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急遽職場に連絡を入れ、午前中の有給を申請すると、理菜はチャーを部屋に残し、近所のショッピングセンターに入っているペットショップへと向かった。
今まで一度も動物を飼ったことが無い理菜には、さしあたって何が必要なのかもよくわからず、入り口付近でまごまごと立ちすくむ。
すると、感じの良い店員が理菜に声をかけてきた。
「何かお探しですか?」
「えーっと・・・・」
正直なところ、何を探していいかも良く分かっていない状態の理菜は、途方にくれて店員の笑顔を見る。
「お客様?」
「あの・・・・」
「はい?」
「何が必要なのか、分からなくて・・・・」
最後は消え入りそうな声で、理菜はやっとの思いでそう告げた。
すると。
「初めてペットを飼われたんですね!」
店員の顔が、嬉しそうに輝く。
正確には、理菜はチャーを飼っているわけではない。ただ、預かっているだけだ。
それでも、店員の明るい笑顔に緊張が解れるのを感じ、敢えて訂正することなく頷いた。
「何を飼われたのですか?ワンちゃんですか?ネコちゃんですか?」
「あ、猫を・・・・」
「種類は?」
「えーっと・・・・」
口ごもる理菜に、店員は理菜を猫の展示スペースへと誘導する。
「こちらに、似た感じのネコちゃんはいますか?」
言われるままに、理菜はガラス越しの猫達の中から、チャーに似ている猫を必死に探した。
その中に。
チャーを小さくしたような猫がいることに、理菜は気付いた。
ラベルに書かれていた種類は、【メインクーン】。
「多分、これです」
「ああ、メインクーンですね!可愛いですよねぇ・・・・毛並みも綺麗ですし。ネコちゃんにしては、大きくなりますけどね」
店員は、愛おしげな目を猫へと向ける。
この店員の、せめて半分でもいい。
なぜあの隣人は、チャーへ愛情を注いであげないのだろうか。
「ではまず、ご飯ですね。ご飯はこちらがお勧めです。トイレはご準備されてますか?ではこちらがよろしいかと・・・・」
次々と必要なものを勧めてくれる店員の後に付いて歩きながら、理菜はそっと、目尻に溜まった涙を指で拭った。
「チャーちゃん・・・・お出迎えしてくれたの?」
玄関のドアを開けると、すぐそこにチャーがいた。
ニャオ。
答えるように、チャーが鳴き声をあげる。
「ふふふ、ありがと。すぐ、お水とご飯あげるから、ちょっと待ってね」
店員に教わった通りに、理菜は一緒に買い揃えた可愛らしい器に、買ってきたばかりの猫のエサを入れ、チャーの前に置く。
同時に、色違いの器にミネラルウォーターを入れ、エサの入った器の隣に置いた。
チャーはとまどっているのか、理菜の顔とエサの入った器を交互に見るばかりで、なかなか口を付けようとはしない。
「どうしたの?お腹、空いてないの?」
エサと水の入った器を挟んで、理菜はチャーの前に腰をおろした。
「このご飯、好きじゃなかったかな?」
エサを一粒手のひらに乗せ、チャーの口元へ差し出すと。
チャーは、エサではなく、エサを乗せている理菜の手をペロリと舐めて理菜の顔を見上げ、
ミャオ
と小さく鳴いた。
ありがとう。
理菜には、そう聞こえたような気がした。
熱をもつ目頭を押さえる理菜の前で、チャーはようやくエサに口を付けて食べ始めた。
ゆっくりゆっくり時間をかけて、チャーはエサを完食した。
ニャオゥ。
理菜にはその鳴き声が、ごちそうさま、に聞こえたような気がした。
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