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案の定、その日も隣人は出掛けていたらしく、まだ空も薄暗い早朝に、ドアを閉める音が響いてきた。
理菜はパジャマの上に上着を羽織ると、そのまま部屋を出て、隣家のインターホンを鳴らした。
「・・・・なに?」
明らかに迷惑そうな顔をして、薄く開けたドアの隙間から、強烈な酒の臭いを纏った女が理菜を見る。
他人の家を訪ねるには非常識な時間。
それは理菜も重々承知の上だった。
それでも、理菜にはこの隣人に言わなければならない事があった。
「お出かけするのが分かっているなら、チャーちゃん、うちで預かりますから。もう、閉め出したりしないでください。可哀想です」
「は?」
「さっきも、ベランダからうちに来たんです、チャーちゃん。きっと、寒かったんですよ。今、うちで寝てます」
「・・・・そ」
興味の欠片もない表情でそう呟くと、女はドアを閉めてしまった。
唖然としてその場に立ち尽くしていた理菜だったが、再びドアが開き、女が顔を覗かせた。
「じゃ、これ」
言うなり、猫のエサとおぼしき袋を、半ば理菜に押し付けるようにして渡す。
「えっ?!なんですか、これ」
「じゃ、しばらくヨロシク」
「いや、ちょっと!」
理菜の言葉を聞くことなく、女はドアを閉じた。
仕方なく部屋に戻った理菜は、女に押し付けられた袋の中身を確認したのだが。
開け口をきちんと閉じていなかったのだろう。
開けたとたんに、カビ臭さが鼻についた。
予想通り、袋の中味は猫のエサ。
そして。
水入れとエサ入れではないかと思われるプラスチックの器が、それぞれひとつずつ。
どちらも酷く汚れていた。
ポタリ、と。
滴が床に落ちた。
理菜は自分でも気づかない内に、泣いていた。
いつの間にか側まで来ていたチャーの長い尾が、理菜の足を撫でるように、ゆらりゆらりと揺れていた。
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