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それ以降も度々、閉め出しを食らっては、ドアの外で主人が扉を開けてくれるのをじっと待つチャーの姿があった。

そんなチャーを見るたびに、理菜はインターホンを鳴らして隣人を呼び出し、チャーを中に入れてやった。

さすがに決まりが悪くなったのか、暫くすると、閉め出されたチャーの姿を見ることもなくなり、寂しくも安心をしていたある日の夜中。


眠っていた理菜は、何者かの気配を感じて目を覚ました。

玄関の鍵は間違いなくかけたし、ドアガードもしている。

ベランダへのガラス戸のロックもしたはずだ。

とは言え、理菜の部屋は、アパートの三階。入ろうと思えば、泥棒ならベランダから侵入することなど、容易たやすいかもしれない。

何か武器になるものはないかと、手近にあった雑誌を丸めて片手に持ち、理菜はそっとベランダに近づいた。

だが、カーテン越しに人影は見当たらない。

気のせいかと、ホッと息をついたとたん。

足元で微かに動く小さな影に気付いた。

思い至ってハッとし、理菜は細く開けたカーテンの隙間から、外を覗き見る。

と。


「チャーちゃんっ?!」


ガラス越しに、チャーがじっと理菜を見つめていた。


「どうしたの、こんな夜中に!」


急いでベランダに続くガラス戸のロックを外し、戸を開けると、理菜はチャーに呼び掛けた。


「おいで」


チャーは迷っているのか、じっと理菜を見たまま動かない。


「ほら、遠慮しないで。一回来たことあるでしょ?」


チャーと目線を合わせるようにしゃがみ、理菜はチャーに笑いかける。

すると、チャーはゆっくりとした仕草で、部屋の中に入ってきた。


「また、閉め出されちゃったの?」


部屋の隅で丸くなって目を閉じるチャーをそっと撫でると、絡まった毛束がゴワゴワとしている。

ロクに毛の手入れがされていないのだろうことは、猫を飼ったことの無い理菜でさえ、容易に想像がついた。


もしかして、隣人はまた、チャーを置いてどこかへ出掛けてしまったのだろうか。

明日になったら、お隣に連れて帰ってあげないと。


そう思いながら、理菜は再び眠りについた。



その後何度も、チャーは夜になると、ベランダ伝いに理菜の部屋へ来るようになった。

飼い主でもない隣家の部屋に来ることに、チャーなりに遠慮をしているらしく、カリカリと、ベランダと部屋を隔てるガラス戸をひっかく音は、静かにしていなければ聞こえないほどに控えめで。

相当長い時間を外で過ごしているのだろう、理菜の部屋に入る頃には、チャーの体はすっかり冷えきってしまっている。


「キミ、ちゃんと可愛がってもらえてるの?」


冷えきった体のチャーを何度も部屋に迎え入れる度に、理菜の心には、静かな怒りが蓄積されていった。


「キミにだって、愛される権利があるんだよ」


ちゃんと、言わないと。

言葉にできないこのコの代わりに、私が。


蓄積された怒りが心を満たしたその夜。

理菜は小さな決意を胸に、拳を握りしめた。

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