている。
「よお! グリフィ!」
モックが声をかけたのは彼と同年代くらいの白髪の男。こちらもモック同様に筋肉もりもりの体格だ。彼は今、鉄を打っている最中で声をかけても作業に集中していて返事をしようとはしない。
「ちっ! タイミングが悪かったな。あいつ仕事バカだからな」
「聞こえてるぞモック」
グリフィと呼ばれる男は、熱せられた鉄の棒状のものを水へとジュッと付けるとこちらを向く。
「久しぶりだな」
「二日前に城の前であっただろうが」
「そうだったか?」
「おまえは酒の飲み過ぎだ。で、何か用か? その後ろにいるのは、我が街の頭領と見た」
「ガハハ、その頭領の頼みであんたに少しだけ現役に復帰してもらいたくてな」
「現役? ワシはもう剣で戦わぬと決めたのじゃ。帰ってくれないかのう」
この二人は親しい間柄に見えるが、モックの方は酒が入っているからな。真面目な話は説得力がないだろう。そう考えて、俺の方からグリフィに話しかける。
「はじめまして。成り行きとはいえ、この街の頭領になったエシラ・リデルと申します。この街の食糧問題を解決するのに、作物の種が必要なのです。そのためにも周囲の村を回らなければなりません。冒険者はすでに出払っていて、クエストを依頼できる人物が限られているのです。ですから、お願いします。この街のためにも協力していただけないでしょうか?」
俺が頭を下げると、グリフィは額の汗を拭き取りながら息を吐く。
「頭を上げて下さいませ。頭領に頼まれたとあっては協力しないわけにもいきません。ですが、武器やら農具やら作らなければならないものが多すぎて、こちらも人手が足りないのですよ。ワシがいなくなれば、かなり効率が下がるでしょう」
かといって、種が手に入らなければ農具を作っても意味はなくなるし……。
「そこをなんとか」
「そうですな……ワシが直接協力することはできんが、代わりの者に協力させることはできるかもしれん」
「代わりの者?」
俺が首をひねっていると、グリフィが建物の奥の方へと呼びかける。
「メイ! ちょっとこっちこい!」
「なんだい爺ちゃん」
出てきたのは18歳くらいの赤毛のショートカットの少女。腕は鍛えられているのか、少し筋肉のついた太さだ。
かといって、筋肉隆々というわけでもなく、太りすぎでも痩せすぎでもない。胸もそれなりにあるので、スタイルはいい方なんじゃないかと、そんな印象を抱いた。
彼女が代わりの者なのか?
たしかに頼もしそうである。
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